LOVE FLOWER


手を、繋ぎたいなって思った。
凄く馬鹿みたいな願い事だけど。
その大きな手に包まれたいなって。
そんな事を、思った。

たくさんの花束を、こころに降らせよう。

「先生の眼鏡って度がきついですか?」
大きな瞳を覗かせながら、黒崎は尋ねた。まるで子供みたいな純粋な瞳を向けながら。
「掛けてみるか?」
「いいんですか?!」
その言葉にぱっと嬉しそうに表情が変わるとそのまま眼鏡を外して、自分の顔に掛けてみる。その途端ちょっと不思議そうな表情を黒崎はすると、そのまま犬神の顔を見上げた。
「どうした?」
「先生、これ度が入ってません」
「まあな、これは伊達だからな」
「なんでそんな事するんですか?」
至極当然に尋ねてきた黒崎に、犬神は口許でひとつ微笑って。
「…眼光を隠す為さ……」
そしてそっと、黒崎の唇を塞いだ。

大きな、手。
優しい手。暖かい手。
安心出来る、手。
たったひとつだけの、温もり。

「先生の瞳は、何時も底の見えない漆黒の色をしている」
黒崎の腕が自然に犬神の背中に廻ると、そのままぎゅっと抱きついた。広い、背中。広くて大きくて、そして絶対に安全な場所。この背中の後ろにいれば絶対に自分は安全だと確信出来る場所。
「闇しか、見えないからだ」
この腕に、包まれていれば。どんなことがあっても平気だと、言える場所。
「俺も見えない…ですか?……」
「俺はバカは見えないんだ」
「ひどいっ!先生っ!!」
「なんだお前、自分がバカだって自覚あるのか?」
犬神の言葉に黒崎の頬がぷぅっと膨らむ。こんな所がどうしようもなく単純だと…犬神は思わずにはいられない。でもこんな子供っぽさに何処か自分が救われている事も。
そう、何処かで救われている。この無垢なまでの無邪気さに。
「…先生…俺の事…見てください……」
少しだけ泣きそうな表情で黒崎は言った。本当にこのままだと泣いてしまうのかもしれないと、犬神が思ってしまう程に。どうしてこいつはこんなにも自分の感情を隠そうとしないのか。そんな事をふと、思ってしまう程に。
「…ちゃんと見て、ください……」
だから、どうしても。どうしても、自分は。
「…分かっている……」
…このガキに甘くしてしまう……

その手に、触れられるだけで。
どうしようもない程に胸がどきどきして。
どきどきして、そして。
そしてちょっとだけ苦しくなる。

眼鏡を外した途端、犬神の唇が黒崎のそれに降りて来た。黒崎は黙ってそれを受け入れる。
「…んっ……」
唇を舌でつつかれて、黒崎はその合図にそっと自らの唇を開いた。その途端に生き物のように舌が忍び込んでくる。その舌におずおずと黒崎は自らのそれを絡めた。
「…んっ…ふぅ……」
まだ上手く絡められない舌のせいで、黒崎の口許から一筋の唾液が伝う。それが首筋に零れる前に犬神は自らの舌で掬い取った。
「…はっ…先生……」
「まだまだだな」
キスだけで瞳が潤んでしまう黒崎に犬神はひとつ苦笑すると、そのままゆっくりと床に押し倒す。畳の匂いが黒崎の鼻孔を刺激した。
「…まだ、ダメですか?…合格点くれませんか?」
「お前はきっと一生俺からは貰えない」
その言葉に黒崎は嬉しさ半分、哀しさ半分の複雑な表情をした。
一生合格出来ないのならばずっと先生は俺にキスしてくれるかな?そんな事を思いながら。
でもそうしたら一生先生を満足させてあげる事が出来ないな…とも思いながら。
先生とずっとキスしていたいけど、先生にも満足してもらいたいから。
「だから補習だ」
そう言って犬神は黒崎に再び口付けるとそのままワイシャツのボタンを外していった。

「…あっ……」
現われた鎖骨のラインにざらついた犬神の舌が滑る。人間じゃない舌の感触。でもそれが逆に黒崎の性感帯を刺激する。そしてその後に落ちてくる牙の感触も。その冷たい、物体に。
「…はぁっ…先生……」
黒崎の指が犬神の髪に絡まるとそのままくしゃりとそれを乱した。何時も少しだけぼさぼさの髪がそれによって益々ぼさぼさになってしまった。けれどもそれすらも黒崎にはどうしようもなく嬉しい事で。
自分の行為によって先生が変わる事が、何よりも嬉しい事だから。
「…あんっ!…」
何時しか辿り付いた胸の果実に犬神は舌を尖らせてつついた。その刺激に腕の中の肢体がぴくりと跳ねる。その反応が面白くて、執拗に犬神はそこを攻め立てた。
「…あぁ…ん……」
甘い、声。何処かねだる様に。それでもその顔は純粋で。瞳が快楽に潤んでも、無邪気さは色褪せる事がなくて。微妙なほどのバランスでそれは成り立っていた。
この不思議な魅力が自分を捕らえるのか?と犬神はその肢体を弄びながら、ふとそんな事を考えた。
どんなに抱いても、どんなに犯しても。子供のような無邪気さと無垢な心。飽きれるくらいの純粋さ。それは一体何処から来るものだろうか?
そしてその純粋さは一体何処へ俺を連れ去ってゆくのだろうか?
…きっと考えても、答えなんて一生出ないのだろうな。でもだからこそ俺は、お前を手放せない……。

