底無しの海
深い海へと、堕ちてゆく。
その身を深い、深い海の底へと。
堕ちて、ゆく。
―――もう何処にも、戻れない。
「…ああっ……」
背中に廻した手で爪を立てた。きつく、立てた。お前の熱いモノが俺の中に入ってきて、俺の全てを支配する。
「…如月…っやめっ…あぁ…」
言葉では否定しつつも、俺のソコはお前の熱い塊を貪欲に受け入れている。ずぶずぶと濡れた音を立てながら、その太くて硬いモノを飲みこんでゆく。
「くす、言葉では否定しても…君のココは僕を飲みこんでいるよ…村雨」
足を限界まで広げられて、繋がった部分をわざと俺に見せようとする。お前の黒光りするモノが俺の双丘の狭間で埋もれてゆく瞬間を、目の前に暴かれる。
「…止めろっ…如月…そんなモン…見せんなよっ……」
ぐちゃんっと一層大きな音を立てて、お前が根元まで俺の中に埋められる。引き裂かれそうに大きなソレは、俺の内臓まで届くほどに貫かれた。
「…やぁ…あああ………」
火傷するほどに熱くて、引き裂かれるほどに硬いソレ。けれども俺は。俺は何時しかこの凶器に蹂躙される事を望んでいた。何時しか、この楔にずたずたに引き裂かれる事を。
―――お前に、めちゃくちゃにされる事を……
きっかけなんてもう、忘れた。
気付いたらその冷たい視線に貫かれていた。
冷たくて、そして支配者の瞳。
全てのモノを征服するその瞳に。
俺は捕らわれていた。
くもの糸のように身体中に張り巡らされた糸が。
俺を捉えて、絡みつく。
お前と言う名のくもに、俺は捕らわれた。
何時しか俺はお前の腰に足をかけて、より一層快楽を得ようと引き寄せていた。
「君は本当に、貪欲だね。そんなに僕が欲しいのかい?」
「…ああ…欲しーよ…おめーのソレが欲しいよっ……」
口に出す事に躊躇いは無かった。もうそんな事言っている場合じゃない。欲しくて、ただ欲しくて。お前に全てを埋められたくて。
「しょうがないね」
――くすりとひとつ、笑ってお前は最奥まで俺を貫いた。
「ああああっ!!!!」
中に熱い液体が注ぎ込まれるのを感じながら、俺も自らの腹に欲望を吐き出した。
荒い息を吐きながら、それでも俺はお前を見上げた。涼しい顔。どんなにセックスをしても、どんなに激しく俺を貫いてもお前は顔色一つ代えない。息も、乱さない。
―――そこが…たまんねーんだけど……
俺を組み敷く男ならば、それ相当の男でないと俺は嫌だから。だって同じ男に押し倒されるんだぜ…そんじゃそこらの男なら俺は、許しはしない。
けれどもお前は、そんな意味ではどんな男よりも俺をぞくぞくさせる。俺を満たされる。お前以上に俺をこんなにも乱れさせる奴には出会った事はなかった。
「足りなそうな顔をしているね」
「…足りねーよ…もっと…お前が欲しい…」
「欲張りだね、君は…だったら僕をその気にさせてくれよ」
笑う、お前。けれどもその笑みは何処までも冷めた笑みだった。お前は全ての事に無関心で、全ての事に醒めている。けれどもそれが。それがたまらねーんだ…俺には……。
「ああ、分かってんよ…如月……」
そう言うと俺は果てたにも関わらず充分な硬度を持っているお前のソレを口に含んだ。
「…んっ…んん……」
口の中に収まり切らないほどの大きさのソレを、舌で舐める。形を辿って付け根に舌を這わして。そしてそして手で袋を包み込んだ。
「…はぁ…ふん……」
口の中でお前が大きくなってゆくのを感じる。それだけで俺のソレも立ち上がってゆくのが分かる。何処にもお前は触れていないのに。触れていないのに…お前を口の中に感じるだけで……。
「…はっ…んんんんっ!」
髪を掴まれ、口を引き寄せられた。喉までお前のソレが届いて、むせ返りそうになる。それでも俺は口に含むのを止めなかった。お前の腕が止めさせてくれなかった。――そして。
―――ドピュっ…ドクドクドク………
口の中に注ぎ込まれた苦くて熱い液体を、俺は貪るように飲み干した。
「僕とセックスする時は…そのヒゲは剃って来て欲しいな」
獣の姿勢を取らされて、灯りの下に秘所を暴かれる。双丘をそれぞれの手で掴まれて、ぐいっと穴を広げられた。それは中の肉まで見えるほどに広げられる。
「…何でだよ…如月……」
俺は身体を手で支える事が出来ず、シーツに手を掴むのが精一杯だった。その間にも俺の秘所は暴かれて、お前の視線に曝される。
「フェラチオする時にヒゲが当たるのが気に入らない」
「…あっん…そ、そんな事…いいじゃねーかよっ…」
暴かれた媚肉に舌が入れられる。生き物のように蠢く舌は、ぴちゃひちゃと音を立てながら、俺の中に忍び込んでくる。
「そんなこと言うともう…してあげないよ…」
「…あぁ…それだけは…ずりーよっお前はっ……」
「じゃあ次に逢う時までには剃ってくるんだ…いいね……」
その言葉に俺はこくりと、頷いた。俺は決してお前に逆らえない。お前に支配されてから俺は。俺はもう何一つ逆らえない。
――――お前に堕ちた、その瞬間から……
「あああ―――っ!!!」
舌が離れたと思ったら、お前の凶器が入れ替わりに突っ込まれた。硬くて熱くて、そして太いその楔が。俺の中に捩じ込まれてゆく。
「…ああっ…あああ…ああんっ……」
ぐいぐいと俺の中に侵入する、楔。硬い肉の塊。俺を真っ二つに引き裂く激しい凶器。
「…もぉ…もお…如月…ああっ…」
「イクのかい?早いよ君は」
「…我慢…出来ねーよっ…お前の…お前のが…俺はっ…あああ……」
「くす、しょうがないね君は」
もうそれ以上は、俺は覚えていなかった。後はただ如月の作り出すリズムに腰を振るだけで。獣のように腰を振るだけで。
―――もう後は、快楽の波に身を浸すだけで……
堕ちる。
堕ちてゆく。
お前と言う名の海に。
お前と言う名の底無しの海に。
堕ちてゆく。
見えない明日へと、堕ちてゆく。
けれどもそれは。それは俺自身が望んだ事。
意識を失うその前に、お前を受け止めた俺は。
俺はひどく満たされた顔をしていた。
End