MOON CHILD

逢えないと、ただ逢いたくて。

どんな人込みの中にいても、お前だけは見つけられるから。
どんなにたくさんの人がいても、お前だけは見つけられるから。
…絶対に俺は、見つけられるから……。


「壬生っ!」
子供のような無邪気な笑顔で君は、両手でいっぱいに手を振ってきた。ぶんぶんと振り回す仕草は子供のようで、僕は口許に浮かぶ笑みを押さえる事が出来なかった。
「龍麻、君は何時も元気だね」
自分でも自然と零れて来る笑み。昔は意識しなければ『笑う』と言う行為は出来なかったけれど。今は。今はこうして。こうして自然と笑みが零れて来る。
―――それは全て、君のせい……
「うん、だって。だって壬生と一緒にいられるから」
屈託のない笑み。無邪気な笑顔。そんな君の細く小さな肩には僕よりもずっと、ずっと重たい運命が課せられていると言うのに。それなのに君は何時も、微笑っている。
「…龍麻…」
「それが、何よりも嬉しいんだ」
君は何時も、僕にただひとつの大切なものをくれる。


今まで僕は笑った事がありません。
心の底から笑えた事は一度もありません。
ただ人に合わせ、口を歪めているだけ。
笑いの形を取っているだけ。
そうして、人に合わせて生きているだけでした。
そうしなければ僕はきっと。
きっと内面から壊れていってしまうから。

―――僕は、人殺しだから……

何時も血の匂いのする僕の手は、誰かに触れる事を躊躇っていました。
触れてしまったらその人が穢れてしまうような気がして。血の匂いが染み付いてしまう気がして。けれども。
けれども君は、そんな僕にいとも簡単に触れてきました。
その細い指先を僕に絡めて、そして。そして微笑ってくれました。

『壬生、俺…お前に逢えて…よかった…』

僕はその時初めて。
初めて、生きていてよかったと。
よかったと。それだけを。
それだけを想いました。


―――君だけが、僕の光……


「こうして、壬生の瞳に俺が映る事」
真っ直ぐに僕を見つめる瞳。決して反らされる事のない瞳。
「それが何よりも嬉しい」
強い、光で。誰よりも強い意思で。僕を、僕だけを見てくれる瞳。
「…嬉しいんだ…壬生……」


お前の笑っている顔が、好き。
何よりも優しいその笑顔が、好き。
お前自身気付いていないけど。
本当に優しい顔をするんだ。そんな。
そんなお前が、大好きなんだ。


「手、繋いでいい?」
僕より頭ひとつ分小さい君は、上目遣いに僕にそう尋ねてくる。そんな君に僕は小さく頷いた。嬉しそうに僕の指に君は自らのそれを絡めてくる。
「へへ、壬生の手暖かい」
「…そうですか?」
「うん、とっても暖かいよ」

「きっと壬生の心もあたたかいからだよね」

血塗られている僕の手でも。
君はそう言ってくれる。君はそう言ってくれる。
君の光が僕の闇を浄化する。君の心が僕を癒してゆく。
闇に侵食される僕をその手が光ある場所へと導いてくれる。
―――光在る、場所へと。
君の手は、僕を導くただひとつのもの。


たくさんの人達が、通りすぎてゆく。
俺の廻りにはたくさんの人が集まって、そして散らばってゆく。
ほんとのすれ違うだけの人、言葉を交わすだけの人。
その中で、俺は。俺はただひとつの星を見つけた。
―――たったひとつの、星。
これだけの人込みの中でも俺は、お前だけは見つけられる自信はあるんだ。
どんなになっても。どんな姿でも。
俺はお前だけは、見つける事が出来るんだ。

―――お前は俺が見つけた、ただひとつの輝ける星だから……


「――壬生」
「はい?」
「大好きだよ」
「…僕もですよ……」

「君は僕のただひとりの可愛い人、だから」



逢えないと、ただ逢いたい。
逢っていると、もっと一緒にいたい。
ずっとずっと、一緒にいたい。

―――こうして、手を繋いでいたい。



だれよりも、お前が好きだから。



End

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