蝶
昔、蝶の羽をもぎ取った事があった。
空を羽ばたいてゆく蝶を掴んで。
掴んで無残に羽を引き千切った。
綺麗な、羽。空に透ける、羽。
それを切り刻んで、胴体だけは残して。
空へと二度と飛べないように。
―――肉体だけは…残して……
床に散らばる長い髪を指に絡めながら、僕は腕の中の蝶の羽をひとつひとつもぎ取ってゆく。
「…やめっ…きさら…んっ……」
強引に口付けて、舌を絡め取った。君の唇は何度口付けても、ひどく冷たい。僕の体温に染めようとしても、染まらない唇…それが許せない。
「…んっ…んん……」
根元まで吸い上げ、息も出来ない程に唇を奪う。舌で口中を犯して、君の中へと侵ってゆく。
「…んっ…はぁっ……」
唇が痺れるまでキスをして、目尻から涙が零れた所で開放してやる。その途端乱れる事のない能面のような顔に、微かに朱が差した。
「――やっと、僕を見たね…御門……」
「…如月…どうして?……」
息苦しさのせいか、快楽のせいか?見上げて来る瞳に僕は微笑った。口許だけで、笑った。
ああ、これが。これが僕が見たかったもの。
表情のない何時も冷めた顔をしている君。どんな時でも無表情で何一つ考えている事が分からない君。何時も何時も人よりも上に立って冷静でいる君。そんな君を僕は。僕は、引きずり落としてみたかったのさ。
その飾り物のような綺麗な顔を苦痛で歪めてみたかった。その無表情な顔に色々な表情をさせてみたかった。その硝子玉の瞳に僕を、映させてみたかった。
―――歪んだ欲望…そう歪みきった欲望。僕は、狂っている。
綺麗な蝶の羽を自ら手折りたくて、仕方なかったんだ。
飛んでゆくのが許せなかった。
見つけたのは僕なのに。
僕が見つけたのに。
それなのに飛び立とうとする蝶。
それが許せない。
僕が見つけたのだから、僕だけのものだ。
「あっ!」
両腕を紐できつく縛ると、そのまま上着を引き裂いた。丁寧に脱がして上げるよりも、コの方が君には屈辱だろう?プライドの高い君には。
「…あっ…やめ…ぁぁ…」
そのまま引き裂いて開いた胸に口付ける。桜色の突起に舌を這わすと、ぴくんと肩を震わせる。それがひどく僕を悦ばせる。
―――もっと、震えればいい。どんな事にもどうじない君の見せる怯え…それは何て甘美なものなんだろうか?
「…やあっ…あ…ぁ……」
人差し指と中指で摘み上げて、ぴんと張り詰めた突起を舌で舐る。それだけで堪えきれずに口許から甘い息を零した。普段触れられていないせいか、身体の愛撫にはひどく敏感だ。
それが。それが僕には楽しくて堪らない。
「…ああ…止めて…くれ…如月……」
口では幾ら抵抗しても君の身体はうっすらと汗ばみ、頬は蒸気している。それが何よりも僕を感じている証拠じゃないのか?
