愛の超特急/HONEY


愛の超特急


 1999年 元旦。その日の空は快晴でまさしく今の自分の心のようだった。そう紫暮 兵庫人生最良の日と言っても過言ではなかった…何故なら…。
「僕、空手なんて初めてです。楽しみだな」
うおお〜っっ何て何て可愛いんだっっ。少しはにかみながら笑うその笑顔。白い歯に黒水晶の瞳。どれもこれもが可愛すぎるぞ、壬生。おっといけない、ここでにやけたら男がすたる。
「でもいいのか、壬生。今日は如月の所で倉庫の手伝いするんじゃ、なかったのか?」
その質問に壬生は少し、俯いた。その仕草はあまりに可憐で犯罪だった。壬生のバックに白い花が見えるのは、自分だけの幻覚では…ないと、思いたい。
「…いいんですよ…向こうには村雨さんが、いるし…」
そうかそうかと、思わず力強く頷いてしまう。村雨、今日ばかりはお前に感謝だ。
「そうそう、正月早々掃除よりはやはり武道だ。男なら身体を鍛えなければな」
「ふふ、紫暮さんらしいですね」
…壬生よ、今の笑顔は犯罪だ。ここで押し倒されても文句は言えんぞ…。と、思いながらもそんな勇気が無い自分がちょっと恨めしい。
「それよりも早く、行きましょう」
えっ、ちょっと待て。そ…それは…。
不覚にも自分は自らの腕に絡んできた壬生の細い腕に、普段鍛え上げたはずの平常心がどこかへ行ってしまった。
ただこうして腕を捉まれて一緒に走っているだけだというのに…ああ情けなさ過ぎるぞ、紫暮 兵庫。
それでも悔しいが、壬生は可愛いのだ。全くどうすれば良いのだろう…。

「では、紫暮さん」
俺は今、ちょっとだけ後悔していた。自分の道場に壬生を連れてきた事を。何故なら…。
「誰?あの美人。紫暮さんの知り合い?」
「いや〜っいいな細い腰…」
お前ら、そんな目で壬生を見るなっ!!畜生…何故、正月早々道場に他人がいるのだっ!
と、言いつつも自分も壬生の柔道着姿に目が離せないでいる。同じ男とは思えない程の華奢な身体。細い腰。首筋から覗く鎖骨のラインが綺麗で、どぎまぎしてしまう。
「行きます」
顔色ひとつ変えずに構える壬生は、本当に目を奪われずにはいられないほど綺麗だ。ぴんっと伸びた真っ直ぐな姿勢。逸らされる事の無い視線。無駄な動きが何一つ無い。隙が、全くない。
「こいっ、壬生!」
このまま時が止まってしまったらと…本気で思った自分が情けない。
…ああ、本当にこれでは恋の暴走特急だ。

…その瞬間、心臓が一瞬止まった…。
「わ〜紫暮さんっ何やってんですか?」
「セクハラっすよ」
外野が何かを言っているが耳元には全く入ってはこなかった。いや、その時確かに自分は周囲の事を忘れていた。
我を忘れ武道家の血が滾ったのか、何時しか自分は夢中になって壬生に手合わせをしていた。そして。そして気が付いたらいつのまにか壬生に寝技をかけていたのだった。
いや、決して狙ったわけではない…多分…。
自分の下に組み敷かれた壬生は息一つ乱さず、自分をあの子猫の瞳で見上げてくる。気まぐれでプライドの高い、子猫の瞳。
「…壬生…」
ああ今すぐにその紅の唇に口付けてみたい。そして、そのまま…。
確かに自分はその時、廻りの事など見えていなかったのだ。だから耐えがたい誘惑に勝つ事など出来なかった。だから、俺は…。
「…俺は…」
驚愕の為か少しだけ見開かれた瞳が、自分に飛び込んでくる。でも、もう止められなかった…。

「何をしているんだい?」
「如月さん?」
「如月?!」
自分の声と壬生の声は殆ど同時だった。しかし如月はそんな自分にはお構いなしに。
「今日は僕の倉庫の手伝いをしてくれるはずじゃなかったのかい?‘紅葉’」
最後の『紅葉』の部分を強調しながら如月は言った。何だっ俺は苗字でしか呼んだ事ないのに…何で貴様が軽々しく名前を呼ぶんだ〜〜っ!!
「村雨さんが居るからいいでしょう?」
「ふっ、もしかして僕が村雨を呼んだから拗ねているのかい?それよりも」
おいっちょっと待て。何なんだ、その台詞は。それよりも。
「いい加減退きたまえ、紫暮。僕の‘大事な人’に怪我でもされたら困るんでね」
そう言うや否や如月はその細い身体のどこにそんな馬鹿力があるのか、自分の下から壬生を引き出すと、そのまま抱き上げた。
「ちょっ、ちょっと如月さん…」
困ったように如月を見上げる壬生を余所に、奴は思いっきし余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべると。
「そう言う訳だから、失礼するよ」
そのまま壬生を抱き上げながら、連れ去ってしまった…。
もちろん、その瞬間、自分が真っ白に燃え尽きたのは…言うまでもない…。

