好きだと言う気持ち
こうやって傍にいるだけで、どきどきしてしまうんや。
「――劉……」
低くそしてそっと通る声でその名前を呼ばれるだけで。
「好きだよ、劉」
わいはどきどきが止まらない。止まらないまま、その腕に抱きしめられて。
抱きしめられたらどうしたらいいのか。どうしたらいいのか分からなくなって。
―――わいはただ、俯く事しか出来ないんや。
「…って何時も僕ばかり…言っているね……」
俯いたままのわいの頬に、お前はそっと手を当てると上へと向かせる。その綺麗な瞳に映るのはわいだけで…わいだけだから…またどきどきして……。
「たまには君の口から、聴きたい」
そう言って睫毛の先にキスを、ひとつ。その甘さに意識が溶かされてゆく。そして。そしてわいはもうどうにも出来なくなってしまって…。
「…如月…わいは……」
ただ名前をこうやって呼ぶしか、出来なくて。
好きだと言う、気持ち。
どうしたら。どうしたら。
伝える事が出来るんや?
こんなにもわい、お前が好きなのに。
どうして言葉に出来へんのやろう。
何時も何時も好きだって。
大好きだって、思っているのに。
わいはどうして。
どうして、言えないんやろう?
こうやって、腕の中に抱きしめられるのが何よりも心地よいのに。
「如月…わいは……」
綺麗やと思う。男のわいですら惚れ惚れするくらいイイ男やと。誰よりも強くて誰よりも優しくて。そんなお前がわいはずっと。ずっと、好きやったのに。
「うん?」
ずっと、好きやった。関西弁が嫌いだと言われた時も。それでもわいはお前から目、離せなかったんや。離せなくてずっと。ずっと見つめ続けていて。
「…お前の事が……」
その気持ちをこうやって。こうやって口に出したいのに…何で言えないんやろう?
言う前に、どきどきが。どきどきが勝ってしまって。言葉にしようとするとどうしても戸惑って、上手く言えない。
―――言えないんや……
君が言いたい事は分かっているよ。
君の気持ちも手に取るように分かっているよ。
けれどね。
けれどもやっぱり男は我が侭だから。
好きな相手からは、言葉で聞きたいんだ。
君が呑み込んでしまって言えない言葉を。
僕は、聴きたいんだ。
君が、大好きだからね。
初めから、好きだったよ。
大阪弁が嫌い何て言ったのは君の気を惹かせる為さ。
初めて見た時から君が欲しかったから。
欲しかったからどうやったら僕のものになるかと。
僕のものに出来るかとずっと考えていた。
だからわざと言ったんだ。
君が僕を気にするように、ね。
そうしたら君は、ひどく哀しそうな顔で僕を見たから。
見たから少しだけ、罪悪感を覚えた。
けれども、それ以上に。
――脈があるなと、自惚れたんだ……
「聴きたい、君の口から」
「…如月……」
「一言で、いいんだ」
「…わい……」
「………き…………」
聴こえない程の小さな声で君は言った。
多分他の誰にも聞えない声で。
でも。でも僕には。
僕だけには、聴こえたから。
今君が俯いてしまったのが残念でならない。
僕が今どんなに嬉しいかその顔を君に、見せたかったのに。
余りの恥かしさにわいは俯いてしまった。情け無い…ただ一言言うだけなのにこんなにも。こんなにもわいはどきどきして心臓が破裂しそうになっている事に。
ただの一言を言うのにこんなにも。こんなにも緊張してしまっている事に。
もうただただ恥かしくて。わいはその広い胸に顔を埋めるしか…出来なかった……。
――けれども。
けれども、わいを抱きしめてくれる腕が。
わいをきつく抱きしめてくれる腕が。
その腕がとても、暖かかったから……。
恥かしさよりも何時しか、嬉しさのほうが込み上げてきた……。
「僕も、好きだよ」
そう言ってお前はまた、わいの頬に手を掛けて。
「好きだよ、劉」
そしてお前の瞳にわいだけを映させる。
「…好き、だよ……」
そしてその瞳のまま閉じ込めて。
―――甘いキスを、くれた………
好きだと言う気持ち。
お前を好きだと言う気持ち。
言葉にしなくても伝わっている気持ち。
でも、言葉にしたら。
言葉にしたらもっと。
もっとお前に伝わったから……
―――好きだ…如月……
End