言葉遊び
―――私は、女。
ただの女。
一人の男を愛したただの、女。
貴方の為になら、私はどんな事でもするわ。
口付けて、そして舌を絡める…私から…。
「先生」
ただ一人私が愛した貴方。何処にでもいるようで、でも決して何処にもいない貴方。幾ら『凡庸』と言う膜を被っても、貴方の強い存在感は決してそんなものでは隠れはしない。
「犬神、先生」
貴方の鋭い爪と牙は、そんなモノでは決して隠れはしない。隠れは、しない。
「愛しているわ、先生」
貴方は決して愛してくるとは言ってくれない。だって私を愛していないもの。いいえ貴方は誰も愛してはいない。分かっているわ。貴方の心は誰にも奪う事は出来ないのだから。
それでも。それでも貴方を独占したいと思うのは、私が女だから?
「…愛しているわ…先生…」
―――誰にも、渡したくない…決して…あの子…にも……
言葉、遊び。
たくさんの言葉。
色々な言葉。
そのどれを当てはめても、貴方にはならない。
世界中のどんな言葉を埋めても。
貴方に当てはまるモノがない。
『愛してるって言えよ、犬神』
『―――言われたいのか?お前は』
『…だってさー…』
『俺だけが…お前…思っている…みたいじゃん……』
「…んっ…ふっ…」
唇を重ねて舌を絡めれば、貴方はそれに答えてくれる。貴方の太い指が私の胸を服の上から鷲掴みにした。ブラジャーの上からなのに、それでも乳首が尖っているのが分かる。
「…あんっ…はぁ……」
布越しに触れられるのがもどかしくて、自ら服のボタンに指をかけてそれを外した。
「我慢出来ないのか?淫乱な女だな」
今日初めて、貴方の声を聞いた気がする。貴方の、声。心の芯まで凍えてしまいそうな声。でもそんな声が、好き。大好きだから。
「出来ない…先生…私…あぁんっ」
貴方の手が乱暴にブラジャーを剥ぎとって、直接胸に触れた。乱暴に揉まれ乳首を摘まれれば堪えきれずに口からは甘い息が零れる。
「デカイだけで、つまらんな」
「やんっ…先生もっと…もっと…揉んで……」
胸から離れようとする手が惜しくて、自ら突き出した。しかしもう胸には触れてくれなかった。その代わりに指が、スカートの中へと滑り込む。
「…あっ…あん……」
指がパンティー越しに触れる。そこはこれからの行為に期待してすでに雫が滴っていた。
「こんなに濡らして…本当に淫乱な女だな」
「…だって…先生が…触れているから……」
指が布越しに割れ目を辿る。そのまま指を奥まで入れられて、堪えきれずに口から甘い息を漏らした。
「…あっ…はぁ…あ……」
「布がぐちゃぐちゃだぞ…頭の中にはソレしかないのか?」
「…あぁ…だって…貴方だから……」
我慢なんて出来る訳がない。貴方の指が私に触れている。私の中に…入っている……。
「…先生…愛している…愛しているわ……」
もっと指を感じたくて、自ら腰を沈めた。けれども意地悪な貴方の指はそれ以上動いてはくれない。それがもどかしくて。
「愛して、いるわ」
拒まない唇に口付けた。決して拒まないけれども、受け入れない唇に…。
『言って欲しいのか?』
『…やっぱいいっ!』
『―――ヘンな奴だな、お前は』
『うるせーお前に俺の気持ちは分かんねーよっバカ』
『ふ、お前は本当に…』
『…可愛いな…蓬莱寺……』
貴方の口からそんな言葉が零れるなんて…思いもしなかった……。
これ以上動かない指に焦れて、私は自らパンティーを脱いだ。スカート事床に投げ捨てる。
「女の身体は柔らかいだけが取り柄だからな」
動かす事すら煩わしいのか、貴方は煙草に火を付けてそのまま吸った。ヒドイ男。私とのセックスの最中にそんな事をする男なんて貴方が初めてよ。
どんな男だって、私の身体に溺れるのに。私が胸を出せば、貪るように吸いついてくるのに。それなのに貴方は、関心ひとつ示さない。
「そうよ男とは決してこんな感触は得られないわ」
貴方のワイシャツのボタンを外して、その逞しい胸を自らの胸で辿った。肌が触れるだけで、乳首の先端は痛い程に張り詰める。
「こんなコトも…出来ないでしょう?……」
ズボンのジッパーに辿りつくと、金具を口で咥える。そしてそのままジッパーを引き下ろした。