「残念ですね、紫暮さん。お姫様は王子様に連れ去られてしまいましたね」
「や〜紫暮さんもイイ男ですけど…いかんせんさっきの旦那は男前過ぎまっせ。諦めた方がエエんとちゃう?」
…うるさいっ!!そう怒鳴ろうとしたが、声にならなかった。
如月そう言う事だったのかっ!!
何時もやたらめったら壬生との邪魔をすると思ったら…。
畜生、俺の心はこの空とは今正反対に土砂降りだ。

…それでも止められない愛の超特急…ああ、男とは切ない生き物だぜ…。


HONEY


窓を開けると強い風が飛び込んできて、思わず壬生は目を閉じた。
紫暮の道場から如月に拉致されて(?)彼の愛車黒のスープラに乗せられたのがつい十分前だった。
大体高校生の分際でスープラに乗っているなんて、贅沢過ぎる。幾ら骨董品屋で生計を立てていると言っても、そんなに儲かるものでもないだろう。これだから…金持ちという存在は腹立たしい。
「未だ、拗ねているのかい?」
器用にハンドルを捌きながら、助手席に座る壬生に如月は声を掛ける。ちらりと壬生はその横顔を見ると、相変わらず涼しげな美貌がそこにあった。不覚にもつい、壬生はその横顔に見惚れてしまう。
「拗ねてなんて、いませんよ。それよりも片づけ終わったんですか?」
「声が拗ねてるよ。まあ拗ねてる君も可愛いけれど」
「何バカな事言ってるんですか?それよりも質問に答えてください」
「大体、終わったよ。後は一人でも出来るし…それとも手伝ってくれるのかい?」
「ならばお一人でどうぞ」
「…冷たいなあ…」
そう言いながらも如月の目は真っ直ぐ前を向いている。彼は壬生が助手席に乗っている時は、必ず安全運転だ。とは言っても助手席は壬生の専用場所なので他の人間が乗る事はないだろうが。
「まあ僕としては、君に倉庫の片づけなんて無粋なものをやらせたくはないしね」
「手伝ってくれって言ったのは如月さんですよ」
「それは口実だよ。君と正月を一緒に過ごしたい為だけの」
「…じゃあ何で村雨さんが、いるんですか?…」
言ってみてからこれじゃあ子供みたいだと、壬生は気恥ずかしくなる。本当にこれじゃあ子供の我が侭だ。
「何処から聞き付けたのか、勝手に押しかけてきた。まあ村雨にしてみれば、正月早々君を独り占めしようとした僕に対するささやかな報復だろうけど」
「何でそうなるんですか?」
返ってきた如月の言葉は壬生にはあまりに予想外で、思わず聴き返してしまう。何なんだ、それは。
「いい加減、君は自分の魅力を自覚した方がいい。君を欲しいと思っている人間は、僕だけじゃないと言う事に」
「そんな物好き如月さんくらいですよ」
「ならばいいのだけれどね。僕は余計な心配をしなくてすむ。今日だって紫暮に連れて行かれて何かされたんじゃないかと、気が気でなかったよ」
「…だからどうして、そうなるんです…」
信号が赤になって車が止まる。その瞬間を、如月は逃さずに。
「僕が君の事をどうしようもない程、好きだからだよ」
そう言うと素早く、壬生の唇を奪った。

