観察

何時も見られているという自覚はあった。何時も静かに自分を見つめる視線に気が付いていた。けれども。けれどもそれから逃れるように…その視線から逃れるように、面を打ち続けた。
「―――君の視界をずっと捕らえているには、どうしたらいいんだろうね」
打ち続けやっとその視線から開放…意識が遠ざかろうとしていた瞬間に、その声は降って来る。まるで自分を何処へも行かせないとでも言うように。
「…梅月……」
鑿を打つ手を止め顔を上げれば、静かに自分を見下ろす漆黒の瞳がそこにある。静かでそして表面上は冷たく…けれどもその内側には、激しいものが宿っているその瞳が。
「僕は面にすら嫉妬するよ。君を惹きつけて離さないそれに」
微かに零れる額の汗を、そのしなやかな指が拭った。そしてそのまま頭を覆っている布を剥ぎ取られる。はらりと音と共に、布が床に落ちた。
「何時も粉々にしたいと思っている」
くすりと口許だけで微笑うと、そのまま唇を塞がれた。この男は時々、こうして強引に。強引に、自分を奪おうとする。



何時も、見ていた。君が振り返るまで。
君が僕に、振り返るまで。けれども。けれども君は。
君は何時しか面を打つことに執着し、僕自身を消してゆく。
君の世界から、僕を消してゆく。だから。
だから、僕は呼ぶんだ。君の名前を呼び、そして。
そして僕の元へと、君を取り戻す。この場所へと君を。


――――君を、僕の場所にまで……


触れるだけの口付けはすぐに離れたけれど、梅月の手は弥勒から離れなかった。外界に出された髪に触れそのまま何度か撫でると、指先を頬へと滑らせた。頬の滑らかなラインを辿り、鋭角的な顎に触れる。そして指先でその顎を持ち上げると、もう一度唇を奪った。
「…んっ……」
それは触れるだけのものとは違う、激しい口付けだった。欲望と云う名の塊が含まれた、深い口付けだった。
「…んんっ…ふっ…梅…げ…んんっ……」
片方だけの弥勒の手が、耐えきれずに梅月の背中へと廻る。そのままぎゅっと着物に縋りつき崩れそうになる肢体を支えた。梅月の舌遣いは巧みで、何時も弥勒の意識を堕落させる。腕を切り落とされてから…いやそれ以前から他人に関わる事をしてこなかった弥勒にとっての、久しく与えられていなかった他人のぬくもり。それはぬくもりと呼ぶには激しく、熱いものだった。
「…んん…ふぅっ…ん……」
何時しか梅月の片手が弥勒の首の付け根を支え、深く舌を絡め取った。ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てながら、逃れようとするソレを激しく貪る。その口付けにこめかみが痺れ、弥勒は必死になって梅月にしがみ付くことしか出来なくなっていた。
「…はぁっ……」
長いため息と共に唇が開放される。銀の糸がふたりを結び、そしてぽたりと切れて弥勒の顎に落ちた。それを梅月は自らの舌で舐め取ると、そのまま身体を冷たい床へと押し倒した。


こうして肌を重ねることに抵抗がなくなってたのは、何時からだろう?
元々性欲に関しては自分はひどく淡白だった。
女が求めてくれば答えたけれど、自らが求めると云う事がなかった。
だから同じ性を持つこの男に押し倒された時、不思議と。
不思議と嫌悪感も、拒否反応も起きなかった。
ただ押し倒している身体が同じ男のものだと言うことだけで。そして。
そして受け入れさせられる痛みが伴ったというだけで。
多分その程度にしか…自分は感じることが、出来なかった。

他人に関心がなかった。自分の世界には面しかなかった。
それ以外のものに執着も関心も、何一つ持てなかった。

それなのに何時からか。何時からか、自分をこうして抱く男に関心を持つようになったのは。彼が詠む歌を気にしだしたのは。そして。そして、彼が自分に向ける視線を…意識し出したのは。


