……その手を離す事だけが……どうしても、出来なくて………

愛していると、何度伝えれば。
貴方は僕のものになるの?
身体を幾ら、繋げば。
貴方は僕だけのものになるの?

空から降り積もる雪だけが、ふたりをみていた。

「…もう、戻れないよ。何処にも」
そう言って微笑う彼の顔は、ひどく優しくて。泣きたくなる程、幸せ。
「それでもいいの?紅葉」
優しく髪を撫でる指先が。頬を辿る唇が。その全てが。
「…いい…貴方さえいれば…僕は何も……」
その全てが、好き。その全てを、愛している。もう、どうすればいいのか分からない程に。
………貴方を…愛して、いる………
「…何も、望まない……」
このまま何処へも、戻れなくても。このまま何処へも、行けなくても。それでも。
ふたりで、いられるのなら。

いつのまにか降り始めた雪が、如月の頬にあたる。しかし不思議と冷たいとは感じなかった。ただひんやりと、心に降り注ぐだけだった。
「如月さんは、後悔しているの?」
暖かい彼の身体。この身体を永遠に抱きしめ。自分の腕の中に閉じ込めて。誰にも触れさせたくない。自分以外、誰にも。
「後悔?何故?」
「…拳武館への裏切りは『死』…そして、貴方は館長の命を奪った…裏切り者の僕と共に…」
「僕の後悔は、館長より先に君に出逢えなかった事だけだ」
そのしなやかな肌も、柔らかい髪も、夜に濡れる瞳も。全て、自分のものだ。誰にも、触れさせはしない。誰にも、渡しはしない。
「あの男に君は何回抱かれた?あの男の愛撫に何度感じた?あの男の……」
如月の言葉は、壬生の唇によって封じ込まれた。冷たい、唇。その冷たさが許せなくて、如月は深く彼の唇を奪う。この唇に体温を与えるのは、自分だけでいい…。
「……貴方は、残酷だ。それを僕に答えろと言うの?」
「残酷か?ああ、僕は残酷だ。君に対しては、幾らでも残酷な人間になれる」
「そうだね、貴方は酷い人だ…でも、愛している……」
「…愛しているよ…紅葉……」
その言葉に。彼は泣きそうな顔で微笑った。その顔は、哀しい程に綺麗だった。
「言葉なんか、足りない。幾ら伝えても僕の気持ちの半分も見せられない。僕がどれほど君を愛していて、そしてどれほど君に狂わされているか…君には、伝わっているのか?」
「……伝われば…僕は…貴方を、殺してしまう………」
「初めから僕は、君のものなのに。これ以上君は何を望む?」
その言葉に。彼は微笑う。まるで華のように。雪の中に咲く、紅の華。
「……永遠………」
それは春の夜の儚い幻。決して手に入れる事のない、優しい幻想。それでも。それでも。
「貴方を永遠に手に入れたい」

噛みつくような、口付け。舌を絡め合い、互いの舌を噛み切った。
そこから流れる血が交じり合う。その味に酔いしれた。
「…如月…さ…ん……んっ……」
唾液とも血液とも分からない液体が、壬生の口許から伝う。それを如月の指が辿り、その指を壬生の口に銜えさせる。
「…ん……ふぅ…」
壬生の手が如月の衣服に掛かると、そのまま脱がし始める。身体を這う如月の指のせいで中々上手くいかないのが、もどかしかった。
「…あっ……」
胸の果実に歯を立て、血が出るほどに食い付いた。このまま引き千切ってしまいたい衝動に駈られる。それとも、引き千切ってしまおうか……。
「…あ、…あ……もっと……」
もっともっと深くまで。歯を立てて、肉を引き裂いて、骨まで噛み砕いて。全てを食らい尽くしたい。
「…もっと…如月…さんっ…あぁ……」
壬生の両腕が如月の頭を抱え込むと、自らに引き寄せた。それは底無しの欲望。何処まで堕落すれば、満たされる?
それとも満たされる事など、ないのだろうか?自分がこのひとを渇望する限り。
「…あぁ……ん……」
……永遠は…幻……なのだろうか?………

「ああっ!!」
一気に貫かれ、壬生の口からは悲鳴のような喘ぎが零れる。けれどもそれは次第に甘い悲鳴へと擦りかえられた。
「…あっ…あぁ……」
眩暈がするほどの幸福感。今確かにこの瞬間、このひとは自分だけのものだ。自分だけの、ものだ。
「…あぁ…もっと…もっと…あ……」
身体に埋め込まれた熱い楔が。その圧迫感が、その存在感が。このひとが自分のものだと、教えてくれるから。
「…もっと…奥まで……」
この瞬間だけは、自分のものだと。教えてくれるから。

「…血が、華みたいで…綺麗ですね……」
火照った身体に降り注ぐ雪は、ひどく気持ち良かった。このまま雪の中に溶けてしまえたら。どんなに幸せだろうか?
「君の方が、綺麗だよ。紅葉」
白い雪が壬生の髪先に、睫毛に、白い肌に降り注ぐ。少しだけぼやけた視界の中で、唇の紅だけが鮮やかに映える。それを如月は純粋に綺麗だと思った。
「貴方はもっと、綺麗」
再び壬生の唇が降りてくる。生暖かい血の味のする唇。その味すらも、愛しい。愛している。
「…如月、さん…死のうか……」
「一緒にかい?そうだね」
「僕らはもう何処にも行けない。何処にも帰れない。貴方は僕と同じ、その手を血に染めてしまった」
「君と同じに、なりたかったんだ」
「…もっと、同じに…なってください……」
壬生は一本のナイフを取り出すと、どす黒くこびり付いている血の塊を舌で舐め取った。
それは、あの男の血。壬生を暗殺者として繋いでいたあの、男の……。
「君があいつの血を舐める事なんてない」
「血にすら貴方は嫉妬してくれるんですね。嬉しいです…でも僕も同じなんですよ。貴方の身体に他人の血が混ざるのは許せない」

「…そんなの…許せない……」

「…何処から、切り落とそうか?……」
如月の手がナイフを握り、壬生を見つめた。その瞳は壬生以外見る事の叶わない、優しくて幸福な瞳。
「…貴方の好きなところから……」
差し出した壬生の手のひらに口付けて。そこから広がる甘美な欲望に、身を焦がして。
「……愛しているよ、紅葉………」
「…僕も…ですよ…貴方だけを……翡翠………」
…その時初めて。壬生は、如月を名前で呼んだ……。

降り積もる、白い雪。
ひらり、ひらりと、降り積もる。
そこに咲く紅の華の意味を。

……雪だけが、知っている………



End

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