僕は胸を舌でいたぶりながら、手を君の身体に滑らせてゆく。滑らかな白い肌。指先に伝わる感触はひどく極上で、ベルベッドの肌触りだった。
「…いや…いやあっ!」
足を強引に広げて、自身を僕の視界に暴かせる。それはふるふると切なげに震えながらも、立ち上がろうとしていた。
「止めていいのかい?君のココはこんなにもなっているのに」
くすりとひとつ笑って、指先で先端を弾いた。わざとぱちんと音を立てて弾いてやる。その途端、君は身体に電流が走ったように跳ねた。
「くすくす、感じやすいんだね君は…」
そんな様子を僕はどんな顔で見ているのだろうか?ひどく残酷そうに?それともびどく愛しそうに?一体君には僕はどんな風に映っているのだろうね。
「もっと、感じさせてあげるよ」
「あっ…やぁっ……」
ソレを口に含んでやると堪えきれずに足を閉じようとする。僕は身体を滑り込ませ、逃れないように乗っかった。そして両手で足首を固定してやると、そのままソレに舌を這わせた。
「…あぁ…あんっ…駄目だ…止めてくれ…お願いだから……」
ぴちゃぴちゃとわざと音を立てて舐めてやる。その方が君は感じるだろう?だって君は…マゾなんだから。
「…やめ…出る…出ちゃ…あああっ!!」
ドピュッと音が弾けて、僕の中に白い液体を吐き出した。僕はそれを飲み干すと、唇に垂れた一筋の精液を君の唇に充てる。
「君が出したものだ、舐めるんだよ」
首を振って拒絶する君を、僕は顎を捕らえて顔を背けられないように固定した。そして鼻を摘んで息を出来ないようにしてやる。するとしばらくして絶え切れずに君は口を開いてきた。
「手間の掛かる子だね。初めからそうすればいいのに」
「…んっ…んん……」
諦めたように舌で僕の口許に零れる精液を君は舐め取る。そうだよ初めから…初めからそうしていれば…よかったんだよ。
綺麗に舐め取ったのを確認して、僕は自らの指を君の口の中に突っ込んだ。抵抗して指を噛み切ろうとする君に、僕はひとつ笑って。
「噛み切っても、構わないよ。ただし…痛い思いをするのは君の方だ」
「あくっ!」
口に入れてない方の乾いた指を君の中に滑り込ませる。異物など受け入れた事などないであろうソコは、侵入してきた指を排除しようと必死だった。
「痛いのは、イヤだろう?」
その言葉に観念したのか、君はゆっくりと僕の指に舌を絡ませてきた。その瞳はあくまでも僕を睨み付けながら。
綺麗な羽。
黒い羽。黄色い羽。
それをばらばらに。
ばらばらに切り刻む。
それでも綺麗だった。
蝶の羽は、綺麗だった。
「…くうっ!…あ……」
濡れた指を忍び込ませても、閉め付ける力は変わらなかった。当たり前だろう…本来ココはそんな事をするために出来ているのではないのだから。
「…はぁっ…あふ……」
それでも僕は指を強引に侵入させ、中の肉を解してゆく。この先指なんて比べ物にならないモノが入るのに…この位で根を上げてもらっては困るからね。
「…はぁ…あっ…はんっ……」
声が艶めくのを感じた頃に、指の本数を増やしてゆく。中で肉を収縮させて、馴染ませてゆく。
「――そろそろいいかな?」
耳元で囁いた言葉に、明らかに君の身体が震えた。それは。それはとても心地よい。僕はこの瞬間を待っていたのかもしれない。
君の体内から指を引き抜いて、その代わりに僕自身を充てた。その瞬間の震えと、見上げて来た瞳の怯えを。僕は…僕は一生忘れないだろう……
ばらばらに。
ばらばらに、引き裂く。
羽。背中の羽。
跳び立つ君を。
飛びだとうとする君を。
こうして僕は、捕らえる。
「―――あああっ!!!」
ぴきっと音がしたと思った瞬間に、君の口から悲鳴が零れる。痛みと恐怖の交じり合った悲鳴が。それが僕には、どうしようもなく。
「いやあっ…やあっ…あああ……」
肉を掻き分け、中を犯してゆく。征服してゆく。細い身体を組み敷いて、自分の下に置く。それはなんて甘美な事だろうか?
どんなモノにも屈しないプライド。何時も見下ろしている視線。それが。それが今こうして僕の下で苦痛に歪み、僕の下で征服されている。
「…あああっ…あぁ…はあ……」
最奥まで貫くと一端動きを止めた。その途端口からほっとしたような吐息が零れたのが気に入らなくて、僕はそのまま強引に腰を動かし始めた。
がくがくと激しく揺さぶると肉の擦れる音がする。後、粘膜の裂ける音も。いつしか君の白い太股には鮮血が流れていた。君の、血。君の紅い、血。きっと舐めたら甘いんだろうね。
――――とても、美味しいんだろうね……
「ああああ―――っ!!!」
君が限界まで喉を仰け反らせた瞬間。
僕は君の中に自らの欲望を吐き出していた。
ボロボロになった羽は。
羽は土に埋めた。
誰にも見られないように。
僕だけが知っている場所へと。
僕だけの場所に、埋めた。
気を失った血の気のない顔に、僕は声を立てて笑った。
ひどく可笑しかった。どうしようもなく可笑しかった。
これで。これで僕のもになると。
僕だけのものになると。それが、ひどく可笑しかった。
君の足元に伝う血をひとつ、舐めた。
それは思った通り…甘かった……
End