器用に梅月は弥勒の服を剥ぎ取ると、そのまま胸の果実に指を這わした。普段面を打つことしか関心のない彼の身体は、腕以外の部分は見掛けよりもずっと細かった。
「…あっ……」
指の腹で転がしながら、舌で尖った胸をつつく。それだけで口許から甘い声が零れるのは、自分が仕込んだ事だった。面以外の事に関心のない彼は、自分自身の事にすら無関心だった。こうして腕に抱いても、何処か他人事のような顔をする。それが嫌だったから梅月は性急に、そして激しく弥勒を求めるのだ。自分自身だけをその瞳に映すように、と。
「…あぁっ…梅月……」
親指と人差し指で胸の突起を摘み上げると、そのまま舌で嬲った。唾液でねっとりと照かるまで執拗に攻めたて、弥勒の身体を小刻みに反応させる。自分の手によって舌によって、彼が乱れてゆく瞬間が何よりも好きだった。自分が行うことによって、彼が反応を寄越すことが。自分の手にだけに、よって。
「―――弥勒……」
「…はぁっ…あぁ……」
耳元で囁かれる名前は、ひどく熱い。それが弥勒の睫毛を、震わせた。口から零れる息はひたすらに甘く、身体を滑る指の感触に意識が遠い場所へと連れ去られてゆく。
「…あぁんっ…あっ!!」
脚を広げられたと思ったら、そのまま手が中心部へと滑り込む。微かに立ち上がり始めた自身を指で包まれた。
「…ああっ…あぁっ……」
きゅっと握られて、先端部分を指でなぞられた。割れ目の部分を爪が辿り、側面を撫で上げられる。その指の動きに、弥勒は背筋がぞくぞくとするのを堪えられなかった。
「弥勒、好きだよ」
汗ばむ額に張り付く髪をそのしなやかな指が掻き上げる。そしてそのまま額に口付けられて、弥勒はうっすらと瞼を開いた。快楽のせいで滲む視界の中で、怖いほどに綺麗な男の顔が映る。その顔が口許だけで、微笑って。そして次の瞬間、本当に微笑って。
「君だけが好きだよ…弥勒……」
そのまま柔らかく口付けられて、自身を握られた手に力を…込められた。


「んんんん―――っ!!!」


喘ぎは唇に吸いこまれ、欲望は手のひらに掬い取られた。一瞬視界が真っ白になって、そしてびくびくと身体が痙攣するのが分かる。けれどもそれを止める術を、弥勒は知らなかった。
「…はぁ…はぁ……」
唇が開放されても零れるのは荒い息だけだった。声を紡ごうにも喘ぎが邪魔をして、言葉にならなかった。そんな弥勒を見下ろす梅月の瞳が、ひどく。ひどく弥勒の心に触れてくる。
怖いほど自分を貫く視線。その中に含まれる激しいもの。それを知っているのが自分だけだと言う事実がまた。また、弥勒の心を掴み取る。

こんな想いを向けたことも、そして向けられたことも、自分はなかったから。

「このまま、何時も君を殺したいと思っている」
梅月の腕が弥勒の腰を抱かえると自分は着物の裾を割って、そのまま自身を取り出した。既に充分な硬度と巨きさを持ったソレを弥勒の入り口に当てると、そのまま一気に貫いた。
「――――ああああっ!!!」
訪れる襲撃に弥勒の口から悲鳴のような声が漏れる。それを聴きながら、梅月は腰を進めた。
「…このまま貫き殺したら…君は……」
「…あああっ…あぁぁっ!……」
深く内壁を抉ると、そのまま締め付ける媚肉を引き裂く。硬い楔が弥勒の奥を抉り、一番深い部分を貫いた。その激しい痛みを伴う快楽に、一気に弥勒の思考が飛ばされる。
「…君は僕だけのものに…なるだろう?……」
「…ああっ…ああぁ…はぁぁっ!」
擦れあう肉の感触が、繋がった個所から聴こえてくる濡れた音が。それが弥勒に直接的に与えられ、思考の全てが奪われる。ただ。ただもう今はその中を抉る熱さを感じるだけで。
「…僕だけの…ものに……」
「ああああっ!!」
限界まで貫かれ、そして。そしてびくんっと身体が跳ねた瞬間、熱い本流が自分の体内へと注ぎ込まれた。


君の面を粉々にしてやりたいと何時も思っている。
君の大事なものを全て奪ってしまいたいと思っている。
例え君に憎まれても、君に嫌われても。
それでもその『想い』が、僕だけに向けられるものならば。


―――僕だけに、向けられる感情であるのならば……


「…好きだよ…弥勒……」
それでも、まだ僕はそれを実行出来ないでいる。
「…梅…月……」
気付いたから。気が、付いたから。
「…君だけが…好きだよ……」
何時しか君が僕にだけ見せてくれるようになったその表情に。
「―――好きだよ…弥勒……」
ひどく穏やかな笑顔を、僕だけに。



…その笑顔を誰にも渡したくないと云う想いがまた…また僕の心にある限り……




何時しか僕は、君を手に入れるために。
君の全てを手に入れる為に、君の一番大事なものを壊すだろう。
それが。それが『僕自身』であればと願うのは。




――――願うのは…馬鹿な事だろうか?





End

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