calling you

―――綺麗な寝顔に、そっと口付けた。

あまりにもお前が眩しいから。眩しいから、俺は。
俺は触れるのを躊躇ってしまう。
お前の強い瞳が。お前の意思の強い瞳が。
こうして閉じられて初めて。初めて、俺は。
俺は、お前に触れる事が出来る。

―――どうしたらお前は、俺だけのものになるの?


「…京一……」


唇を離して名前を呼んでもお前は気付かない。口許から聞こえて来るのは微かな寝息だけ。その寝息を盗むようにもう一度キスをした。
もう一度、キスをした。その柔らかい唇に触れたくて。

長い、睫毛。さらさらの前髪。筋の通った鼻と、薄い唇。
全部全部お前は眩しいくらいに綺麗だけど。
綺麗だけど、自分自身はその魅力に気付いてはいない。
…違う、気付いていないんじゃない…自覚がないだけだ。


「京一、襲うぞ」


耳元でそっと囁いても、やっぱり聴こえてくるのは寝息ばかり。こんな風に無防備に自分の前で眠ってくれるのは嬉しい。でも無防備過ぎて俺の気持ちに全く気付かないのは、少し。少し切ない。
俺に安心しきって全てを委ねてくれるその信頼と。心の中にどす黒い欲望を持ってその信頼を裏切っている自分と。どちらも俺にとっては真実で、現実だから。
―――どちらも、俺にとって本当の事だから……


「…犯すぞ……」


安らかな寝息。無防備な寝顔。風に吹かれて揺れる鳶色のさらさらの髪。ふわりと、揺れる髪。睫毛から零れる光の粒子と、そこから出来る影が。どうしようもない程に俺を切なくさせる。
…こんなに想っていても…何も気付かないお前に……


「…それとも…抱いてくれと言えば…いいのかな?…」


抱きたいのか、抱かれたいのか。
どっちだか分からない。どっちでもいいような気がする。
ただ俺だけを見てくれるなら。俺だけのものになってくれるなら。
俺だけのお前になってくれるなら。
どちらでもいい、どちらでも構わない。
俺にとってそんな事は無意味だから。
お前が、俺だけを思ってくれるなら。

―――俺は、どっちでもいいよ……

好きなんだ。
どうしようもない程に。
どうにも出来ない程に。
俺はお前が、好きなんだ。
好きで、好きで、どうしようもなくて。
お前だけが欲しくて、欲しいから。
俺は、どうすればいい?俺は、どうしたらいい?
どうしたらお前は、俺だけを見てくれるの?


戦っている瞬間が好きだ。
その間は、お前は俺だけを見てくれるから。
俺だけを考えてくれるから。
戦っている間だけは、お前は。
―――お前は俺だけのもの、だから。

でもそれは俺が『黄龍の器』だから。

緋勇龍麻としての俺をお前はどれだけ必要としてくれる?
何処まで俺を考えてくれる?何処まで俺を思ってくれる?

…ねぇ京一…俺は…お前にとって…必要なの?


「…ん……」


不意にお前が寝返りを打つ。そしてそのままゆっくりと瞼を開いた。開いてそして。そしてお前はひどく嬉しそうに微笑った。


「…ひーちゃん…よかった……夢で……」
「―――え?」
「…夢でひーちゃん泣いてたから…なんかすげー哀しそうに…でも…」
「……京一……」
「…夢…だったんだな……」


そう言ったかと思うと再び瞼は閉じられ、そして口許から零れるのは寝息だけだった。後はただすやすやと、聴こえてくるだけで。けれども。―――けれども……


「…京一……」


目覚めた瞬間に俺を握り締めた腕は、離れる事は無かった。


好き、だから。お前だけが、好きだから。
だからお前が一番に見るものは俺であって欲しい。
お前がその視界に映すものは俺だけであって欲しい。

―――お前が誰よりも好きだから。



…お前が真っ先に名前を呼ぶのは…俺であって欲しいから……






End

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