醒めない、夢
…醒めない夢なんて、存在しない。
「…どうして…霧島?……」
怯えきった、硝子の瞳。震える、細い肩。
「どうしてって?先輩の事好きだからに、決まっているでしょう」
縛り付けられた両腕を龍麻は振りほどこうと必死に動かす。しかしそれはしっかりと結ばれていて、龍麻の細い腕では解く事が出来なくて。
「…霧島は…さやかちゃんの事が好きなんだろう?…」
首筋から肩へのしなやかなライン。くっきりと浮かび上がる鎖骨。見え隠れする、胸元。その全てで男を、誘う。
「確かにさやかちゃんは好きですよ。でも抱きたいとは思いません。抱きたいと思うのは…先輩…貴方だけですよ」
霧島の手が龍麻の衣服に伸ばされる。それから逃れようと龍麻は身を捩らせたが、ベッドサイドに縛られた腕が身体を自由にはしてくれなかった。
「動かないでください、先輩を傷つけたくはありません」
身を捩ったせいで縛られた手首に痛みが走る。思わずその痛みに龍麻は顔を歪めると、霧島は哀しげに自分を、見つめた。これから自分を犯そうと言う男が…。
「やめろっ!霧島っ」
霧島の指がひとつづつ丁寧に龍麻の服のボタンを外し始める。それはまるで自分を慈しむように、優しくて。それが今の状況に相応しくなくて。
「どうして?先輩。こんなにも貴方は綺麗なのに…」
龍麻のワイシャツのボタンを胸まで外した所で、霧島は一端手を止めた。そして軽く声を漏らす。
「凄いですね、先輩。全裸の姿よりも布が纏わりついている方がいやらしく見えるなんて」
その言葉が恥かしくて龍麻の頬がさあっと朱に染まる。そしてそのまま絶えきれずに霧島から顔を背けた。
「恥かしがらないでください、先輩」
「…あっ!」
霧島の指が龍麻の桜色の胸の突起を摘む。それはみるみるうちに紅く色づいてゆく。
「ほら、こんなに張り詰めていますよ」
「…ぁぁ…やぁ……」
霧島は容赦無く龍麻の感じやすいそこを攻めたてた。摘んだり指の腹で転がしたりして、龍麻のそこを追い詰めて行く。
…その与えられる快楽に、次第に龍麻の口からは淫らな吐息でほどかれてゆく。
「…あぁぁ……あ…」
霧島の舌が張り詰めたそれをつつく。ぺろりと舐め上げると、小刻みに龍麻の身体が震えた。そしてその反応を確認すると、霧島は今度は自らの歯でその突起をかりりと噛んだ。
「…やぁ…はぁ…やっ!!」
噛まれた痛みに龍麻の目尻から涙が一筋零れ落ちる。けれどもそれに構わず霧島はその胸の突起を攻めつづけた。
「…先輩ってこういうコトするの…初めてじゃあないでしょう」
「!」
霧島の言葉に龍麻の身体が明らかにぴくりと震える。そんな様子に霧島はくすりと微笑うと。
「誰でしょうかね、先輩の相手って…。皆先輩を狙っていたからなぁ。まあ、予想は付きますけどね。先輩が身体を許す相手ぐらい」
「…あ…あぁ…ん……」
霧島は胸の果実をしゃぶりながら言葉を綴った。その不規則に与えられる刺激にイヤでも龍麻の意識は乱れてしまう。
「でもちゃっかりしてますよね。僕が奪う前に先輩のバージン貰っていっちゃうんですから」
「…やぁ…はぁ…ん…」
やっと龍麻の胸から愛撫が開放されたかと思うと、すかさず霧島はその指と舌を龍麻の身体中に滑らせた。必要の無くなった龍麻の衣服は無残にも霧島の手によって引き千切られながら。
「知っていました?先輩。先輩の無意識の癖」
「…はぁ…はぁぁ…」
霧島の手が龍麻のズボンのベルトに掛かる。そしてそれを外すとそのまま下着事霧島は剥ぎ取った。
「先輩は、無意識の内に男を惑わす表情をするんですよ。自分も男なのにね。先輩の瞳や身体は男の欲情を掻き立たせるんですよ」
「…やぁっ…」
霧島は龍麻の細い足首を掴むと、そのまま限界まで広げさせる。何も見つけていない龍麻の最も恥かしい部分が、霧島の眼下に暴かれた。
「ほらまた、そうやって誘っている。上手いですよね、先輩。男を狂わすの女の人よりも上手いですよ」
霧島は全身を舐めまわすように視線を送った。その嬲られるような視線にすら、敏感な龍麻の身体は感じてしまう。
「視姦だけで、ほら」
