ever

―――ずっとお前を、追いかけていた。

その背中をずっと、追い続けていた。その広い、背中を。
大きくて広くてそして、強いその背中。
けれども何処か全てを拒んでいる背中。
月抄様以外、お前の心を占めるのをわざと避けるように。
そんなお前の中に入りたくて。そんなお前の中に、俺は入りたくて。


必死にその背中を、追い続けていた。


唇が触れるだけで、泣きたくなるほどに切なくなる。指を絡めるだけで、胸を貫かれるように苦しくなる。でもそれ以上に込み上げて来るものは…多分、しあわせ。
「…力丸……」
こうして腕の中に閉じ込められて、そしてそっと髪を撫でられて。大きくて太いお前の指先が、そっと。そっと俺の髪を撫でるから。
「…俺はお前にとって、必要な人間に入っている?」
お前にとっての一番は月抄様。それを越える事は俺には出来ない。どんなに願っても、どんなに望んでも、それを越える事は出来ない。けれども。

――――それでも俺はお前にとって、必要でありたいと願うから。

「…蘭……」
静かなお前の瞳。その瞳が激昂する事も、乱されることもない。何時も冷静にその瞳は。その瞳は静かに全てを見つめている。そんなお前の瞳を、乱してみたいと…思った。
「…入って、いるか?……」
指を伸ばしてその唇に触れた。柔らかい唇にそっと、触れる。この唇から囁かれる言葉に、どれだけの夜を、瞼を震わせたのだろうか?
「―――当たり前だ」
そのまま大きな手が、そっと。そっと頬に掛かる。そして。そして大好きな唇が、俺の唇をゆっくりと塞いだ。

――――何故かひどく、泣きたくなった……


ずっと、追いかけて。ずっと、追い続け。
隣に立ちたかったから。お前の隣に立ちたかったから。
他の誰でもなく、ただ独り。ただ独りのお前に。
お前のとともに歩みたかったから。


胸元をはだけさせられて、そのまま鎖骨に唇を落とされた。そこからじわりと零れる甘い疼きに瞼を震わせて。
「…あっ…はっ……」
鎖骨から薄い胸へと唇は移動し、そのまま胸の果実を含まれた。白い歯でかりりと噛まれて、ぴくんっと身体が震えるのを抑えきれない。甘く切ない身体とこころの、疼きに。
「…あぁっ…ん…っ……」
舌先がちろちろと突起を嬲り、そのまま歯を立てられた。かりりと噛まれて、その刺激に突起が痛いほど張り詰めるのが分かる。それでも。それでも俺は、ねだった。
…背中に手を廻して、もっとと…ねだった……
「―――蘭……」
「…ああんっ…はぁ……」
胸を弄る指。摘まみながら指の腹で転がされ。そしてその間にも舌が、身体を滑ってゆく。俺を知り尽くしたその指先と舌が、じわりと追いつめてゆく。
堕ちてもいいと、思った。このまままっさかさまに落ちてもいいと思った。お前の腕がそれを導くのならば、俺はもう何処にも戻れなくてもいいと思った。

―――たとえそれが、許されない事だと、分かっていても。

許されはしない。俺には護りたいものがあって。お前にも護るべきものがある。それを手放すことは、俺似もお前にも出来なはしない。出来は、しない。
それでも願うことがある。それでも想う事がある。もしも。もしもしがらみも何もかも捨てられて。お前だけをただ想えたら、と。お前だけを、想えたらと。

…そんな事を、時々、願ってしまう自分がいる……

「…ああんっ!!」
指先が俺自身に触れて、大きな手に包みこまれて。先端を指で抉られながら、側面を柔らかく撫でられた。その対照的な刺激が俺を狂わせ、そして昇りつめさせられる。
「…ああっ…はぁぁ…あんっ……」
好きだよ、その手が。その大きな手が、好き。そこが一番お前の優しさを感じられるから。言葉少なく、そして無口なお前が。そんなお前の気持ちが一番分かる場所。それがこの大きな手、だから。お前の手、だから。
「…はぁぁっ…ぁぁ…力丸っ……あああっ!!」
強く扱かれて、俺は耐え切れずにびくびくと身体を震わせながら果てた。お前の手が俺の吐き出したもので汚れる。それをぼんやりと見つめながら。見つめ、ながら。
「…お前が…好き……」
混沌とし始める意識の中で、ただひとつの想いを伝える。確かに今この瞬間感じた想いは、それだけだから。全てを置き去りにしても感じたものは、それだけだから。
「―――ああ…俺も……」

今だけは何も考えないで。何も考えないで、そばにいて。


全ての想いと全ての感情と、全てのしがらみを。
全部、全部、取り除けたならば。
そこに残るただひとつの純粋な想いが。ただひとつの想いが。
こうしてふたりを結ぶ唯一の絆になれたら。


――――ただひとつ、消えない絆になれたならば……


「―――あああっ!!」
深く貫かれ、俺の口からは悲鳴のような声が零れた。けれどもそれは次第に甘い吐息へと摩り替えられる。甘い吐息、へと。
「…あああっ…あああんっ……」
焼けるほどの熱さが俺の身体を引き裂いて。揺さぶる激しさに俺の中が溶けていって。意識も何もかも、全てが。全てが溶かされていって。
「…あぁっ…あああ…力…丸っ!……」
このまま溶けて、このまま溶かされて。このまま全部。全部、どろどろになれたら。なれたら、しあわせ?しあわせ、なのかな?
「―――蘭……」
でもきっとしあわせにはなれないのだろう。この想いだけで埋もれたらと思う反面、そう思いながらも断ち切れない自分がある限り。こんなにもお前を愛しても、お前だけを想っても。それでも消せないものが、ある限り。
「ああああっ!!!」
きっと、しあわせになんて、なれないのだろう。



しあわせになんてなれなくてもいいから、お前が欲しい。



何時しかそんな事を想っている自分に気づいて怖くなったことがある。
捨てきれない想いを引きずったままでも、お前を手に入れてそして。
そして堕ちてしまえたらと、思うことがある。全てをどうでもいい場所へと。

…どうでもいい所へと、置き去りに出来たら…と……。



「…力丸……」
好きだよ、お前だけが好き。
「…お前は…暖かくてそして……」
お前だけを、愛しているよ。
「…そして…淋しい……」


こうして肌を重ねても、どうしも消えない淋しさがそこにあるから。



それは俺が永遠にお前を追い続ける限り、消えることはないのだろう。



END

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