こうして、抱かれる時が一番。
一番安心出来るのはどうしてだろう?
何時も痛い思いをしているのに。
それでも先生が中に入ってくると安心して。
安心して、そして。
そして満たされるのは。
…どうして、かな?……

「…ああっ!……」
何時しか犬神の舌が黒崎自身へと辿り付く。そこは先ほどからの愛撫のせいで形を明らかに変化させていた。
「お前のココもお前みたく単純だな」
「…やあっ…あんっ…」
犬神が先端を軽く吸い上げただけで、もうそこからは愛液が零れ始めていた。犬神は一端そこから唇を離すと、その雫を自らの指で掬った。
「ほら、舐めろ。お前のモノだぞ」
言われて黒崎は頬を微かに染めながらも、その指を舐めた。口の中に少しだけ苦いものが広がる。でもそれが自分が感じて流したものだと分かると、離れたはずの黒崎自身からはまた先走りの雫が零れ始める。
「…んっ…んん…」
「自分の舐めただけで感じたか?」
「…あ…あの…その…」
指を引きぬかれて耳元で囁かれた言葉にかぁ、と黒崎の頬が染まる。そんな様子に犬神はまたくすりとひとつ、苦笑して。
「しょうがない奴だ」
そう言って黒崎の欲望を吐き出させる為に、犬神はそれを強く扱いてやった。

「…先生……」
潤んだ瞳が自分を見上げてくる。夜に濡れた瞳。けれども純粋な瞳。
「ん?」
「…来て…先生…」
益々頬を真っ赤にさせながら、それでもお前は言った。その声は消え入りそうに小さな声だったけれども。
「まだココに準備していないぞ」
俺はまだ閉じたままの蕾に指を入れた。狭過ぎるソコはたやすく指を迎え入れてはくれない。それでも掻き分けるようにその中へと刺し入れた。
「…くぅ…んっ…いいんです……」
そう言いながらも媚肉は異物を排除しようとして俺の指を締め付ける。そしてお前の形良い眉も歪んでいた。
「痛い思いをするのは、お前だぞ」
「…いいんです…だって…」
「だって?」
「…何時も…俺…入れられた途端意識飛んじゃうから…だから…少しでも…先生を…感じたい…から……」
最期の方の声はあまりにも小さ過ぎて、普通の人間ならば絶対に聞き取れないものだっただろう。多分こいつも聞えないと思っている。
…でも生憎だったな…俺の耳は常人の聴覚とは違うんだ……。
「分かった」
俺はこいつの望みを叶える為に、狭過ぎるソコに自分自身を当てて一気に貫いた。

「――――あああっ!!」
犬神の予想通り黒崎の表情は苦痛で歪んだ。それでも背中に爪を立てて必死で痛みを堪える姿はひどくいじらしく感じた。
「…抜くか?…」
汗の滲む額に口付けながら、犬神はそう尋ねた。けれども黒崎はいやいやと首を振るだけだった。何も準備を施されていないそこに入れられるのがどんなに苦痛か分からぬ犬神ではない。普段だってきちんと蕾をほぐしても痛がるほどなのだから。
「…あつ…あぁ…抜かないで…大丈夫…だから…だから…」
そのままの姿勢で黒崎は犬神に口付けた。その行為が自らの中の犬神自身をより締め付ける事になっても。それでも自ら黒崎は口付けた。
「…動いて…先生…俺…大丈夫だから…だから……」
「……分かった………」
少しでも黒崎の痛みを和らげるように犬神は萎えてしまった黒崎自身に再び指を這わす。その巧みな指使いにそこは再び形を変化させた。それを見計らってゆっくりと犬神は動き始めた。
「…あああっ…あぁ……」
目尻から大粒の涙を零しながらも黒崎は必死で犬神の背中にしがみ付いた。
…感じたい、から。先生を…感じたいから……

痛みと快楽の狭間で混沌とする意識を必死で堪えながら、俺は。
俺は先生の作り出すリズムを追った。
そして中にあるその圧倒的な存在感に、どうしようもない程の幸せを感じる。
自分を傷つけいてるモノが、自分を何よりも護ってくれるモノだって知っているから。
だから、俺は。
…俺は…先生に抱かれるのが…一番好き……。

自らの体内に注ぎ込まれた熱い液体を感じて。
その熱さに黒崎は全てを満たされて。そして。
そして意識を失った。

たくさんのキスと。たくさんの花束を。
ふたりに降らせて。ふたりを埋めて。
そして。
そして優しさに包まれる。

「…先生…大好き……」
その言葉に犬神は腕の中の黒崎を見つめる。けれどもその顔は安らかに睡眠を貪っていた。
「寝言、か」
それだけを言うと、再び犬神は黒崎をそっと抱きしめた。その大きな手で。その暖かい手で。
…黒崎が一番好きなその優しい手で……。

無意識の内に絡んできた指先に、犬神は拒む事なくそれを包み込んだ。
そしてゆっくりと目を閉じて、黒崎の後を追った。



End

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