エンジェルフィッシュ

ちょっと抱いて 哀れな人だね
逃げ出す前に泳ぎ疲れて
そっと噛んで 醜い僕だよ
囁きは嘘 知っているだろう

私が手に入れた、人形。
全てのものに絶望をし、現実の何もかもを捨てて。
そしてただの抜け殻になった人形。
生きる事も考える事も何もかもを拒絶した、私の。
私だけの可愛い人形。

「おいで、壬生」
冷たい、声。何処までも冷たく冷徹な声。僕はその声に導かれるように顔を上げた。その先には声と同質のいやそれよりも冷たい目の醒めるような美貌。触れたら凍えてしまいそうな視線に貫かれながら、僕はゆっくりと貴方の前に立った。
「いい子だね」
それだけを言うと貴方は僕の唇を塞いだ。冷たい唇。冷たい口付け。目を閉じる事すらせずに、僕をただの『モノ』として扱う貴方。けれども。けれども今の僕には何よりもそれが必要だったから。
だって僕はなにも考えたくない。なにも感じたくない。なにも信じたくない。
生きている証その全てを閉じ込めて、そして。そして貴方の人形になりたいから。

That Truelove 頬をすり寄せ
胸に滑らせる その前に

壊れた、こころと。壊れた、魂。
それが何よりも望んでいたものだった。
私にとって何よりも望んだのは『破壊』
内側から壊れた世界。
そう、破滅と絶望に彩られた貴方の顔。
…とても綺麗ですよ……

「御門さん…」
このひとの腕の中にいれば。このひとに抱かれていれば。僕は何も考えなくていい。
何もかもを捨てられる。拳武館も、館長も。そして。そして…あのひとも。
僕には光は眩し過ぎるから。内臓までも闇に侵食された僕には、あのひとの光は眩し過ぎるから。
差し出された手を握り返す事も。その腕の中に眠る事も。血塗られた僕では貴方を穢してしまうから。だから。
だから僕はこうして闇に堕ちてゆく。底の無い闇へと。でもここはひどく心地よい。
「抱いてあげますよ、壬生。何も考えたくないのでしょう?」
心地よい、から。冷たい指先とそれ以上に冷たい腕の中が。だってここには愛が無い。ただ欲望だけが存在する静かな空間。他には何もないから。
「…抱いてください…御門さん…僕を…無茶苦茶にして……」
そして何も、残らないから。

ちょっと抱いて 話すことがない
重なるだけで 割れた唇
そっと噛んで 奇麗な月だね
抱き締めたけど 水に漂う

「…ああっ……」
背中に爪を立てて、貴方は声を上げる。タガが外れたように、堰を切ったように。ただ本能のままに。ただの獣に戻って。
「…もっと…はぁっ……」
人間の最も美しく醜い姿。私はそれをただ見下ろす。
自分の下で組み敷いた貴方が声を上げて、快楽に溺れてゆくのを。
私はただ見下ろすだけ。この指で身体をなぞり、貴方の奥まで貫きながら。
貴方が私の思うままに乱れ壊れてゆくのを、見つめているだけ。
それが貴方を何よりも綺麗にするのだから。

That Truelove この世の扉
どうぞ この胸切り裂いて

貫かれて、そして抉られて。
その引き裂かれる感触に瞼が震えた。
もっと、もっとと。
思うままに声にした。ここでは僕を覆うものは何も無い。
だって僕は全てを捨ててきた。だから。
だから僕はここではただひたすら本能のままに。
ただひたすら欲望のままに。
声を上げ貴方を求め、快楽を欲した。

そうしないと僕は、この胸を引き裂かれてしまう。

もう一度だけ 僕をイカせておくれ
ああ ちょっと噛んで
夢を見たのさ とても素敵な夢を
ああ そっと抱いて

憐れな私の人形。壊れた人形。
何もかもを取り上げて何もかもに絶望して。
人間として持っている全てを剥ぎとって、そして自分自身だけになって。
それでも。それでも貴方は私の腕に抱かれる。
そんなにも貴方にとって『真実の愛』は、苦しいものなのですか?
光は眩しいものなのですか?愛は苦しいものなのですか?
それならば望み通りに。
何処にも帰れない場所まで貴方を堕としてあげましょう。

僕の身体はこんなにも熱いのに。貴方の瞳は指先は冷たい。
血なんて通っていないかのように。体温なんて存在しないかのように。
けれどもそれが、今は。今は何よりも心地よいものだから。
何よりも僕にとって。
命なんて、いらない。生命なんていらない。暖かいものなんていらない。光なんていらない。
だってそんなものを僕が望むのは許されない。
望めば破滅だけ。そして、そして血塗られた運命で光を侵食するだけ。
…愛なんて…僕には…望んではいけないものだから……

That Truelove 溺れてゆく
今は 流れに身を委ね
That Truelove 息ができない
やがて 何もかも沈むでしょう

「子供の頃…太陽は僕の後をずっと付いて来てくれると信じていました」
ベッドの中での睦言も、私達には何の意味も持たない。ただ言葉を綴るだけ。それでも。
「太陽は沈まないって…信じていたんです…」
それでも私は貴方の言葉を聞く。そこにあるのはまぎれもない貴方の真実。貴方だけが気付いていない、貴方の哀しい真実。
「そして、今は?」

「…太陽は…僕には永遠に届かないものです……」

そっと閉じた瞼に口付けをした。貴方はその行為すら儀式としか思わないでしょう。それでいい。そう思い続けることが貴方の為だから。
貴方は何も考えなくていい。あなたは何も想わなくていい。
こうして少しづつ零れてゆく本音もやがて。やがて全てを私が拾ってこの手で捨てるのだから。

何も考えずに、私の腕に抱かれていればいい。

もう一度だけ 僕をイカせておくれ
ああ ちょっと噛んで
夢を見たのさ とても素敵な夢を
ああ そっと抱いて

思考がぼんやりと拡散してゆく。
その気だるさと心地よさに身を委ねながら僕は再び瞼を閉じた。
このまま二度と開く事がなければいいなと心の何処かで想いながら。

…このまま二度と目覚めなければいいと…祈りながら……





End

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