もう一度、俺達は見つめあった。

―――ほら、触れ合っているよ。

そっと重ねた指先。
暖かい、指先。
触れ合った先の命のシルシ。
暖かい、手。
それが。
それだけが、欲しかったの。


俺を独りにしないでね。
時々ただ泣きたくなるから。
独りでいると無償に。
ただ、泣きたくなるから。

お前の声を聴くだけで、俺は強くなれるから。


「生きて、いる」
その広い背中に腕を廻して、その存在を確認する。広くて、強くてそして優しいその背中に。
「お前、生きて、いる」
それだけが俺の事実になって、俺の唯一の真実になって、そして安心する。そして、安らげる。
「…京一……」
ただひとりのお前の名前。何よりも誰よりも大切なモノ。唯一ただひとつのお前の名前。この名前を呼べる事が、何よりも幸せだから。
「…きょう…いち……」
幸せ。どうしようもない程の幸せ。それはお前を、愛していると言う事。


ただ生きたいと、それだけを思った。
お前の為に生きたいと。
お前を独りにしたくないと。ただそれだけを。
それだけを俺は、思ったから。

ひーちゃん。
俺の、ただひとりのひーちゃん。
重たい運命をその小さな肩で背負って。
ただ独りで背負って。
誰もお前の代わりになれないから。
誰もお前の代わりになってやれないから。
だから。
だから、俺は。
独りで必死で立とうとするお前を支えたくて。
お前が運命に押しつぶされないように。
俺がこの手で。
この手で、護ってやりたいから。
だから、生きたい。

―――お前が、生きているこの世界で。


「ひーちゃん」
名前を、呼ぶ。お前の名前を。誰よりも何よりも想いを込めて。
俺の想い。俺の気持ち。その全てをただ独り、お前だけに。
「…ひーちゃん……」
愛しているよ。愛して、いる。言葉にしても俺の想いのどれだけを伝えられているのか?俺の想いのどれだけを。こんなにもお前を想い、愛していても。
―――言葉なんて気持ちのどれだけを、伝えられているのだろうか?
「生きて、いるぜ…ひーちゃん……」
生きている、死にはしない。お前を独りにはしない。どんな事になろうとも、お前だけは決して…決して独りにはしないから。
「ほら、動いているだろ?俺の心臓」
抱きしめる。きつく、抱きしめる。そして俺の命の音を、お前に伝える。お前の為だけに刻まれている俺の心臓の音を。


独りに、しないでね。
俺は弱いから。ちっぽけで弱いから。
強がっているだけだから。
運命に押しつぶされないように。
運命にさらわれてしまわないように。
必死に。必死に強がって。
そして『黄龍』を、演じている。
皆が望む、東京を護る救世主を。
俺は演じているだけ。ただのピエロなんだ。
でもね。
でもお前だけは、俺を『緋勇龍麻』として見てくれるから。
お前だけが気付いてくれたから。
押しつぶされそうな俺に手を差し伸べてくれたから。
壊れそうな俺を支えてくれたから。
お前だけが。お前だけが。

―――俺を、みつけてくれた。

独りで怯えている俺を。
その太陽よりも眩しい笑顔で。
お前だけが、俺に。

俺自身のままで生きていいって、言ってくれたんだ。


「背中、痛くない?」
「平気だぜっひーちゃんが心配してくれたから痛みも吹っ飛んだ」
「またお前はそう言う事を言う…」
「本当だぜ、ひーちゃん」
「…京一……」
「ん?」
「…もう……」

「何処にもいかないでね」

いかないで、独りにしないで。
お前があの瞬間。
八剣に切られた瞬間。
俺は記憶を失った。
お前がいない現実を耐えられなくて。
俺はその瞬間のことを全て忘れてしまったんだ。
今、こうしてお前に会うまで。
お前の瞳を、見つめるまで。

―――全てを、忘れていたんだ。

「いかねーよ。俺の場所はここだけだかんな」
「ここ?」
「お前の隣」
「…京一……」
「ここだけが、俺がいる意味のある場所」

何の為に生まれてきたとか。
そんなバカな事を本気になって考えてみた。
あの時。死にそうになった時。
俺の人生は何の為に存在していたのかって。
バカみたいにその瞬間に考えた。
そうしたら。
そうしたらたったひとつ答えが、出た。

―――お前の為に、生まれてきたんだと。


独りになんて、しない。
お前を決して独りになんてしない。
お前の孤独を分かるのは俺だけだ。
お前の哀しみを。お前の苦しみを。
分かってんのは、俺だけだから。そうだよな。
そうだよな、ひーちゃん。


独りでなんて、いられない。
お前の優しさを知ってしまったら。
お前の腕を知ってしまったら。
俺の哀しみを。俺の苦しみを。
分かってくれるのは、お前だけだから。ねぇ。
ねぇ、京一。そうだよね。


そして。
そしてもう一度。
もう一度俺達は見つめあった。
その瞳の先に互いの存在以外いないと確認するために。
互いの存在だけが唯一のものだと確認するために。
そして。

―――もう一度、俺達は見つめあった。





End

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