有罪
もしも宇宙に この惑星 二つあれば
今すぐ船に飛び乗り 逃げ出して
二度と結ばれぬ悲劇に泣けばすむ
…どうしたら、自分だけのものになるの?
初めて抱かれた時、何故だか涙が零れた。嬉しかったのか、哀しかったのか、分からない。
ただひとつだけ言える事は、もう戻れないと言う事だけ。
「また、泣かせちまうかもな」
少しだけ済まなそうな顔をしながら、京一はそう言った。その瞳がひどく、優しくて。龍麻はそれだけで、胸が締めつけられそうだった。
「好き、だぜ。ひーちゃん」
自分もと言う前に、その唇が奪われてしまう。そうして何時しか心までも奪われてゆく。
京一の手が器用に龍麻のシャツのボタンを外してゆく。その間京一は優しいキスの雨を止めなかった。それが京一の優しさだと、龍麻には分かっている。自分が怯えないように、と。
「…んっ…」
シャツが全て脱がされたと同時に、口付けは濃厚なものへと変化した。京一の舌が龍麻の口中に忍び込み、そのままそれを絡め取る。
「…ふぅ…ん…」
眩暈がするほどの深くて甘い口付け。それはゆっくりと龍麻の理性を奪ってゆく。
「…んっ…」
京一の手が龍麻の胸の突起を捕らえ、そのまま指で転がす。その敏感な器官はすぐにぷくりと、立ちあがった。
「…あっ…」
やっと唇が開放されたかと思ったら、京一はそのまま唇を龍麻の胸の果実へと移動した。そして柔らかくそこを噛んだ。
「…あ…んっ…」
「ひーちゃん…すげー色っぽい…」
口に含みながら言葉を紡ぐ京一に、龍麻の理性が耐えられない。無意識に手を伸ばし、京一の髪を掴む。
「…あ…ふぅ…ん…」
京一の手が龍麻の身体を滑り、そして何時しか龍麻自身へと辿り着いた。それはズボンの上かにでも分かる程、形を変化させていた。
「…きょう…いち…」
甘えるように名前を呼ぶ声。それはどこか舌ったらずで、ひどく京一の‘雄’を刺激した。
「ひーちゃん、可愛い」
一気にズボンが下ろされ、龍麻自身が京一の前にさらけ出される。それが恥かしくて、龍麻は足を強引に閉じようとした。
「…あっ…やっ…」
しかし京一はそれを許さずに強引に足を開かせると、そのままそれを口に含んだ。
「…あぁ…」
舌先で形を辿り先端の部分に舌を立てると、そこから先走りの雫が零れ落ちた。それすらも、京一には愛しい。
「…や…もぅ…でちゃう…」
「いいよ、出しても」
その言葉を実行させるように京一は、よりいっそう龍麻を追い詰めた。
「ああっ…」
耐えきれずに龍麻は京一の口中に、自らの快楽を放った。それを京一は全て飲み干す。
「…汚いよ…京一…」
「バカ、ひーちゃんのが汚い分けないだろう?」
そう言って、彼は笑った。その笑顔はやっぱり優しくて。
…どうしようもない程、彼が好きだ。
有刺鉄線 二人を締めつけても
夏を追い越すくらいに求め合った
『君は運命の恋人よりも、彼を選ぶんだね』
以前、如月に言われた言葉をぼんやりと思い出す。その時自分は何と答えただろうか?
『…でも僕は君がそう言ってくれるのを…望んでいたのかもしれない…』
ああ、そうだ。思い出した。自分は確かにこう言った。自分と同じものを持つ彼に対して。
…俺は自分の運命よりも大切な人がいる……
彼にとって飛水の血の宿命よりも護りたいものがあるように、自分にとっても護りたいものがある。
それはこの運命よりも、宿命よりも、大切なもの。
いやこの前世のしがらみすら引き千切ってしまうほどの強い想い。
そのためなら、自分は何だって、出来る。
巡り逢ったことが すでに有罪なのに
「…あっ…いた…」
節くれだった京一の指先が龍麻の最奥に忍び込む。狭すぎる龍麻のそこは、それだけで彼を傷つける。
「ごめんひーちゃん、力抜いて」
京一はそんな龍麻をあやすように彼の額に口付けた。そしゆっくりと指を埋めてゆく。
「…くぅ…」
龍麻は水からの指を口に含み、その痛みに耐えた。何時しか龍麻の身体は憶えていた。その痛みが何時しか激しい快楽へとすり代わる事を。そしてそれはすぐに訪れた。
「…ふぅ…ん…」
中の指が二本に増やされそれぞれが勝手な動きを初めても、もう龍麻には痛みはなかった。ただ疼くような快感が訪れるだけで。
…もう何も、考えられなかった。
「…きょう…いち…」
龍麻の手が伸ばされ、既に充分な硬度を持つ京一のそれに絡みついた。それを軽く撫でながら。
「…き…て…」
快楽に濡れた瞳が、京一を誘う。紅の艶やかな唇がその名を呼ぶ。その全てに、京一が拒む事など出来なかった。
あなたの匂い あなたの体 あなたの声も なぜ?
