LOVE SHOWER
目を、閉じて。
そっと囁かれる声を聞く。
耳元に降り積もる、その声を。
くすぐったくて、けれども心地よい。
お前の、声を。
「好きや、隼人」
初めてその言葉をお前に言われた時、俺はどうしようもない程に赤くなったのを覚えている。突然、だったから。突然そんな事を言われたから。
「…な、何言ってんだっ…劉…」
心の中であたふたしながら、それでも一生懸命冷静になろうとして、けれども。けれども全然落ちつけなくて。
「しょーがないじゃん。わいはどうしようもない程に隼人を好きになってしまったんやもん」
「しょうがない言われても…」
「だって好きな気持ちは押さえきれへんわ」
我が侭な子供みたいに言ってくる劉に俺はどうして言いのか分からなくなって、黙ってしまった俺にお前は。
「…隼人はわいの事嫌いなのか?……」
捨てられた猫のように淋しそうな瞳で言うものだから。俺はついつい首を横に振ってしまった。それがいけなかったのかもしれない。
気付いたら俺達は何時の間にか『恋人同士』になっていた。
一緒にいる事が。
ふたりで一緒にい事が。
とても、楽しくて。
時間も忘れてしまう程に。
違和感も忘れてしまう程に。
本当に自然に。
自然に一緒にいられるから。
…だから……
お前のキスは嫌いじゃない。
「…隼人、好きや…」
お前はあの時のまま、ずっと変わらないままでその言葉を俺に言う。初めて俺に好きだと言ったあの気持ちのまま、ずっと。
「大好きや、隼人」
そう言ってそっとお前は俺の唇を塞ぐ。ぎこちないキス。けれども凄くお前らしい。慣れてないけど一生懸命なお前の、キス。
「…劉……」
唇が離れて、そしてその名を呼んだ。目を開ければ飛び込んでくるのは優し過ぎるその笑顔。お前は何時でも俺に優しい。
「なんや、隼人」
「…あ、いや…別に……」
改めてお前の顔を見つめたかったなんて恥かしくて言えない。絶対に言えない。けれどもそんな俺の気持ちを見透かしてかお前はにっこりと笑って。
「隼人、めためたに可愛ええ」
幸せそうにお前は俺に抱きついてきた。本当に、幸せそうに。だからちょっとだけ正直に気持ちを言ってもいいかな…と思った。
馬鹿みたいに惚れている。
可愛くて可愛くて仕方なくて。
素直じゃない所も。妙に意地っ張りな所も。
全部、全部可愛くて。
どうしようもない程に、めろめろになっている。
「隼人の髪お日様の匂いがする」
「…な、何言って……」
ぎゅっと抱きしめれば恥かしいのか、途端に腕の中の身体が熱くなる。それがどうしようもない程に愛しい。何時までたってもこう言った行為に慣れない黒崎に。
「ぽかぽかの匂いがする」
髪に顔を埋めて、その微かな香りを感じた。目を閉じたら本当に瞼の裏に太陽が見えてきそうで。暖かい太陽が。
「へへ、わいのモンや」
ぎゅううっとわざと腕に力を込めた。その途端ぴくりと腕の中の身体が反応する。それが面白くて劉はより一層力を込めた。
「…い、痛い…劉……」
「だってこうしてないとわいの腕から逃げてしまいそうなんやもん」
「…に、逃げないぞ…」
「ほんまに?」
頭上から降って来る声の思い掛けない切なさに黒崎は咄嗟に顔を上げた。その先には痛いほど真剣な、劉の漆黒の瞳。
「…劉……」
「わい時々不安になるんや。今が幸せであればある程…いつか隼人がわいの元から消えてしまうんやないかって」
「何でそんな事、言うんだよ」
「だって…隼人は…」
「わいの事一度も『好き』って言ってくれてない」
何時も、一緒だから。
それが空気のように自然に。
本当に自然に。
ふたりでいる事が当たり前のように。
ううん、当たり前になっていたから。
「…あ…えと……」
言葉にしないと、声に出さないと伝わらないものなのだろうか?
こうして一緒にいる事を。こうして傍にいる事を答えにして逃げている自分。
素直に言葉に出来ない自分。こいつのように真っ直ぐに言えない自分。
でも今日は…今日くらいは……
「…えっと…その…」
「…す、好き…だぞ……」
口にしてみてあまりの恥かしさに俺はつい劉の胸に顔を埋めてしまう。けれどもそんな俺に劉はめいいっぱい力を込めて抱きしめて。
「わいも隼人が大好きやっ!!」
顔を上げなくても、確認しなくても。嬉しそうだと分かる声でお前は言ったから。本当に幸せそうにお前は言ったから。だから。
何時しか俺の恥ずかしさも何処かに消えていってしまった。
「隼人、キスしていいか?」
「何だよ、何時もしてるくせに。何で聞くんだよ」
「だって『両思い』になった記念」
「…両思いって…今まで違った…のかよ?……」
「でも隼人から『好き』って言ってくれたんやもん」
「……だからってなぁ………」
「いいやん、記念のキスや」
「………バカ…………」
目を、閉じて。
お前の唇が降りて来るのを待った。
少しだけ緊張しながら。
…少しだけ恥かしがりながら……
「へへ、可愛ええな。ほんまに」
「…お前そればっか……」
「だってどうしようもない程可愛ええんだもん」
「好きやで、隼人」
今度は『…俺も……』とこころの中で呟いた。
End