…独りでいる夜が、嫌いだった。
独りでいたくなくて、何時も。何時も誰かの腕を求めていた。
「…あっ…ん…」
薄い胸に口付けられて、壬生は甘い吐息を洩らす。それを煽るかのように、如月は尚もそこを攻め立てた。
「…はぁ…あ…」
紅く色づく胸の果実を口に含み、舌で転がす。柔らかく歯を立ててやると堪えきれないのか壬生は、ぴくりと身体を揺らした。
「…あぁ…ん…」
如月の手が壬生の背中に廻ると、綺麗なカーブを描く背中のラインを愛撫する。滑らかな背中は、極上の感触を如月の指に与えた。
「…あ…ぁ…」
胸から脇腹へと如月は舌を滑らせてゆく。時々的を得たように反応を寄越す場所を、執拗に攻めながら。
「…あん…そ…こ…」
両脚を広げさせて、如月は足の付け根に舌を這わす。壬生がそこに特に弱いことを、知りながら。
「…そこ…いやっ…」
壬生がいやいやとかぶりを振るのも構わずに、如月はそこの愛撫を深くする。甘噛みしてやると、壬生は悲鳴のような声を上げた。
「…やだっ…如月…さ…ん…」
壬生の指が如月の化身を掴むと、それをくしゃりと乱す。けれども抵抗はそれまでだった。突然生暖かいものに壬生自身を含まれたせいで。それが如月の口だと分かるには、しばらくの時間を要したが。
「…あっ…ああ…」
如月はその形をわざと辿るように、舌を這わしてゆく。そうする事で壬生の羞恥心が煽られると、知っているから。
「…あぁ…きさ…らぎさんっ……」
壬生の白い素肌がほのかに紅く色づいてゆく。それは如月が染めた、色彩。如月、だけが。
「…あぁ…あ」
剥がそうと延ばされた筈の手が、何時の間にかその行為を求めるように動いていた。自分へと押しつけて、より深い快楽をねだる。
「…あ…はぁ…」
壬生の先端から先走りの雫が零れ始める。それを口内で確認した如月は、無情にも自らの口をそこから外した。
「…如月…さん?……」
それを不信に思った壬生は、如月を見つめてくる。その瞳が夜に濡れて。とても。とても綺麗だった。
「…少し…我慢してくれ…」
見上げてくる壬生に如月はひどく優しく微笑うと、そっと唇に口付けた。けれども刺激を求めて疼く身体には、その口付けだけではもどかしくて。もどかしくて…壬生は自らの唇を開いて、如月の舌を迎え入れた。
「…んっ…ん…」
迎え入れた舌を、積極的に壬生は絡めてくる。そんな彼が愛しくて、如月はその全てに答える。その、求めるもの全てに。
何時しか壬生の口許から唾液が伝ったが、互いに夢中の二人にはそんなもの気にもならなかった。
「…ん…ふぅ…」
永いため息と共に、唇が離れてゆく。最期に一筋の唾液の糸を引きながら。
「…紅葉…」
如月は優しく名前を呼ぶと、自らの指先を壬生の口に含ませた。壬生は如月の意図することを理解すると、その指をしゃぶり始めた。
「…んん……」
時々悪戯をするように如月の指が、壬生の口の粘膜を押す。柔らかい感触を、楽しむとでも言うように。
「…ふぅ…」
充分に濡れたのを確認すると、如月は壬生の口から指を引き抜いた。そして背中のカーブを辿って最終地点に辿り着くと、ゆっくりと指先を埋めていった。
「…くぅ…ん…」
先程から刺激を求めて疼いていたそこは、たやすく如月の指を受けてれた。それどころか、自らの内壁は如月の指に絡みつき刺激を求めて蠢いていた。
「…あっ…ん…」
淫らな肉が如月の指を締め付ける。まるで一瞬でも、その刺激を逃がさないとでも言うように。
如月はそれに答える変わりに指の本数を増やして、刺激をより深いものへとした。
