護りたいもの

護りたいものは、たくさんあった。
この手で抱えきれないほどたくさんあって。
それを全て手のひらで掬おうとしたら。
何時しか少しづつ、零れていって。
零れていったものを、お前が。お前が一つ一つ。

―――その腕で、拾い上げてくれたから……



初めて俺は、知った。護られることの、意味を。お前に出逢って、初めて知った。


少しだけ怖かったから、その背中に抱きついたら。抱きついたら不思議と、安堵感を憶えた。
「…羅偉……」
そっと瞼を開いて見上げれば、そこには何時ものお前の笑顔は消えていた。その代わりにひどく真剣な眼差しが俺を覗き込んでいた。
「―――馗童…怖いか?」
怖い、と口にしようとしてそして止めた。その前にその瞳がひどく。ひどく優しいものへと変わったから。それを見ていたら、怖さも何処かへと消えてゆく。
「…こ、怖くない…本当だぞ」
「それでこそ、俺が惚れた奴だ」
微笑って、そっと微笑って。それが一番お前のやさしい顔で、一番お前の好きな顔だったから。それを瞼に焼き付けて俺は目を閉じた。


愛しているぜ、と。何時も降らせる言葉の雨。
それが静かに胸に染み込み、そして俺を満たしてゆく。
それが俺をそっと、溶かしてゆく。
何時も護らねばと。大切なものを護らねばと。そればかり必死で。
そればかり必死になって、他が見えていなかった俺を。

―――その手が、その腕が、包みこんでくれていた。


触れるだけの口付けは、何時しか深いものへと変化する。ゆっくりと意識が溶かされる、甘くて深い口付けへと。
「…ふぅっ…はぁっ…ん……」
絡め合う、舌。縺れて重なり合って。そして。そして意識が、痺れてゆく。濡れた音が耳に届く頃には、俺の意識はうっすらと白くなっていた。
「…んんっ…んんん……」
背中に廻した手に、力を込めた。そうしないと何かに飲まれてゆきそうで。だからずっと。ずっと背中に手を廻していた。
―――そこが一番安心出来る場所だって、知っているから。
「…ふ…はぁ…ぁっ……」
たっぷりと唇を味わって舌が離れてゆく。そんな二人の唇を一筋の唾液の線が結んだ。それをそっとお前の舌が舐め取る。その感触に俺はぴくんっと肩を震わすのを止められなかった。
「―――馗童…お前の目、何時もいいなって思ってた」
「…目?……」
「真っ直ぐで、曇りがなくて…すげー綺麗で…いいなぁって、さ」
「…あっ……」
睫毛にひとつキスをされて、そのまま手が胸を弄った。小さな胸の突起に辿りつくと、指の腹でソレを転がされた。
「…あぁっ…ん……」
巧みな愛撫でそれはたちまちぷくりと立ち上がる。痛い程に張り詰めているのが自分でも分かる。けれども。けれども俺にはそれをどうする事も出来なくて。ただ与えられる愛撫に、俺は甘い声を出すだけだった。
「…あんっ…あぁんっ…羅偉っ……」
開いた方の胸の飾りも唇に含まれる。舌で突つかれながら、軽く歯を立てられて。そして舌で嬲られて。
「…あぁ…俺…あぁん……」
「馗童、マジ…可愛いぜ……」
「…馬鹿…何言って……」
「駄目、めっちゃ可愛い」
「…あぁん…ばかぁ…っ……」
触れられている部分と、囁かれる言葉に、俺の身体はただ朱に染まるだけだった。


――――俺が、護ってやんからよ。お前そんな強がるな。

そう言って、伸ばされた腕が。そう言って、抱きしめられた腕が。
どうしようもなく、切なく苦しく。そして嬉しかったから。


…嬉しかった…から……


「―――ああんっ!!」
両足を限界まで広げられて、その中心部を生暖かいものに含まれる。それが口だと気付くのには、先端を舌先が抉った瞬間だった。
「…あぁっ…ん…あんっ…あんっ……」
ぴちゃぴちゃと音を立てながらお前は俺自身を舐める。形を舌で辿りながら、割れ目に歯を立てて。そのたびにとくんどくんと、自身が脈打っているのが分かる。
「…あぁ…ぁ…あっ……」
けれどもそれは寸での所で止まると、そのまま舌が自身から脚の付け根へと行って…そして一番奥の部分へと辿りついた。
「…ら、羅偉…そんなトコ……止め……」
「って濡らさないと、辛いのはお前だから」
「…ひゃんっ!……」
舌が最奥の蕾へ忍び込む。だれにも触れられた事の無い場所がお前の舌によって暴かれていく。濡れた音と、生暖かい感触とともに。
「…くふぅ…はぁぁっ……」
硬く閉ざされた蕾を解すように、舌は丁寧に俺の蕾を濡らした。たっぷりと唾液で湿らせ、入り口がひくんひくんと蠢くようになるまで。
「…はぁ…ぁぁ…羅…偉…っ……」
ひくんっと蕾が収縮したと思ったら舌が離れる。その代わりに真剣なお前の瞳が、俺の前に現れて、そして。
「―――馗童、痛いのは最初だけだかんな、我慢しろよ」
「…う…ん……」
そして俺の全てを包み込むように優しく、微笑った。


その腕が、その手が、何時も。
何時も俺を包みこみ、俺を引き上げる。
ただひとつお前の手だけが、俺を。

―――俺を護ってくれている……


「ひああああっ!!!」
真っ二つに引き裂かれるような激しい痛みが、身体を襲う。全身が割れるような、痛み。巨きく硬い楔が、俺の身体を引き裂いてゆく。
「―――馗童、平気か?」
「…くぅぅっ…ふぅっ……」
そんな俺の髪をそっと撫でる手。そっとキスの雨を降らせる唇。それが。それがゆっくりと俺の痛みを溶かしてゆく。溶かして、ゆく。
「…はぁ…あ…平気…だ…羅偉…俺は…だから……」
引き裂かれる痛みは、まだ消えないけど。けれどもそれ以上に何か。それとは違った何かが俺をゆっくりと支配してくる。それが。それがあるから、俺は。
「爪立てていいかんな。バリバリに」
「…ああ…羅偉……」
多分それが、悦びなんだろう。多分それが、安堵感なんだろう。ひつとになれたと言う、ひとつになったと言う、その想いなんだろう。それが。それさえあれば、俺は。
「――動くぞ…」
「…ああああっ…ああっ…ああんっ……」
それさえあればどんなものでも乗り切れるんだと。どんなものでも乗り越えられるんだと。
「…あああ…あぁ…羅偉…羅偉…あああんっ……」
「…馗童…愛しているぜ…お前だけを……」
「…ああっ…あああっ…ああああ―――――っ!!!!」


そこで、記憶は途切れた。
視界が真っ白になって、そして。
そして俺の中に熱い液体が注がれた瞬間。

―――俺の視界は、真っ白になっていた……




護りたいものが、あった。
たくさん護りたいものがあった。
でも俺は。俺はそればかりで。
そればかりで知らなかった。

―――護られると言う事を……

こうして。こうしてお前が、教えてくれたから。
護りたいと言う気持ちは、護られるとの裏返しだからと。
大事だから、護りたい。大事だから護られたい。


どっちも少しだけ違って、そしてどっちも。
どっちも少しだけ、一緒だから。




――――護りたいもの、お前が俺をそう思うと同時に、俺もそう思っているんだよ。







END


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