絡めた指先

…初めて、指を絡めた瞬間。

少しだけ目尻を赤らめながら、照れ隠しの為に笑った。
その笑顔が大好きだと。大好きだと、思ったから。
だから、絡めた指先を離さなかった。

ずっとこのままでいたいと、そう思ったから。

暖かくて優しい、不器用な手。
「…何か言えよ…ひーちゃん…」
互いに目を合わせるのが恥かしくて、俯いたまま。そのまま降ってきた京一の言葉に、龍麻はひどく可笑しくなった。可笑しくて顔を、上げてみた。
「京一だって、何も言っていないよ」
上目遣いに見上げてくる龍麻の瞳が悪戯っ子の子供のような瞳で、つい京一は口許に笑みを浮かべた。そうする事で…気恥ずかしさが…少しだけ消えた。
「俺、バカみたいにドキドキしてる」
触れ合った指先から京一の体温が、鼓動が伝わってきて。それがひどく。ひどく、嬉しくて。
「俺もだよ京一」
そうしてそっと目を閉じた。視界を閉じて、その手の温もりだけを感じて。京一の手の、暖かさだけを。
「変なの…どんな女と付き合ってもこんなドキドキしなかったのに…ひーちゃんに触れるだけでこんなにも緊張している」
ぎこちなく京一の開いた方の手が、そっと龍麻を抱き寄せた。そして不器用に、でも優しく髪を撫でてくれる。そんな彼の手が、大好きだった。
「夢じゃ…無いんだよなー…ひーちゃん、俺の腕の中にいるの…」
「夢じゃ、ないよ」
そんな京一の言葉が可笑しくて、龍麻は軽く京一の手をつねってみた。すると少しだけ顔をしかめながら、でも次の瞬間どうしようもない程優しい笑顔をくれて。
「はは、ひーちゃん最高っ!」
と言って強く、抱きしめてくれた。

当たり前のように傍に、いてくれたから。
まるで昔からの友達のように声をかけてくれて。
そして傍にいるのが当然のように一緒にいてくれて。
まるで空気のように自分の日常に溶けこんでいたから。
だから気付かなかった。
…こんなに自分にとって大切な存在だと言う事に。

繋がった指先だけが、世界の全てならいいのにね。

「俺我が侭だから、京一を独占するよ」
広い胸にぺたんと頬をあずけると、そこから京一の心臓の鼓動が聞こえた。とくん、とくんと。優しい音が。
「いいよ、俺ぜーんぶひーちゃんのものだから」
この鼓動に包まれていられるのなら、幸せだと。幸せだと、思う。
「だからひーちゃんも、俺のものだけでいてくれる?」
「京一も我が侭だね」
「我が侭だよ、ひーちゃんと一緒だもん」
「じゃあ『好き』な気持ちも、一緒?」
「どーかな?俺のひーちゃん『大好き』は無限だからなっ」
「じゃあ、一緒」

「俺も京一が世界一大好き」

世界一大好きなんて子供みたいだなと思ったら、自然に口許から笑みが零れた。でもそんな自分に京一は真剣な瞳で見返してくれて。
「俺は宇宙一大好きだぞっ」
「じゃあ俺も、京一」
と言って見詰めあって。そして思わず吹き出してしまった。本当に子供みたいだねって心の中で呟きながら。
でも子供だからこそ、想いは純粋だよね…。

「俺たち、バカみたいだな」
「バカでもいいよ。京一と一緒なら」
「俺もひーちゃんとならバカでもいい」
「バカみたいに京一が好きだから」
「俺も、大好きだよ。大好きだよ、ひーちゃん」

視線が、絡み合う。そして。
そしてゆっくりと瞼を閉じた。
静かに降りてくる唇を。
微かに震えながら、受け入れた。

こんなにキスが、震えるものだとは思わなかった。

「手が、べたべたしてる」
「ひーちゃんだって」
「…緊張…してるんだ……」
「俺も…緊張してる…ひーちゃんに触れるのは…」
そうしてもう一度、触れるだけの優しいキス。やっぱりそれは何処かぎこちなくて。ぎこちないけど、暖かくて。
……幸せだなと、想った。
本当にただ、それだけを思った。

初恋よりも、甘酸っぱく切ない想い。

絡めた指先をずっと、離さなかった。
今自分達が信じられるものはそれだけだとでも言うように。
この危うい世界の中で、それだけが。
それだけが真実だというように。
そして、この想いが。
決して嘘ではないと確認するために。

「俺がひーちゃんの傍にいるから。どんな事があっても、ずっとずっと」

その言葉だけで、乗り越えられると思った。
これから自分を待ち受ける運命を。戦いを、その全てを。
これから先、どんなことがあっても。

このひととならば、乗り越えられてゆけると。

「うん、京一」

だから、離さないで。この絡めた指先を…ずっと……。




End

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