きす。
見つめて。
みつめあって。
そして。
そしてたくさんのキス、を。
たくさんのキスを、しよう。
大好き、だから。
「京一」
名前を呼ぶ。何時ものように、何時もとちょっとだけ違う風に。だって今は少しだけ…少しだけ、お前に甘えたいから。
「ん、何?ひーちゃん」
呼べば必ず答えてくれる。俺を真っ直ぐに見つめて。見つめてそして、全てを包み込んでくれる。大きな手と、優しい瞳で。
「…何でもない、ただ呼んでみたかっただけだ」
そう言ってお前を見上げればやっぱり予想通りの優しい瞳がある。優し過ぎる瞳が。どうしてお前はこんな瞳を俺にしてくれるの?
「へへ、嬉しいぜひーちゃん。もっと呼んでくれよ」
こつんとおでこを充てながら俺の頬をその大きな手で包み込む。大きくて節くれだって、でも何よりも優しい手。この手に包まれたならば全てのものが怖くなくなるから不思議だ。
不思議な、手。東京を護ると言う重圧も、黄龍と言う運命も、全部。全部この手に包まれたなら、何もかもが消え去ってしまう。何もかもが。
不安とか、恐怖とか、そう言ったものが全部。全部この手の中に吸い込まれてしまう。
「…じゃあ、京一……」
―――この手のひらに、全部。
「ひーちゃん」
―――全ての、不安が。
「…京一……」
―――そして全ての、想いが。
「好きだぜ、ひーちゃん」
そう言ってひとつお前は微笑って。キスをくれた。
キス。たくさんのキス。
いっぱいいっぱいしても。
数え切れないくらいしても。
どうしてかな?
足りないって思ってしまう。
…足りないって…思う。
なんでこんなにいっぱいキスをしているのに。
どうしてこんなにも欲張りになってしまうの?
どうして、かな?
名前を呼ぶだけで、睫毛が震える関係。
「…京一……」
腕を伸ばして、背中に絡めた。広い、背中。広くて強くて、そして優しい背中。俺が大好きな、背中。
「ん?」
ちょっとだけ甘えるように、こつりと胸に頭を当てた。そんな俺にお前は笑う。俯いているから、お前の顔は見えないけれども。それでも。それでもお前がどんな顔をしているか…俺には分かるから。
優しい顔を、しているって。誰よりも優しい顔を。
「…きょう…いち……」
理由なんてない。意味もない。ただ呼びたくて、呼びたいから名前を声にする。
「…ん、ひーちゃん……」
そしてお前は分かってくれる。そんな俺の気持ちを誰よりも分かってくれる。説明なんていらない。余計な言葉もいらない。必要なのは。必要なのは今お前に伝えたい事。
―――お前に伝えたい言葉、だけだから。
「大好きだぜ、ひーちゃん」
柔らかく髪を撫でる指先。それは決して上手くはないけれど。けれども不器用でも優しさが伝わるから。優しさが、伝わるから。
「…俺も…好き…だよ……」
俯いたまま言った俺に指の代わりに唇が降りて来る。
…それだけでどうしようもない程に、胸が熱くなるのは…お前のせいだ……。
言葉じゃ足らねーから。
…京一?……
全然足らねーから。俺の気持ちはもっと。
…もっと?……
もっともっとひーちゃんを好きだから。
…じゃあ今お前が言っている言葉よりも俺が好き?……
うん、好きだぜっ!ああダメだ全然足んねーよ。どうして俺ってこんなボキャブラねーんだよ。
…くすくす……
何笑ってんだよ。
…だって…分かるよ…
『どんな難しい言葉を使うよりも、気持ち伝わるよ』
「足らないから、キス」
そう言ってお前はまた俺にキスした。でもね、京一。俺も足りないんだ。
「…もう一回…」
「ひーちゃん?」
「…もう一回、キスして…」
足りないんだ。だから、もっと。もっと、もっと。
キスをしたい。お前と、キスを。
…お前と…ふたり、で……
唇が離れて。そして、みつめあった。
みつめあって、笑った。
いっぱい、いっぱい笑って。
そして、またキスをする。
数え切れないほどの、キスを。
きす、をする。
End