いつも思っていることなのに、君に会うと忘れてしまう
顔を見ているとうれしい　声をきいているとうれしい
それだけで　それだけで　うれしい。

「どーした？先生」
にこにこと嬉しそうに自分を見つめる龍麻に、村雨は柔らかい笑みを浮かべながら尋ねた。何時もはどうしようもない程無愛想な男だが、龍麻の前ではひどく優しい笑みを浮かべる。
「何でもないよ、気にしないで続けて」
「気にするなって言われても…先生に見つめられてたら、気にしねー訳にはいかねーんだけど…」
「じゃあ気にしながら、続けて」
そう言った龍麻の顔が本当に楽しそう、だったから。村雨もそれに付き合うようについ、楽しそうな顔をしてしまった。
「分かったよ、先生。先生の熱い視線を気にしながら続けるぜ」
そう言って村雨は作業の続きを開始した。

夢のまんなかを歩いていよう

戦いの後忙しい日々が続いていたふたりだが、やっと落ち付いてこうやって逢う事が出来た。考えてみれば２ヶ月くらいまともに龍麻は村雨の顔を見ていなかった。だから。
だから今、いっぱい見ている。見られなかった分をいっぱい。
村雨の見掛けよりもずっと長い睫毛や、顎にある傷や、剃り残しの不精ヒゲや。龍麻にとってそれは見慣れている筈の物なのに、こうやって改めて見ているとやっぱりどきどきするものなのだ。

「今日は先生の為に一日空けたんだぜ。先生の行きたい所へ連れて行ってやるぜ」
龍麻の家に泊まる為の荷物をやっと片付け終わって、村雨は改めて龍麻を見ながら言った。けれども龍麻はただにこにこと笑いながら、首を横に振って。そして。
「別に行きたい所なんてないよ。俺は祇孔がいてくれたらそれでいい」
「随分と欲がねーな、先生は」
龍麻の手が伸びてきて村雨の首筋に廻る。そんな龍麻に答えるように村雨はしゃがみ込むと、その視線を彼と同じ位置に合わせる。そしてこつん、とひとつおでこを当てた。
「だって俺祇孔と居る時が一番楽しいんだもん」
「俺だって先生と居る時が一番楽しいぜ」
村雨の言葉にまた、龍麻は嬉しそうに笑う。本当に龍麻は嬉しくてしかたがないのだ。村雨と一緒にいられるのならば、ＴＶも音楽も本もいらない。なにも、いらない。
…何もなくても、自分は楽しいから……
「だから何処にもいかなくていい。こうやって祇孔と一緒にいたい」
「そーだな、先生。それもいいな」
村雨となら同じ事の繰り返しの日々でも、一日中沈黙だけで日が過ぎても全然退屈しない。どんなにつまらない事でも、村雨と一緒ならばたちまちそれは楽しい事になってしまう。
「それもいいじゃなくて、それがいいのっ！」
少しだけ頬をぷうっと膨らませながら言う龍麻があまりにも。あまりにも、可愛かったから。だから村雨は。
「そーだな、先生の言う通りだぜ」
そう言って。甘過ぎるキスを、龍麻にくれた。

心がひとりでいる時も　いつも愛しています

「今度祇孔に逢えたらちゃんと言おうって、思っていたんだ」
おでこをくっつけたままで、龍麻は上目遣いに村雨を見つめる。そんな龍麻に村雨は彼だけに見せる柔らかい笑みを浮かべて。
「何が言いてーんだ？先生」
村雨の瞳がひどく、優しい。何時も村雨の瞳は優しいけれど。今は特に。特に優しくて。
「俺、祇孔がいるだけで嬉しいって」
「…先生…」
「お前の顔が見れて、声が聞けるだけで嬉しいって」
凄く凄く大好きだから。こうやって自分の傍にいてくれるだけで。
「それだけで、うれしい」
こうやって一緒にいられる事が。こうやって見つめあえる事が。何よりも、何よりも。
「…ああ…俺も嬉しいぜ…先生……」
その言葉を実証するように村雨は優し過ぎるほど優しく微笑って、そっとその広い腕で龍麻を抱きしめる。広くて大きなその腕で。
「俺も先生がいてくれたら、それだけでいい」
耳元にそっと囁いて、そして。そしてその言葉を実証するように口付けた。優しいキス、だった。だから、龍麻は。
「…大好きだよ…祇孔……」
微かに頬を染めながら、素直に自分の気持ちを伝えた。


いつも思っていることなのに　君に会うと忘れてしまう
顔を見ているとうれしい　声をきいているとうれしい
それだけで　それだけで　うれしい

いつも座っているんだけど　思い切って立ってみるよ
顔が見えないとかなしい　声がきけないとかなしい
それだけで　それだけで　かなしい。

夢のまんなかを歩いていよう
途切れることなく
心がひとりでいる時も
いつも愛してます。
いつも愛してます。


「…ずっと…先生の傍にいるぜ……」
村雨の言葉は雪のようにそっと。そっと龍麻の心へと降り積もった。




Ｅｎｄ