Crisis

―――祈りの言葉は、決して神には届かない。



もうどのくらい、迷い続けただろうか?この永遠のラビリンスを。無数の扉が空間を支配する。しかしどの扉を潜っても辿り着く場所は、同じだった。辿り着く場所は、ここ。無限荒野とも思われる迷路の中。もう決して出られない。自分は永遠にこの迷路に迷い込んだのだ。でもそれは。――――時として、何と甘美な誘惑を与えてくれるのだろうか?



確かにその時間は、壬生にとっては幸福の他の何でも無かった。例え誰が何を言おうとも。その瞬間だけは他の誰でも無い、自分が彼を手にしているのだから。
「…如月…さん…」
壬生のその時の声は舌ったらずで、ひどく甘い響きを備えていた。
「…紅葉……」
その延びてきた舌に如月は自らのそれを絡め合わせる。そして次第に深くなる口づけ。華奢な壬生の身体は、如月の肢体の上に在ってもその重さを殆ど感じる事は無かった。
「…ふぅ…ん…」
互いの舌を絡め合い、根本を吸い上げ、側面を舐め上げる。貪り求め合い。互いの味に酔い痴れる。
――――二人はもう、どの位この行為を繰り返してきただろうか?
もうその数を数える事すら出来ないくらいに。二人は本能の赴くままに、互いを欲し有っていた。例えそれが何も生み出す事の無い、非生産的な行為で在っても。二人は互いを求め合う事を止める事は出来なかったのだ。


「…あぁ…」
如月の長い指先が壬生の胸の突起を捕らえる。その感触に思わず甘い吐息を洩らしてしまう。それを確認すると如月は、人指し指と中指でそれを扱くように摘み上げた。
「…如月…さんっ…あぁ…」
するとそれはたちまちぴんっと張り詰める。如月の愛撫に慣れた身体は、彼の思うままに反応し、感じる。
「…はぁ…ぁ……」
如月の肩に掛けていた壬生の両の腕が震え出す。それは確かにその愛撫に反応している証拠だった。そう、如月は巧みで、壬生を知り尽くしている。胸をいじる指先も、身体を滑っていく掌も、その全てで如月は壬生を知っている。
「…あぁ…ん…」
胸を弄んでいた如月の手がゆっくりと壬生の身体のラインを辿り、ジーパンのジッパーへと辿り着く。しかし如月はそれを開ける事無く、布越しに壬生自身に触れてきたのだ。
「…ああっ…」
布の上からでもそれは反応し、形を成してゆく。如月はそれをやゆるかのように、そのラインを指先で辿った。
「…きさら…ぎさっ…あっ……」
包み込むように撫で上げて、壬生を震えさせる。耐えきれずに身体を如月の広い胸板に預けてしまう。そんな彼の耳元にそっと如月は唇を寄せて。
「……感じるかい?紅葉……」
低く微かに掠れた官能的な声で、囁いた。


これは永遠の迷路だった。如月に抱かれる度に壬生は抜けられない沼へと自ら堕ちてゆく。それがどんなに取り返しの付かない事だと分かっていても、その歩みを止める事が出来なかった。そう止める事など始めから出来なかったのだ。この傾斜する想いは加速して、振り返る事すら許されなくなっていたのだから。


ジッパーの外れる音が、妙に壬生の耳元へと響いてきた。しかしそのお陰でジーパンには収まりきらなくなった壬生自身が開放される。一瞬外空気にそれは竦んだものの、再び如月の手のひらに包まれる事によって、また熱に浮かされる。
「…あぁ…あ…」
如月の指先は淫らに壬生自身のラインを辿り、包み込み先端に爪を立てる。その度に彼のそれはどんどん硬度を増してゆき、如月の手のひらでも包みきれなくなってしまう。
「…ああ…如月さんっ……」
耐えきれなくなった壬生の先端からは、先走りの雫すら零れている。しかし如月はその先を許さなかった。はち切れんばかりに膨れ上がったそれから手を離すと、その指先を壬生の双丘の繁みに埋め込む。それは如月を拒みながらも、貪欲に受け入れる。
「…あぁ…ぁぁ…」
ゆっくりと挿入を繰り返し、中を掻き回す。その度に壬生の蕾は綻びひくひくと震え出す。
「…紅葉……」
引き寄せられるように壬生は、如月の声を合図にその唇に口付ける。しかし後ろを指によって支配されている壬生には、上手くキスが出来なかった。
「…ん…ふ…」
それでも巧みな如月は壬生の舌を絡め取り、自分を酔わせる。上も下も彼に支配されて、壬生は小刻みに身体を振るわせた。
「…ずるい…如月…さん……」
快感に潤んだ瞳が如月を見下げている。いつも見上げてばかりの壬生にとって、この態勢は普段とは違った印象を自分に与えた。
「…僕ばっかり…ずるい……」
余裕すら感じられる綺麗な笑みを浮かべながら、如月は自分を見上げている。息も途切れ途切れで、話すのがやっとの自分自身を。
「……何故だい?………」
そう言って、如月は笑う。柔らかい顔で。それはまた、壬生を迷路へと迷わせてゆく。無限迷路へと。
「…ずる…い…」
僕ばっかりが、貴方を求めている。僕ばっかりが、貴方を想っている。僕ばっかりが、貴方を愛している。
「…如月さん……」
再びもつれながらも壬生の舌が如月のそれに絡まった。如月はそれを壬生の肢体を抱き締める事で、受けとめた。


「ああっ―――」
無理な態勢から如月を受け入れた為に、壬生の口からは細い悲鳴が零れる。自分から如月を求めるようなこの態勢は、ひどく壬生のエクスタシーを揺さぶった。
「…あっ…ああ……」
如月の力強い腕が壬生の細い腰に絡み、ゆっくりと降ろしてゆく。その度に深く如月を飲み込み、壬生の蕾はこじ開けられる悦びに歓喜する。
「……紅葉……」
「…あぁ…ぁ……」
如月の囁きすらも耳に入らないかのように、壬生はこの快楽の海へと身を投げる。その姿を見上げながら、如月は微かに笑った。その顔はひどく、幸福そうだった。
「…ああ…あ…」
しかしそんな表情を壬生は、知らない。快楽の淵へと投げ出した壬生には、如月の顔が分からない。如月のその、幸せそうな顔を……。
「…愛しているよ…紅葉……」
この囁きすら、届かなかったかもしれない。



本当はこの迷路に入ったのは、自分だと如月は言いたかった。君を愛したのは、自分の方だと言いたかった。こんなにも愛しくて。こんなにも愛して。誰にも渡したくなくて。だから手に入れた。
そしてそれを君は拒まなかった。なのに、気付かない。君は、気付かずに膝を抱えている。



「―――ああっ!」
最後の歓喜の声を洩らし、壬生は如月の上へと崩れ落ちた。そして、如月はそっとそれを受けとめる。心臓の音が聞こえた。如月の心臓の音が。それは壬生の耳にひどく優しい音を響かせてくれる。その温もりに包まれて、壬生は。―――子供のような顔をした。


このまま何処にも還れなくても、構わなかった。この迷路の中で永遠に迷い続けても、構わない。何故ならば。この迷路は貴方が、造り上げたものだから。



―――祈りの言葉すら、僕には必要が無かった。




End

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