恋人

僕を傷つけるのが君だけならば、君を傷つけるのは僕だけなんだ。


愛する事を、やめないで。それが生きているシルシなのだから。愛する事が、命の意味なのだから。


「君は自由だよ、何処にでも飛べる」
世界中の『綺麗』を集めても目の前の貴方には叶わない。何よりも誰よりも綺麗で、そして強い人。強過ぎる、人。その存在感は見る者を傷つけずにはいられない。鋭い刃物のように。綺麗だから、そして冷たいから。
どんなに近づこうとしても、どんなに近づいても、その綺麗な刃物で他人を傷つけるから。でも。―――でも傷ついても、近づきたかった。壊れても、構わなかった。
「何処にも飛びたくありません」
広げられた腕の中で眠れば、見えない鎖が僕の身体を引き裂く。その唇で口付けられれば、身体は痺れ崩れてゆく。貴方の腕に、堕ちてゆく。
「何故?君は誰よりも自由を望んでいただろう?」
背中に翼をはやしてくれたのは貴方。僕に真っ白な翼を与えてくれたのは、貴方。そして。そして僕の背中を血で染めたのも貴方。真っ赤な血が翼に染み込んで、重たくなった羽は飛ぶ事を放棄した。だって、ね。―――だって僕は貴方の傍にいたいから。
「館長から、拳武館から君は解放された。それが望みじゃなかったのか?」
いいえ、それが僕の真の望みではありません。僕の真の望みはもっと別の場所にあります。だって僕が館長から、拳武館から逃れたかったのは…。
「…如月さん……」
名前を呼ぶだけでこんなにも。こんなにも睫毛は震える。貴方が手を伸ばしてそっと髪に触れるだけで、それだけでどうしようもない程に切なくなる。
「…如月さん…僕は……」
貴方の傍にいたいんです…そう言いかけて、言葉を飲みこんだ……。


君にかけた見えない無数の糸。紅い、糸。
その糸が君の肉体に食い込むたびに血を流してゆく。
紅い血を。この糸と同じ紅い血を。
だって僕が掛けたんだから。
君が僕から逃れないように、僕が掛けたんだよ、紅葉。
君を僕だけのものにするために。


「紅葉、自由はいらないのかい?」
優しい、声。優し過ぎる、声。何時も何時もこの声に溶けたいとそう思っていた。このあまやかな声に、全てを。
「君は自由になりたくないのかい?」
自由?初めから僕にその選択肢はないのに。初めから。貴方に出会ったその瞬間から。貴方の冷たい瞳に捕らえられた。くもの糸のように肉体にその糸が絡め取られた。
そして貴方の視線が僕を貫いた。鋭いその視線が僕の心臓を抉った。抉られてそして。そして剥き出しにされた僕の、こころ。無防備に曝された僕の、こころ。それを貴方はその手で鷲掴みにしたのだから。その瞬間、僕は貴方に捕らわれた。貴方の全てに、捕らわれた。
「…いりません……」
自由なんて、いらない。貴方の傍にいたい。貴方に捕らえられたい。身も心も全て。全て絡め取られたい。
「そんなもの…欲しくない…いらないから…」
「―――紅葉」
「…僕を貴方のモノにして……」


モノに、なりたい。貴方のモノに。そうしたら僕を傍に置いてくれますか?


「君は可愛いね、おいで」
くすりとひとつ、貴方は微笑った。何よりもその顔は綺麗で。そして冷たい顔。貴方に温かい顔は似合わない。いつでもどこでも貴方は誰よりも上にいて、そして支配するのが似合っている。だから。だからそんな貴方の元に僕を置いてください。
「…はい……」
僕は笑った。何よりも誰よりも幸福な笑顔で。そして。そして貴方の差し出した手に指を絡める。そしてそのまましゃがみ込んでその指先に口付けた。
「可愛いよ、僕の紅葉」
しゃがみ込んだ僕の耳元にそっと、そっと貴方は囁く。その甘い声に僕は神経まで蕩けてゆく。もっと、もっとその声を聞いていたい。
「…貴方だけのモノです……」
鏡のように全てを反射する瞳。でも今は。今は映っているのは僕だけだから。その事実が僕を何よりも幸福にする。何よりも、幸せにする。
「可愛いよ、紅葉」
柔らかく貴方は笑って、ご褒美とばかりに僕に口付けをくれた。それだけで僕は、幸せだった。


渡さないよ。君を誰にも渡さない。やっと手に入れた大切な君。
誰にも触れさせない。僕だけのもの。僕だけの、モノ。


君を捕らえるためならば、僕は何だってするよ。


「――抱いて、欲しいかい?」
「…抱いて…ください…如月さん…」
「こんな場所で誰に見られるか分からないよ、それでいいの?」
「……構わないです…貴方が抱いてくれるのなら……」
「イイ子だね、紅葉」
「…だって……」


「だって…僕は貴方だけのモノだから……」


しあわせ。溢れるほどの幸せ。壊れるほどの幸せ。
何も、いらない。何も何も欲しくない。
貴方がいてくれれば。
貴方がいてくれれば、それでいい。


――――それ以外何を望めばいいのですか?


「…あっ…ああっ!」
背中に爪を立てた。貴方の綺麗な背中に、爪を。だって貴方が許してくれたから。背中に爪を立てる事を。
「紅葉、君の中は相変わらずキツイね」
「…あ…だってぇ……」
「だって?」
「…貴方が中にいる…からっ…はあっ!」
しあわせ、あふれるほどの。そして、こわれるほどの。


このまま貴方に壊されたい。


逃がさないよ、もう。もう君を逃がさない。誰にも君を、渡さない。



生きている意味を、生まれてきた事の理由を僕は今気が付いた。僕は、如月さん。


―――貴方に囚われる為に生まれてきたんだ………



End

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