限界まで広げられたその足先で龍麻自身が震えながらも立ちあがっている。霧島はしばらくそれには手を触れず、ただ天使のような無邪気な顔で見つめていた。
「…くぅ…はぁ……」
龍麻は視線から逃れようと足を閉じようとする。しかししさかり固定されてしまった足は、龍麻の望みを叶えてはくれなかった。
「ねえ、先輩」
「ああっ!」
霧島の指が龍麻自身に絡みつく。男の手を待ちわびていたそれは、みるみる内に霧島の手の中で熱を帯びてきた。
「やっぱ知っていますね、先輩。男の手を」
「はぁぁ…あぁ…ん……」
巧みな霧島の指使いに龍麻の意識はは次第に追い詰められて行く。熱を帯びた龍麻自身がどくどくと脈打ち始めた。
「やぁ…ああ…」
淫らな息がとめどなく龍麻の口から漏れる。そのせいで口許から無数の唾液が零れ落ちた。その様子にすら、霧島の自らの『雄』を刺激させる。
「本当に先輩は男を狂わせますよ…貴方を残酷に苛めたくなる……」
「…ぁぁ…やだぁ…」
霧島は龍麻自身から手を離してその指を足の付け根へと移した。わざと的を外した愛撫は、ひどく龍麻を焦らした。
…はやく…はやく、開放されたいのに……
「…やぁぁ…もう…ゆるし…」
焦らされ続けて気が変になってしまいそうだった。龍麻自身は早く出口を見つけたくて。見つけたくて小刻みに震えている。
「イキたいんですか?先輩」
「…はぁぁ…やぁ…ん……」
「イカせてあげますよ。僕が、ね」
くすりと霧島は微笑うと開かれた龍麻の足の付け根に潜り込む。そしてその痛い程に張り詰めたそれを口に含んだ。
「アーッ!!」
先端を舌でつついてやるだけで、それは快楽の雫を零した。霧島はその零れた雫を全て飲み干した。
「…はぁ…はぁ…」
龍麻の身体が、汗でしっとりと濡れている。その濡れた肢体。ほんのりと紅く色づいた、その肢体。それは息を呑むほどに魅惑的で。
「ズルイですよ、先輩独りでイクなんて。僕もイキたいです、ココで」
「ああっ!」
いきなり龍麻の再奥に侵入した霧島の指に、龍麻の内壁は異物を排出しようと蠢く。けれどもその動きは逆に霧島の指を締めつけるだけだった。
「くす、先輩。そんなに締めつけたら千切れちゃいますよ、僕の指」
「…あぁぁ…やぁ…」
霧島の卑劣な言葉にすら、浅ましい龍麻の身体はぴくっと反応する。それに満足すると霧島は体内の指の本数を二本に増やした。
「…痛い…霧島…いたぁ…」
勝手な動きをするその指が龍麻の狭い中を傷つけてゆく。しかしその痛みを訴える龍麻の表情ですら…霧島の、男の本能を誘ってやまない…。
「…やめ…おねが…い…痛い…」
龍麻の口からはひっきりなしに苦痛の声が零れる。けれども霧島には、止められなかった。狭すぎる内壁を抉って…そして傷つけるのを、止めない。止められない。
苦痛に涙を2次増せる龍麻の表情は、怖い程に男を雄に変えてゆく。そのくらい、淫らで。
「…もう…こっちが我慢出来ませんよ…いいですね、先輩」
「…ああ…ん……」
霧島の指が龍麻の中から引き抜かれる。苦痛から逃れたそこは、安心したかのように緩む。しかし霧島はその隙を逃しはしなかった。
「ヒィっ!」
霧島の充分に巨きくなったその先端を龍麻の中へと無理やり突っ込んだ。
「ああ…あああっ」
そしてそのままずぶずぶと残りの部分を呑み込ませてゆく。その度に激しい抵抗が龍麻の内壁から訴えられたが、構わず霧島は捩じ込んだ。
「…やあ…ああっ…あっー」
欲望に張り詰めたそれを龍麻の中に全て呑み込ませると、霧島はゆっくりと龍麻に視線を向ける。龍麻の目尻からは先ほどとは比べ物にならない激痛に、後から後から涙を滲ませてゆく。
「…痛…い…助けて…ああっ」
その苦痛に歪んだ表情に、霧島は次第に自分を抑えきれなくなる。堪らなくなる。
…男を銜え込んだ龍麻の身体は…どうしようもない程に激しく本能と残酷さを揺さぶり起こす……
「…動かしますよ…先輩…」
霧島の言葉に明らかに龍麻の身体が震えた。恐怖に。しかしもう霧島はこの欲望を止める術を知らない。
霧島は本能の赴くままに激しく腰を動かし始めた。
「やああーっあっあっ」
