君に胸きゅん
俺は黒崎 隼人。子供達の憧れの的、コスモブラックだ。そうコスモレンジャーの中で一番クールでそしてカッコいい。今日もその姿を鏡に映し、勇姿をチェックする・・。くぅ〜カッコイイぜっ俺。
そんな俺にも実は悩みがあった。こんなに完璧にかっこいい俺よりも・・かっこいい人が俺の前に現れてしまったのだ。
その人の名前は如月 翡翠。飛水流の流れを組む本物の忍者。そう如月さんは本物なのだ。本物の忍者なのだ。カッコ良すぎるぜっ。
実は俺は忍者フリークだ。密かに忍者村で手に入れた手裏剣を机の二番目の引き出しに忍ばせている。
サッカーをしていなければ、コスモブラックは忍者になる筈だった。と、そのくらいのマニアだ。故に俺は如月さんに憧れずにはいられないのだった・・。
「やあ、黒崎。今日はどうしたんだい?」
爽やかでそしてクールな笑みを浮かべながら、如月さんは言った。その笑顔ですら、おとなの余裕を感じさせる。同い年だというのに如月さんは落ちついていて、そして貫禄がある。流石、忍者だ。
「いや・・その・・」
実は如月さんの顔を見にきたなどと、それは言えない。それではただの変態になってしまう。
「靴を見にきたんだ。ヒーローとしては普段から武器には気を使っわないといけないからなっ」
う〜ん、俺ってかっこいい。そういう影の努力こそが真のヒーローの証だからなっ。
「そうか・・ならば好きなだけ見てゆけばいい」
良く通る低めの声。さらさらの前髪と、一寸の狂いもない完璧な美貌。思わず俺ですら、見惚れてしまう。
でも本当に、カッコイイよなぁ・・。如月さんにだったら俺、何されても・・・そこまで考えて、止めた。その先を考えるととても、怖いことになりそうで。いかん、いかん。俺は健全な子供達のヒーロー、コスモブラックだ。
如月さんは店に飾ってある招き猫を磨き始めた。そのしなやかな指先が猫を器用に布でなぞる。忍者なのに如月さんの指は細くて長い。本当に、綺麗な指だ。あの指で、髪の毛を撫でられたらきっと気持ちいいだろうなぁ・・。
「どうした?黒崎」
あまりにも俺が如月さんに見惚れていたせいか、逆に尋ねられてしまった。少し近づいてきた顔のあまりの綺麗さに、眩暈すらしてしまいそうになる。
「何処か具合でも、悪いのか?」
口元だけ綺麗な笑みを浮かべながら、如月さんは聞いてきた。これをされたらどんな男女でも、めろめろになってしまうだろう。
俺も、腰が抜けそうになるほど、めろめろだ・・。
「・・ふっ、どうした?本当に具合が悪いみたいだな・・・なら・・」
如月さんはそう言うと磨いていた手の動きを止めて、カウンターから俺の方へとやってきた。そしてその手で俺の額に手を当てる。
「熱は・・ないみたいだな」
「だ、大丈夫だ」
不覚にも俺の心臓の鼓動はMAX状態だ。いかん、ヒーローのくせに修行が足りんっ!!
「ならば少し・・横になっているがいいだろう」
うわわ〜そんな近づかれたら・・えっ?
「君は見かけよりも、軽いね」
「き、如月さんっ?!」
いきなり如月さんはひょいっと俺を抱き上げた。恐るべし・・忍者。こんな俺よりも細い身体なくせになんて馬鹿力なんだっ?!
「み、店はどーするんだ?」
「そんなもの・・病人の方が、大切だ」
・・・胸がきゅんっと、してしまった。如月さん・・そんな優しい言葉を掛けられたら・・俺は・・。
・・俺は本当に・・どうにかなってしまう・・・。
「少し、眠っているがいい」
布団を敷いてもらいそこに寝かされると、如月さんは柔らかく笑ってそう言った。完全なる誤解だが・・いや・・誤解じゃないのか・・これは・・恋の病、だ。
「何時でも、僕を呼ぶがいい」
呼ぶって、のろしで?いや俺は何を言っているんだ・・そんな事を考えていたら如月さんは本当にのろしを持ってきた。
「ふっ、こういうのは君好みだろう?」
「・・き、如月さん・・・」
どうして俺の趣味をっ?!そう考えて、止めた。如月さんの綺麗な顔が俺の前に超アップで迫ってきたので。
「僕は、君の好みなら何でも、知ってるよ」
・・そして・・・。
如月さんは、俺にキスをひとつ、くれた。
・・・その後ふたりがどうなったかは・・神のみぞ、知る。
End