真実

真実は何時も語られないまま。
その瞳の色だけが全ての答えだとしたら。
お前はどうしてそんなにも。

―――そんなにも、優しいの?……


誰よりも大切な人と、誰よりも護りたい者と。それが全てただ独りだったなら、こんなにも苦しい事はないのだろう。
「―――どうした?蘭」
背後から気配がして力丸は振り返らずにその名を呼んだ。例え振り返らずともその足音、そして気配で蘭丸だと言う事は、分かったから。
「あ、いや…その…」
「豪鬼の事か?」
言いたそうで、でも言えないその口調が力丸の口許にひとつ苦笑を浮かばせる。何時もそう、だった。言いたい事は、何時も。何時も寸前でひとつ戸惑いを見せる。だから力丸は何時もこうやって先回りをして言葉を繋げる。蘭丸が言いたいことを、言えるようにと。
「…ああ……」
ふわりとひとつ風が通り抜けて、蘭丸は力丸の隣に座った。ぽっかりと浮かんだ月だけが、ふたりを見ていた。
「気になるか?」
「…お前だって、気になって…いるだろう?」
「そうだな、気になっている。でも」
「でも?」
「―――これが運命なら、受け入れるしかないだろう?」
力丸の言葉に蘭丸の表情が変化する。けれども。けれどもそれ以上の事を自分は彼に言う事は出来ない。彼にとって月抄様が全てならばまた。またどんなに豪鬼を大切に思っても、その事がある以上彼はどうする事も出来ないのだから。
どんなに大切に思っても、月抄様に敵対するものを彼は決して容赦はしないだろう。
その忠誠心こそが、その想いこそが今までの彼を形成し、そして今に至るのならば。誰も止められる事も、誰も考え方を変える事も出来はしないのだ。
「…力丸……」
それでも、と。それでもと想う。その瞳を見つめながら、蘭丸は思わずにはいられない。どんなに強い意思と強靭な心を持っている彼でも。それでも微かに見せる苦悩を。その想いを、共有出来ないのか、と。


何時も自分よりも前を歩いていた。
その広い背中が遠ざからないようにと必死に。
必死に、追いかけていた。
何時か隣に並びたいと思いながら。何時かきっとと思いながら。
けれどもどんなに傍に行っても。どんなに近付いても。

―――やっぱり俺よりもずっと前を歩いているから……


「お前は、月抄様が絶対だからな」
もしも、俺が。俺が月抄様を裏切って。
「誰よりも、そうだもんな…豪鬼よりも…俺よりも…」
お前の敵になったとしても、お前は。
「…絶対、だもんな……」
お前は容赦なく、その武器を俺に向けるのだろう。

それがお前の生きる意味。
それがお前の生きている意味。
ただひとつの忠誠心だけが。
それだけがお前をこの地上へと縛り付けている唯一のもの。


手を伸ばして、蘭丸は力丸の頬に触れた。暖かい頬だった。このぬくもりが自分だけのものだったならばと。何度想った事だろうか?
「力丸、お前の中に」
「―――蘭……」
「俺はどのくらい居るの?」
聴きたくて、ずっと聴かなかった言葉。躊躇って、そして。そして言葉に出来なかった事。こんな簡単な文字の組み合わせを、どうして声にする事が出来なかったのか?
「それを答えたら、きっと」
怖かったからか?それとも知りたくなかったからか?分からない。分からないけれど、今は。今はその口から聴きたくて。
「きっと辛くなる」
力丸の大きな手がそっと蘭丸の背中に廻ると、そのまま抱き寄せた。広い、胸。厚い胸板。こうして腕の中に抱きしめられる事が、何よりも蘭丸には嬉しくて苦しい行為だった。
「どうして?力丸」
目を、閉じる。そして蘭丸は命の鼓動を感じた。とくんとくんとするその命の音を。何よりもかけがえのないその音を。
「俺も、お前も」
髪を撫でる指先が。背中を抱きとめる腕が。全部自分だけに与えられているものだったなら。そうだったらきっとこんなにも迷う事も苦しむ事もなかったのだろう。
―――お前が、俺だけのものだったならば……
「俺が月抄様を裏切れない。そしてお前は豪鬼を捨てられない。それだけが真実だから」
見上げて。蘭丸は力丸の顔を、瞳を見つめた。漆黒の瞳の中に宿るただひとつの小さな哀しみを見逃さないようにと。


もしも、この腕が。もしも、この瞳が。
ただ独り俺だけに向けられていたならば。
俺だけのもの、だったならば。
こんな苦しみも、こんな痛みも知らなかった。
ただ俺はお前の腕の中で、丸まっていれば良かった。
誰か他人を大切にする気持ちも、誰かを想う気持ちも。
全てお前だけに向けられていたら。
こんなにもこころは、ばらばらにならなかった。

お前は全てを引き換えにしても月抄様を選ぶのだろう。
だから俺は決してお前を選ばない。
どんなにお前を俺が必要として、そして想っていても。
どんなに俺がお前を…愛していたとしても……

お前は俺を選ばない。俺はお前の傍にはいない。

それでも云って欲しかった。
それでもその口から聴きたかった。
どんなに俺が苦しくなろうとも。
どんなに俺が切なくなろうとも。
お前の口からただひとつ。ただ、ひとつ。

俺への気持ちを、聴きたかったのに。

云わないのが、お前の優しさ。
伝えないのが、お前の優しさ。

…分かっていても、苦しいのは…どうして?


「…それでも俺は……」
微かに宿る哀しみが、お前の答えならば。
「…蘭……」
お前の答えだとするならば。
「…聴きたかった……」
俺はきっと。きっと、嬉しい。


それ以上の苦しさと切なさを伴っていても。


きつく、抱きしめられた。強い腕で、太い腕で。この中にいる事が全てだったならば、何も考えなくていいのに。何も迷う事もないのに。
「―――すまない……」
そう云って、お前は。お前はそっと俺の唇を塞いだ。云わない事が、伝えない事が答えなのだろう。それは。
―――それは言葉よりも何よりも、揺るぎ無い真実だった。



お前の優しさが俺を苦しめる。
お前の優しさが俺を縛り付ける。

…お前の優しさが俺を…俺を……


それでも俺は目を閉じてお前の唇を受け入れた。言葉よりも伝わるものがそこにあるのならば。そこにあるのならば、俺は。



―――お前の真実を…感じたかったから……





END

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