霧島の男の武器が内壁を激しく傷つけ犯してゆく。龍麻は痛みに目が眩みそうだった。もう、どうでもいいから。どうでもいいから早くこの苦痛から逃れたかった。
「…ああっ…やっ…助けて…きょう…い…ち…」
ついに、零れ落ちた。龍麻の口から禁断の名前が。けれどももう龍麻に理性は働いていなた。ただ逃れたくて。逃れたくて最も大切なその名を零した。
「やっぱり京一先輩だったんですね。そうですよね、先輩があんなに甘えるのは」
「あっあっあっ」
がくんがくんと霧島の衝撃に龍麻の身体が揺さぶられる。激しく霧島は龍麻を貫いた。
「でもね、先輩。今は僕のものなんですよ。先輩は、僕だけの…」
「ああーっ!!!」
龍麻の悲鳴が最高潮に達した時、霧島は龍麻の中に白い液体を流し込んだ。
「…はぁ…はぁ…」
龍麻は自分の中の苦痛が和らいで少しだけほっとしたようにため息を漏らす。しかしそんな龍麻を決して霧島はまだ許しはしなかった。
「まだですよ、先輩。まだ、許しませんよ」
「あっ!」
霧島は龍麻の中に自身を入れたままで龍麻自身に指を添える。そしてそのまま愛撫を始めた。
「あっ…あぁぁ…」
果てた筈なのにそこは霧島の愛撫によってまた、立ち上がろうとしている。そしてそれと同時に龍麻の中の霧島の存在も巨きくなってゆく。
「あっあっ…やだっ…もぉ…やああーっ」
充分に龍麻自身が上り詰めたのを確認すると霧島はそこから手を離し、龍麻の足首を自分の肩に担ぎ上げる。
「あっあっ…ああっ」
再び腰を激しくゆすり龍麻の奥へ奥へと自身を侵入させる。龍麻を、征服してゆく。
「忘れさせない。先輩に僕の存在を。先輩、これが僕です。今貴方の中にいるのが僕です」
「あっぁぁ…ああ…」
先ほどとは違う刺激が龍麻を襲う。苦痛以外のものが。その声が確かに…確かに苦痛以外の何かを訴え始めていた。
「…ああ…ぁぁ…はぁ…ん…」
前からも後ろからも攻めたてられて、龍麻の意識はどうにかなってしまいそうだった。いやもう、どうにもならなくなっていた。
「あぁ…ん…あんっ…」
その意識を呼び起こすように霧島はいっそう激しく龍麻を貫く。身体が引き裂かれそうになるほど、深く。
「先輩、これが僕ですっ!」
「ああーーーっ!!!!」
そう言って霧島は龍麻のそれに再び自らの手を添える。張り詰めたそれはたちまち白く弾ける。そしてそれと同時に霧島も龍麻の中に白い楔を打ち込んだ。
「京一先輩はこんな風に貴方を抱かないのですか?」
霧島は行為を終えても龍麻の中から自分自身を抜かなかった。少しでも身体を動かすと龍麻の内壁に鈍い痛みが走るので、全く動く事が出来なかった。繋がれたまま龍麻はイヤでも霧島の顔を見なくてはいけなかった。
「…関係…ない…」
やっとの思いで龍麻はそれだけを答える。睨みつける瞳はけれども何処か弱弱しかった。
「最中に何度も京一先輩の名前を呼んでいたのに?」
龍麻の身体がぴくっと揺れる。それを決して霧島は見逃さない。決して。
「『助けて、京一』ってね」
くいっと霧島は龍麻の顎を捕らえる。動けないのをいい事にその唇を噛みつくように奪った。
「…やめっ…もう…気が…済んだ…だろう…」
「気が済む、ですか?そうですね。京一先輩の前で貴方を強姦したら気が済みますかね」
霧島の指がつつつと、龍麻の背骨をなぞってゆく。そのつど敏感な龍麻の身体がいやがおうでも反応してしまう。
「…そんな事したら…絶対に京一は…お前を許さない…」
キッとした真っ直ぐな視線が霧島を捕らえる。それは霧島が初めて見た龍麻の強い意思を持った瞳、だった。
「そうですね、きっと京一先輩は許しませんよね。それでも」
「…あっ…」
霧島の指が龍麻の胸の突起を捕らえる。そしてそのままそれを弄ぶ。
「僕は後悔はしていませんよ。貴方だけが欲しかったのだから」
「…はぁ…やめ…」
「貴方だけを手に、いれたかったから」
……そしてそのまま霧島は再び龍麻を、求める。
醒めない夢なんて、存在しない。
それでも。
今はこの夢に酔いしれたい。
たとえどんな罪に問われようと。
全てを破滅させても。
今だけは。
…今だけは僕の、ものだから……
End