呪縛
俺がお前を縛りつけているのか…それとも。
それともお前が俺を縛っているのか?
どちらが…どちらが、正しいのか?それともどちらも間違っているのか?
「…私を抱きたいのなら、好きにすればいい……」
冷たい瞳。誰も映さないその瞳。それでも。それでもその瞳を奪いたいと思った。自分に向けたいと思った。
「ならば、言葉通りに…御門…」
その両腕を縛りつけて、身体の自由を奪っても。心までは奪えない。瞳を、奪えない。自分が今どれだけ馬鹿げた事をしているのか…自分自身が一番分かっている筈なのに。
それでも止められない自分は…一体何者なのだろうか?
「…んっ…」
唇を強引に奪った。抵抗出来ない身体は、俺の唇を避ける事すら出来ない。そう身体だけは…俺を避けはしない。
「…ふぅ…んっ…」
唇を抉じ開け無理やり舌を絡ませた。このまま噛み切られても構わないと思いながら。噛みきってくれたら…いっそうの事楽になれるのだろうか……。
「…はぁ…っ…」
飲みきれない唾液が御門の唇から零れ落ちる。けれども構わずに俺はその口中を自らの味で支配した…支配…。こいつを、支配したい。
何時も誰よりも上にいるこいつを。冷たい目で全てを見下ろすこいつを。自分の下に組み敷いて、そして自分を見上げさせたい。
…それは歪んだ、欲望…歪みきった……
「もっとイイ声だ鳴けよ…御門…」
そう言っても見つめ返す瞳は何処までも冷たい。どんなになってもその瞳だけは…その瞳だけは何時も絶対に穢れはしない。堕ちはしない。
「…貴方次第ですよ…村雨……」
そう言葉で言ってもお前は…お前はただ冷たく俺を見下ろすだけだ。冷たく微笑う、だけだ…。
…愛とはなんだ?
そいつの全てを慈しむ事か?何よりも大事に護る事か?
そいつの全てを奪う事か?何もかも全てを自分のものにする事か?
それならば俺はどちらも出来ない。
慈しむ事も奪う事も出来ない。
これが『愛』というならば。これが『想い』と言うならば。
…俺にはどちらも…出来ない……。
「…んっ…ぁ……」
胸の果実を舌先で転がす。それに反応するように突起はぴんっと張り詰めた。そしてその張り詰めたそれに、歯を立てる。痛い程に強く。
「…あぅっ…」
血が滲むほどに噛みつくと、御門は耐えきれずにうめきを洩らした。俺は構わずにそこを執拗に攻め立てた。
分かっている、身体は生理的な反応を寄越している。俺の愛撫に、俺の指に。けれども。けれどもやっぱりその瞳だけは…俺を見つめはしない。
誰も見ないその鏡のような瞳。誰も映さない反射した瞳。どうして誰も映さない?どうして俺を…映さない?……
「…はぁ…あぁ……」
強い痛みすらも何時しかそれは快楽に擦りかえられる。その刺激に御門の口からは甘い吐息が零れてきた。
その息遣いを感じながら俺は、御門の身体に指を舌を滑らせる。快楽の火種を煽るように。その瞳が夜に濡れるように。
「…あぁ…んっ…はぁ…」
瞳が濡れたら…少しは俺を見てくれるのだろうか?俺の姿を映し出すだろうか?
…バカな事ばかり…考えているな…
そう思いつつも、俺は行為を止める事が出来なかった。
遠い昔、まだ何も知らなかった頃。
俺がいて御門がいて、マサキがいた頃。
何も知らずただ無邪気に戯れてた日々。
身分も地位も何も知らず。
『支配する者』と『支配される者』の意味も知らず、ただ。
ただ幸せだった日々。
あの頃を思い出す俺は、こころが弱くなっているのだろうか?
…こんなにも遠い場所へ自分達が辿り着くとは、思わなかった……。
「…ああっ……」
先走りの雫を零していた御門自身を口に含んでやると、それはあっけない程に簡単に果てた。それを俺は全て飲み干した。
「…あ…村雨…そこは…くぅっ…」
自らの指を口に含んで先程飲み干した御門の精液で濡らした。そしてそのまま御門の最奥へと指を忍び込ませた。
「…くぅ…や……」
狭すぎるその器官は異物を排除しようと蠢く。けれどもそれが逆に俺の指を締め付けているのも気付かずに。
「やじゃねーだろ?お前のココが俺の指を締めつけているんだぜ」
「…やぁ…ぁ…」
その言葉に羞恥を覚えたのか御門の身体がさぁっと朱に染まる。それを見届けると俺は更に指を奥へと突っ込んだ。
「…いたっ…あ」
爪を最も奥にある媚肉に立てた。それは激しい痛みと、そして快楽を御門にもたらした。その証拠に先程果てた筈の御門自身が震えながらも立ち上がろうとしている。
「…ぁ…ぁぁ……」
それを手助けするように前に指を這わすと、締めつけていたその媚肉が指を受け入れるように緩み始めた。その隙を逃さずに、中への指の本数を増やしてゆく。
「…あ…やぁ…」
ひくひくと切なげに震えながら、それは増やした俺の指を受け入れた。そして何時しかその刺激を離すまいと、締め付ける強さを強めていく。
「…御門…」
名前を、呼ぶ。呼んでみて、そして。そして自分へと意識を呼び戻させた。
快楽のせいで熱に浮かされたような瞳が、俺を捉える。そう俺を、捕らえる。その瞳が。
…俺を縛るように…俺を見る……
俺が、縛った。その身体を縛りつけて、俺の思い通りにする為に。
俺が、縛られた。その瞳に捕らわれて、俺はお前の支配下に置かれる。
…ああ…そうだ…お前は永遠の俺の『支配者』だ……
その気高いプライドと魂で。俺の心を縛りつける。縛りつける永遠の。永遠の俺の。
…この呪縛から俺は、逃れられない。
戻れない程遠い所に辿り着いた俺達は。
俺達はもう…もうどうしようもない程に。
その運命に『呪縛』されている。
…お前と言う、運命に……
「あああっ!」
指とは比べ物にならない自分のモノで御門の身体を貫いた。
流石にその綺麗な眉は痛みのせいで苦痛に歪んでいる。それでも俺は止めなかった。その身体を引き裂いて、自らを埋めていった。
捕らわれた、俺。お前に縛られた、俺。
何処にも帰れない、俺達。ならば。ならば突き進むしかないのだから。
「…ああ…やめ…村雨っ…あぁ……」
俺の背中に血が流れるほどにお前は爪を立てる。それがお前のささやかな復讐なのだろうか?
でも御門…俺の方が…俺の方が、追い詰められている。
お前は傷つかない。幾ら身体を奪っても。その身を犯しても。
穢れないお前の心。誰も傷つけられないお前の心。
反射する鏡のように、傷つけようとしてものが傷つく。
…俺の方が…傷ついている……
「…あああ……」
俺は思いの丈を込めて、御門の中に自分の欲望を流し込んだ。
これは愛なのか?それともただの自己満足なのか?
…俺にはもう…分からなかった……。
ただ一つだけ分かっている事は。
俺がお前に縛られていると言う事だけ。
俺が捕らわれている。お前に、心を瞳を。その全てを。
これが『愛』というものなのか?
End