太陽ニ殺サレタ

夜の舞台 幕が上がる 時を止めて
 
喉がひどく、乾いていた。乾いて焼け付いて、そして。そして望む。
地上に降り注ぐ雨のように、お前を渇望する。

立ち上がれない 動けもしない 俺を見ないで

分かっていた事だった。ふたりを刻む時計の針は決して重なる事は無い。
ただ瞼を閉じるその刹那、針が重なっただけだから。
分かっていた事だった。遠い昔から、そんな事。

ああ お前のための死化粧 はがれ落ちる

螺旋のように巡り続ける時間と、終わらない時計。
その流れの中でただ。ただこの身体を浸して。浸して漂うだけの自分。

耳がちぎれそうな拍手の中で
『奇麗だろう 醜いだろう 答えてみなよ』

『…もしも俺が死んだら…お前少しは、哀しんでくれるか?』
見上げてくる瞳の光の強さと、揺るぎ無い強い意思。その瞳が曇る事は永遠にないのだろう。
言葉でそう告げながら、瞳は言っている…お前は俺が死んだら、哀しむと。
『少しは哀しめよ、犬神。でないと俺可愛そうじゃんかよ』
可愛そう?お前の口からそんな言葉を聞くとは思わなかった。お前よリも俺の方が憐れだ。
…俺の方が…ずっと……
『少しは俺の事、好きになれよバカ』
ずっと、孤独だ。
 
笑えもしない 涙もしない 発狂してた
黄昏時 暗闇時 息を殺す

『犬神、ちゃんと俺を見ろよ』
お前を見ていたら俺はその光に目を潰されてしまう。闇しかない、闇以外無い俺にお前の光は眩し過ぎる。それでも。
『見てくれよ、犬神。俺はこうやってお前の前にいるんだ』
それでも俺はお前から目を離せない。目を潰すほどの痛烈な光。お前の光。
その光に焼き尽くされるのも…構わないと、思った。
『俺は今お前の前にいるんだ。過去でも未来でもない、今の俺を見てくれよ。そしてお前の心に刻め』
ただ流れゆく時間の中で、お前は俺を立ち止まらせた。
闇だけが零れてゆく俺の視界の中でただ一筋の光が。その光だけが俺を照らす。
『俺を、お前の中に刻め』
刻んで、そして。そして永遠になるのか?永遠になってまで俺を苦しめるのか?お前は。
 
ああ 影絵の中で独り 置き去りのまま
さまよう 夢と指が 腐りかけた

深い森の中をさまよっているようだった。
永遠に抜けられない迷路の中を、ただもがいて。
もがいて、もがいて。俺は何処に辿りつくのか?
 
『幻覚だろう 薄弱だろう 教えてくれよ』
『そんな嘘だろう 真実だろう どうでもいいいさ』
 
「蓬莱寺」
口にしてみたその声の乾きがひどく可笑しかった。このままお前の存在も時と共に埋もれて乾いてゆくのだろうか?
死に行く者は永遠になんてなれはしない。その肉体が滅び魂が消滅して、そして。
そして記憶から消えて、そして何もかもが消えてゆく。けれども。
けれどもお前は死に行く者にはならない。
お前の肉体が滅びても、俺の牙がお前の肉の味を覚えている。
お前の魂が消滅しても、俺の心がお前の声を覚えている。
このままお前は俺の『永遠』になって、ずっと俺を苦しめ続けるんだな。

太陽ニ
殺サレタ…
サヨナラヲ
言ウ前ニ…

死ぬ事も、生きる事も俺にとっては全て無意味だ。
誰かを愛する事も誰かに愛される事も俺にとっては必要のないものだ。
それでも。それでも俺はお前を渇望した。
死んで腐った魂で鼓動を刻み続ける事と。生きて輝く魂で鼓動を止めてしまう事と。
…どちらが『生きている』と言えるのか?
 
やがて幕が閉じる 憂鬱の中で

俺は死なない。永遠とも思える無限の時の中でただ息をし続ける。
お前は死んだ。瞬き程の時間の中で一瞬その命を無限に輝かせた。
…どちらが『死んでいる』と言えるのか?
 
『死ぬんだろう? 生きるだろう』何を探して
『そんな嘘だろう 真実だろう どうでもいいさ』

「…京一……」
次の瞬間に口にしたその声は。その声はまるで別人のような声だった。
今まで自分が発して来た声とは明らかに違う、何処から来たものか分からない程に無様な声だった。
愛する事など無駄だと分かっていた。他人を想う事など無意味な行為だと。
独りで生きて行くのに感情など煩わしいものでしかないのだから。
他人と関わる事など。そして他人と繋がる事など。それでも。
それでもお前は俺の胸を貫いた。鋭い太陽の破片で、俺の心を抉った。

太陽ニ
殺サレタ…
サヨナラヲ
言ウ前ニ…

…俺さ、ずっとお前といたいって…思ってる……
ムリだって分かっているけどさ、それでも。
それでもお前が独りになっちまったら、誰が。
誰がお前の『優しさ』を分かってやれる?
俺以外の誰が…お前の本当の優しさを分かってやれるんだよ…
だから犬神、俺は。
…俺はお前を独りになんてしたくねーよ……
 
太陽ニ
殺サレタ…
サヨナラヲ
言ウ前ニ…

なんでかな?なんで上手くいかねーんだろう。
俺はただ…ただお前と一緒にいたいだけなのに。
お前が退屈しねーよーに。一緒にいてやりたいだけなのに。
だって…だって俺がいないとお前つまんねーだろ?
独りでいたってつまんねーだろ?
だから俺が。

…俺がずっと…お前の傍にいてやりたかった……
 
死にたいと、今初めて思った。
解放されたいと今、初めて。
全ての事に無関心で、全ての事がどうでもよくて。
そんな風に息をしていた自分が今初めて。
初めて死にたいと思った。
 
全てを『無』にしたいと思った。

何で俺は素直になれねーんだろう。
ホントは何よりもお前のことが好きなのに。
好きって言葉すら照れくさくて言えなかった。
言いたかったのに。言ってやりたかったのに。
俺はこんなにもお前を想っていると。
お前が大事だと。お前を心配していると。
…だから俺がいなくなったお前も…心配だって……

どうしたら、つたわる、かな?

永遠に乾く事の無いこの渇望を抱かえながら、俺はこの無限の時をただ流れてゆく。
前に進む事も後ろへ戻る事も無く、ただ。
ただ流れてゆくだけ。痛みも苦しみも全て。全て今ここに置いてゆくから。
死ぬことが許されない俺にそれ以外の選択肢はない。
それでも、それでも俺は。
 
「…蓬莱寺…俺は……」
 
今、殺された。
お前と言う名の太陽に。

太陽ニ殺サレタ



End

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