まだ欲望に火を付けていないにも関わらず、貴方のソレは適度な硬度を持っていた。それが、何人もの女をそして男を狂わせる。
「ねっ、先生」
私は貴方自身を両の胸で挟み込んだ。そしてそのまま手で胸を揉みしだく。
…こんなコト…あの子には…出来ないでしょう?……
「そんなコトしか出来ないんだろう?」
「…そうよ…こんなコトしか出来ないの……」
胸で挟みながら貴方の逞しいソレを口に咥えた。他のどんな男のを咥えても、こんなに口から溢れ出るような感触は得られない。
「…んっ…ふぅ…んん……」
舌で先端を辿りながら、胸で廻りを包み込む。身体を上下に揺らして、より一層快楽を与えるために、そして得る為に。
「…んん…はむ…はんっ……」
私はただの雌猫に成り下がった。貴方が欲しいから。貴方の為になら何だってするから。他には何もいらない。何もいらない、貴方が欲しいの。
「…ふぅっ…んんん…はぁっ…せんせぇ……」
そそり立つ貴方の男根を見つめ、うっとりと私は呟いた。この逞しさと硬さを持ったモノを私は他に知らない。この味を知ってしまったら、どんな男とセックスしても物足りない。
物足りない、満足なんて出来ない。この肉を身体に埋めこまれてしまったら。
「…かけてぇ…このまま私の顔に……」
「――ふ、そうだな。お前みたいな雌ブタには精液塗れの顔が似合いだ」
「―――ああんっ!!」
ぴちゃひちゃと音を立てて私の顔に白い液体が掛かる。それが首から胸にそして脇腹へと伝う。私はそれを指で掬って、舐めた。貴方の味。貴方の匂い。ああ、しあわせ。
「綺麗に舐めろよ、精液塗れの女なんて抱いてもつまらんからな」
「…ひどいわ…貴方のモノなのに……」
「これが欲しいんだろう」
「…あんっ!」
足を広げられて、先ほど果てたばかりのソレを入り口に充てられる。出したばかりの筈のソレは、もう既に女を狂わせる程の硬度を持っていた。
「本当に淫乱な女だな。こんなにヒクつかせて」
入り口に当たっているだけなのに私の花びらはひくひくと、震えた。そこからまた愛液が滴り落ちる。触れられているだけなのに、身体の芯がじんじんと疼いて堪らない。
「ここまで液が零れてるぞ」
「はあんっ」
何時しか貴方の太い指がもうひとつの穴へと埋められる。そこは言葉通り、前から零れた液体でぐしょぐしょに濡れていた。
「ああんっもぉ我慢出来ない…せんせぇ…ちょうだい…いっぱいちょうだい…」
私はただの雌犬。貴方にいいように玩ばれている雌犬。そこには女としてのプライドも、女としての人格もない。ただ。ただそこには雌としての欲が存在するだけ。雄を欲しがる欲望だけが、存在するだけ。
「アアア―――ッ!!!」
無が夢中で貴方に跨った。私の女としての器官は貴方の肉を埋め込んだ悦びで、紅く色付く。逃すまいと淫らに絡みつき、そして最奥を抉られる快楽に酔った。子宮を引き裂くようなその熱さに…全てを壊れてしまいたいと思った。
コトバ、アソビ
「好きって、言えよ」
タクサンノ、コトバ
「好きよりも」
アナタニモットモニアワナイコトバ
「好きよりも」
「愛しているの方がいいだろう?蓬莱寺」
ナニヨリモ、アナタノクチカラ、キキタクナイコトバ
首を締めたとしても、貴方は死なない。
舌を噛み切っても貴方は死なない。
じゃあどうしたら。どうしたら貴方が手に入るの?
ネエ…ドウシタラ……
「貴方を手に入れたい」
「――お前にはムリだ…いや誰も俺を手に入れる事は出来ない」
「あの子でも?」
「そうだ…あいつは…」
「俺が手に入れたんだ」
愛しているわ、愛しているわ。誰よりも貴方を愛しているわ。
「それでも欲しいと言ったら、貴方は笑う?」
「――バカな女だ」
「そうよ、私はバカな女」
「貴方に恋したバカな女なの」
それ以上でもそれ以下でもない。ただの女。
私は、女。
愛に生きる、愛にしか生きられない、女。
でもそれは。
それは決して、不幸な事ではない。
貴方を永遠に手に入れられなくても。
永遠にあのコに勝てなくても。
それでも。
貴方を愛して、そして狂わされた事は不幸ではないから。
だって私は女だから。
女は愛に忠実な生き物だから。
End