あなたの仕草 あなたの温度 手を伸ばしたら すぐ届く
幾度 嘘をつけば地獄に落ちられる
「ああっ!!」
一気に貫かれ、耐えきれずに龍麻の口から悲鳴が零れた。それをあやすように、京一は龍麻の汗ばむ前髪を撫でてやった。
「ひーちゃん…好きだよ…」
「…あっ…あぁ…」
先程達した筈の龍麻自身に指を絡め、少しでも痛みを和らげてやる。それはすぐに京一に快楽を伝えてきた。
「…あぁ…あ…」
痛み以外の色が混じるのを確認すると、京一は水からの欲望を満たす為に腰を動かし始めた。
「…あ…きょう…いち…あぁ…」
「…ひーちゃん…一緒に…いこ…」
京一の言葉に龍麻はこくりと頷いた。それを合図に、京一は最奥まで一気に彼を貫いた…。
殺意がたなびくなら 愛は有罪なのに
…自分だけのものに、したい。
彼が自分以外の人間に笑いかけたり、優しくしたりするのが嫌だ。
でも彼の笑顔は何よりも好きだし、他人に優しい彼だから恋をした。矛盾したこの想い。
彼を殺したら自分だけのものになる?でも死んでしまったら大好きなその声が聴けない。
…どうすればいいのか、分からない。
水からの運命よりも宿命よりも、好きになってしまった人だから。
だから、どうしても。どうしても。
…我が侭に、なってしまう…。
「大丈夫?ひーちゃん」
心配そうな京一の声が耳に降ってくる。その声に弾かれるように、龍麻は瞼を開いた。
「良かった、目ぇ覚まさないから俺、どうしようかと思った」
ほっとした京一の、笑顔。ああ、自分はやっぱりこの笑顔が大好きだ。
「…京一…」
龍麻の両腕が京一の背中に廻り、彼の広い背中に抱きついた。それは何かを必死で護ろうとする子供のようだった。
「どうした、ひーちゃん。怖い夢でも見たのか?」
「違う、京一がここに居るって確かめたかったんだ」
「ひーちゃん?」
「京一、好きだよ。大好きだ」
「俺もだよ」
優しく龍麻を抱きとめながら、京一は答えた。その言葉に何一つ嘘はない。いや、京一は自分に嘘なんて付いた事ない。
「ねえ、京一」
「何だ?」
「…俺、怖いんだ。京一の事が好きになりすぎてどうしていいのか、分からない…」
「…ひーちゃん…」
「こんな自分今まで知らなかった。京一がいないと何も出来ない。京一を自分のものだけにしたい。誰にも渡したくない」
一気に思いを吐き出したのか、微かに龍麻の身体が震えていた。そんな彼がどうしようもなく京一には、愛しい。そして愛していた。
「俺はひーちゃんだけの、ものだよ」
それだけを言うと京一は龍麻に口付けた。それは水からの想いを伝える為のささやかな、儀式。
「ひーちゃん、俺には何でも言えよ。他の誰にも言わなくてもどんな些細な事でも、どんな不安な事でも、どんな我が侭でも」
「…京一…」
「全部、俺が聞くから。お前の言葉全部俺が、拾うから。だから」
京一の両腕がぎゅっと、龍麻を抱きしめた。けれども痛くはなかった。その痛みすら、喜びに変わる。
「だから、俺だけのひーちゃんでいてくれよ」
京一の言葉に…龍麻は微笑った。もう何も、怖くない。怯える事もない。京一ならば、自分の全てを受け止めてくれる。
…自分が運命よりも大切なひとは。
自らの運命を懸けて自分の傍にいてくれる。
あなたの匂い あなたの体 あなたの声も なぜ?
あなたの仕草 あなたの温度 あなたの髪も なぜ?
あなたの吐息 あなたの素顔 手を伸ばしたら すぐ届く
この恋が有罪というならば、それでも構わない。
ふたりで堕ちてゆくなら。
…なにも、こわくはない。
End