ばらばら。

ばらばらに、切り刻んだ。
切り刻んだ、足と手と。
そして身体。
全部切り刻んで、そして。

―――そして食べた。


顔だけは、腕の中に抱いた。
綺麗なその顔を抱いて。
抱いて俺は、キスをひとつ。
冷たい唇が体温を分け合えないと知っていて。
知っていて、キスをする。
だってこれで。
これでお前に体温を与えるのは俺だけだろう?
なぁ、ひーちゃん。


狂っていると言われた。
京一お前は狂っていると。
そうだぜ、俺は狂っている。
初めて。初めてひーちゃんに逢った時から。
俺の人生の歯車は狂い始めたんだ。

『京一、愛している』

笑いながらお前は言った。
ひどく綺麗な顔で。
ひどく幸福な顔で。
だから俺は。俺は迷わずその手首に手をかけた。
だって。だってだって。
お前だってそれを望んでいたんだろう?
お前だって俺を、望んでいたんだろう?


それから冷たくなった身体を。
その身体を犯した。
暖かい時は、大切に大切に抱いていた身体を。
欲望のままに犯した。
冷たい身体の中に熱い精液を注ぎ込んで。
そして。そしてお前の身体に暖かさを。
俺だけの、暖かさを。

―――注ぎ込む、俺の熱さを……


君は、狂っているね。
―――そうだ俺は、狂っている。
龍麻がそんなにも大切か?
―――大切さ。大切だから、壊すんだ。
壊すのか?黄龍の器に耐えられなくなったから。
―――そうさ俺が愛したのは黄龍の器なんかじゃない。

俺が愛したのは緋勇龍麻なんだ。

お前だけには狂っているなんて言われたくない。
俺よりも狂った瞳を持っているくせに。
その狂気の瞳で、お前こそ。
お前こそ愛する者を縛りつけ独占するのに。


抱きしめる。
お前の顔、お前の髪。
ああこれで。
これで全部解放されるだろう?
ひーちゃん、これで。
これで全部。


「壊れたね、蓬莱寺」
桜の下。桜の下には死体が眠る。
「…如月……」
最も愛する人の死体が眠る。
「龍麻を殺して、君も死ぬのかい?」
だから桜は綺麗に咲く。
「そうだ…何が悪い?俺達の何が悪いっ?!」
「いいや僕にとってはどうでもいい事だ…ただ君の最後を見届けにきただけだから」

如月、お前だけが俺の理解者だ。
同じ狂気の瞳を持つお前だけが。
お前だけが、理解者なんだ。
同じ黄龍の器を愛した、表と裏をそれぞれ愛した…お前だけが……。


京一、俺は。
俺は違うモノになりたかった。
黄龍の器になんてなりたくなかった。
俺は。俺は緋勇龍麻でいたいんだ。
だから本当は。
本当はこの身体も、この血もいらない。


いらないのなら、俺にくれ…ひーちゃん…
全部全部俺にくれ。
その血を、その肉を、その身体を。
全部全部俺のものに。
…俺だけのものに……


「君の想いは僕よりも純粋だ。何故なら君は彼を殺したから。僕には出来ないよ。僕はどんなになっても愛する者には生きていて欲しいから。この手で殺すよりも、この手で奪いたい」


ばらばら。
ばらばらと刻んだ身体。
全部。全部俺が取り込んだ。
全部俺が食べた。
最後はその綺麗な顔だけになって。
顔だけになったから。

だからキスを、した。


このまま。
このままふたりだけになって。
ひとつになって。
そして。

そして眠れたならば…しあわせ………





End

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