LOVE ME
細い手首をかみ切る 媚薬が傷にしびれる
Love me 涙も Crying 血の色
「…死にてえのか?……」
僕を見下ろす瞳は、何処までも静かで。何処までも、冷たくて。
「だったら死ねばいい」
ただ今の僕を映し出すだけの瞳。そこには何の感情も見えない。ただ、ただ僕を映し出すだけの瞳。
「そんな命、生き続ける方が可愛そうだろう?」
優しい言葉も慰めも同情も何もない。何も与えてはくれない。それで、いい。それがいい。それ以上のものを貴方から与えて欲しくなんてない。
「可愛そうですよね、僕の命。こんな僕の身体に与えられて」
こんな死ぬためだけに生まれてきた抜け殻に埋め込まれた命。こんな抜け殻に…入れられた魂。
「可愛そうだ」
可愛そうなのは、僕の命なのか?それとも僕自身なのか?
どんなに夢を見ても 気付けばいつも独りさ
Love me 夢見て Dreaming 眠ろう
ぼたりと、噛み切った手首から血が零れた。そして口内に鉄の味が広がる。
肉体を自ら傷つけることには慣れていた。何時もこうやって傷つけて、そして痛みを得る度に自分は『生きている』と実感したから。
痛みだけが、自分の生きているシルシだと…それだけが確認する全てだと思っていたから。
この、全身にじわりと広がる痛みだけが。
「…可愛そうって言葉をてめーから言われたくねーだろうが……」
口に咥えていた煙草を貴方は無造作に捨てる。その指の動きを僕は無意識に追った。見掛けよりもずっと、しなやかな指先を。
「お前自身が自分自身を傷つけているくせにな」
見上げて、みた。真っ直ぐに貴方の瞳を見返してみた。その鏡のように僕をただ見ている瞳を。その奥には何もない筈の、瞳を。
「でも可愛そう、僕の肉体。こんなにいっぱい傷つけられて」
上着を脱いで無数の傷跡を貴方に見せた。いっぱいいっぱい僕は自らの身体をこうやって傷つけたから。いっぱい、いっぱい。
「何も悪いことをしていないのに、ね」
「でもその手でお前は人を殺し続けた」
「殺さなければ、僕は生きて行けない」
「生きてゆけねーだと?今死のうとしている癖に?」
そうだなと、思う。僕は矛盾した答えを出している。生きる為に他人を殺し続けながら、こうやって自らの身体を切り刻んで死のうとしている。
けれどもどちらも僕には正しくて、必要なことだった。どちらも僕にとっては真実だった。
「そうだね僕はもう死ぬんだ。この罪深い身体からやっと…僕の命を開放してあげられるんだ……」
そしてどちらも僕にとっては嘘だった。
My Darling 月夜に羽を広げて
消えるまで Love me
「…村雨さん…僕は間違っているのかな?」
呟いて、そして零れたのは。
零れたのは瞳から落ちる透明な雫。
ぽたりと、ひとつ。
てのひらに落ちた。
可愛そうな子供。
可愛そうな身体。
可愛そうな命。
「てめーは何も分かっていない。その『可愛そう』だと言う命もまた…『お前自身』のモノだと言う事に」
その身体も、そのこころも、その命も。
お前自身以外の何者でもないと。
例えどんなに引き離そうとしても。それは。その全てはお前のものだと言うその事実を。
そんな簡単なことも気付かない子供。
可愛そうな、子供。
「この痛みは、お前自身のものなんだ」
貴方の腕が僕の腕を捕らえると、そのまま舌先が零れた手首の血を舐め取った。そこから広がるのは痛みではなくて、甘い痺れ。じわりと広がる、眩暈にも似たその痺れ。
「…村雨さん……」
「この血も、お前自身のものなんだ」
唇が、塞がれる。そしてそこから流れ込むのは生暖かい液体。それは僕の血。僕が流した、僕が自分自身で流した血。
「…お前のモノだ…壬生……」
手を、背中に廻した。貴方の広い背中に。その途端、ひどく泣きたくなった。
理由は分からない、ただ。ただ泣きたくて。その触れた瞬間に感じた暖かさに。その触れた先の『生きている』感触に。
「…貴方の瞳に映る僕が…嫌いでした……」
「壬生?」
「貴方の瞳で僕はただの人形でしかなかったから。ただの抜け殻でしかなかったから」
「そうだお前はただの抜け殻だ…でも、今は違うだろう?」
そう言った貴方の瞳に映る僕は。僕は確かに『生きて』いた。生きて、いた。
「だったらそのお前を好きになれ、壬生。可愛そうだなんて思うんじゃねーよ」
「…村雨さん……」
「可愛そうと思う事が何よりも自分自身に失礼な事なんだ」
目を、閉じて。
そして貴方のぬくもりを感じる。
貴方の鼓動を感じる。
貴方の、全てを感じる。
次に貴方の瞳を見た時に、自分自身を好きになれるように。
My Darling ちぎれた夢に サヨナラ
ささやいて Love me
…貴方を好きに、なれるように……
End