「…あぁ…ふっ……」
それぞれ勝手な動きをする指に、壬生は悩まされる。けれども何時しかそれだけでは物足りなくて。物足り、なくて。
…肢体は…知っていた…もっと深い刺激を……
「…如月…さ…ん…」
壬生の手がおずおずと如月自身に触れる。それは既に充分に形を変化させていた。
「…ほしい…です…」
慣れない手つきだそれを包みこみながら、快楽でもたらされる熱以外の熱さで頬を染めながら。夜に濡れた瞳で。喘ぎのせいでもつれる舌を持て余しながら。
「…如月さんが…欲しい……」
快楽の涙が、壬生の目尻を伝う。それを開いている方の手で如月は拭ってやると、軽く壬生に口付けて。
「あげるよ、幾らでも。幾らでも、君が欲しいだけ」
そう言うと如月は壬生の足を肩に乗せて、そのまま一気に彼を貫いた。
「…ああっ!」
満たされた満足感に、壬生の喉が綺麗に反り返る。その喉元に口付けながら、如月はゆっくりと身体を進めていった。
「…あっ…あぁ…」
壬生の中はひどく、熱かった。このままでも達してしまいそうな程。けれども如月はそれを堪えると、ゆっくりと動き始めた。
「…ああ…あぁぁ…」
壬生の手がシーツを掴む。それはすぐに雛になって、シーツに波を作った。
「紅葉、手」
その手に気付いた如月が自らの手をそれに重ねると、そのまま自分の背中へと廻させようとする。しかしきつく握り締められた手は、中々解けなくて。
「手を背中に、廻して」
一本一本丁寧に指を解いてやると、如月は壬生の腕を背中へと導く。やっと縋るものを見つけて安心したのか、壬生の腕はすぐに如月の背中を抱きしめた。
「…あっ…如月…さん……」
それを確認して如月は再び動き始めた。その動きは次第に激しくなり、壬生を翻弄した。
「…あぁ…あ…もう……」
がくがくと揺さぶられる度に、壬生は硝子を引っ掻くような嬌声を上げる。口許から幾筋もの唾液が伝い、シーツを濡らした。
「…もぉ…だめ……」
耐えきれずに壬生は如月の背中に爪を立てる。それはばりばりと音を発てて、無数の跡を如月の背中に付けた。
「大丈夫だ、紅葉。僕が君を引き上げるから」
「…あ…あぁ…如月さん……」
開放を求めて壬生が如月にしがみつく。その思いがけない力の強さに、如月は柔らかく微笑って。
「…僕が何時でも……」
囁きかけるように呟くと、最期の時を迎える為に限界まで壬生の中を貫いた。
「…如月さん……」
腕の中でおとなしくしていた壬生が、不意にその名を呼ぶ。ゆっくりと顔を上げて、如月を見つめながら。
「どうした?紅葉」
そんな壬生の髪をひどく優しく撫でながら、如月は尋ねた。
何時も、こうだ。何時も何時も貴方は真っ直ぐに僕を見つめ返してくれる。
「…僕の事…好きですか?…」
「好きだよ、紅葉」
綺麗に微笑って、何の迷いも無く告げる如月に。壬生は戸惑う反面、ひどく安心を覚える。何よりも変えがたいこの、安心感を。
「…ならば、いいです…」
それだけを言って壬生は子供みたいに微笑うと、静かに瞼を閉じた。多分ひどく疲れているのだろう。壬生はすぐに眠りの淵へと行ってしまった。
「子供みたいだな」
そんな壬生に柔らかく微笑うと、如月は壬生を引き寄せた。すると安心したように、壬生は如月に擦り寄ってきた。
「…眠っている時は…本当に君は子供なのにな……」
風邪を引かないようにと肩まで布団をかけてやると、如月もゆっくりと瞼を閉じた。壬生の後を追う為に。
…淋しがりやの君に…追いつく為に……
もう孤独な夜を感じる事はない。貴方の腕があるかぎり。
End