車の行き先は壬生の予想外の場所だった。てっきり如月の自宅に戻るのかと思ったが、違っていた。
そこは人気の無い、冬の海だった。
「寒くないかい?」
如月に優しく聞かれて、壬生は首を縦に振った。こう言う時如月は、卑怯な程に優しい。
「ならば良かった。君に風邪なんか引かれたら、僕の方が困ってしまう」
「どうして如月さんが困るんですか?」
「心配で眠れなくなる」
誰もいないのをいい事に如月の手が肩にかかると、そのまま細い身体を抱き寄せた。
「き、如月さんっ!」
「大丈夫、誰もいないよ」
幾ら誰もいないとは言っても恥かしいものは、恥かしい。公共の場でこういった行為に及ぶ事を壬生は慣れていない。いや他人と触れ合う事自体、壬生には不慣れな事なのだ。
「君に冬の海を見せたかったんだ。夏の海は人が多くて騒々しいからね。でも…冬の海は静かで綺麗だ…」
確かに如月の言う通り冷たい静けさに包まれた海は、思いのほか良い。いや、かなり気に入ってしまった。
「…男二人で来るところじゃないですね…」
くすりと微笑いながら壬生がそう言うと、如月は瞼が触れ合う程近くに顔を寄せて。
「恋人同士ならば、いい所だろう?」
そう言うと、強引なキスが降ってきた。それを壬生には拒む事は出来なかった。
如月の、キスは巧い。本当に意識が蕩けてしまいそうになる。
「…しまったな……」
唇が離れても何処かぼんやりとする意識の中で、如月の声が降ってきた。その声はひどく、壬生の耳に響いてくる。
「こんな所じゃ、押し倒せない」
「…如月さんっ!」
あんまりな台詞に壬生の意識が一気に覚醒する。ちょっとだけぼうっとしてしまった自分が恨めしい。
「日本には‘姫初め’と言う立派な伝統があるだろう?」
「…結局それしか頭に無いんですか?」
「君がそんな顔するからだよ。僕だってただの男だからね。愛する恋人が目の前にいて何とも思わない方がおかしい」
「……」
本当に口だけは上手い。伊達に客商売をやってはいない。無口で口下手な自分は何時も負けてしまう。
「海の見えるホテルで初夢を見るって言うのは、どうかい?」
「…初夢って、寝かせてくれるんですか?…」
「もちろん、いい夢見せてあげるよ」
…本当だろうか?そう思いながらも結局自分は如月の言葉に負けてしまう。これも、惚れた弱みという奴だろうか?
「とびっきりの、快楽と一緒にですか?」
「言うようになったね。ふっ…少しは僕に懐いてくれたのかな?」
何を今更…そう言おうと思ったが、これ以上如月を喜ばせても面白くないので止めておく。それよりも、今は。
「でも、もう少し」
「ん?」
「…もう少し…この海を見ていましょう…」
「君が望むなら、何時までだって」
如月の答えに。壬生は子供のような無邪気な笑みを向けた。そんな壬生に如月は微笑む。彼は多分気付いていない。この無邪気な笑みの回数がこの頃増えた事に。気付かなくても、いい。自分だけがその事を分かっていれば。
「…如月さん…言い忘れてました……」
壬生の瞳が、綺麗に微笑んで。そして。そっと耳元に囁いた。

「明けまして、おめでとうございます」

 
…海の見えるホテルで、初夢を見よう。

「こんな贅沢して、いいのかな?」
ホテルの最上階で少し早めの夕食を取りながら、壬生は如月に言った。グラス越しに見える壬生の頬はほんのりと赤かった。無理も無い。元々あまり飲めないのに、無理にワインを飲ませたのだから。
自分はと言えばアルコールに関してはザルなので、顔色一つ変わる事はないが。
「正月ぐらい、構わないだろう?」
「…でも…母の事を考えると…」
そう言って壬生は見かけよりもずっと長い睫毛を閉じた。無理も無い。母一人子一人の家庭だ。唯一の家族を心配しない訳にはいかない。おまけに彼の母は今、病院に居る。
「君は、優しいな。でも今日くらいは…」
如月は手を伸ばし、壬生のそれに重ねた。その瞬間壬生の手がぴくりと震えたが、彼はそのまま抵抗しなかった。
「…今日くらいは、僕の事だけ考えていてくれないか?…」
重ねあった手のひらから、彼の体温が感じられる。彼は子供みたく体温が、人よりちょっと高い。
「…考えてないと…思っているんですか?…」
俯きながらぽつりと、壬生は呟いた。思いがけない彼の返事に如月の口許が綺麗な笑みの形を作った。
「僕の事、考えていてくれる?」
「目の前にいるんですよ、考えてない訳ないでしょう?」
「目の前に居なければ?」
「…そんな事、無いですよ……」
「え?」
「如月さんは、もう僕の中にいるから」
もしかして彼は、酔っているのだろうか?何時もなら絶対に言ってもらえない台詞を今日に限っては何故か言ってもらってる。それとも正月サービスなのだろうか?
「知らなかったんですか?如月さんはとっくの昔に、僕の心に住みついているんですよ」
抱きしめたく、なった。今すぐに。思いの丈を込めて、自分の全てで。抱きしめて、愛していると囁きたい。
「…なのに貴方は、変な心配ばかりする…」
「君が綺麗、だから」
如月は重ねていた壬生の手を取ると、そのままそれを口許へと持ってゆく。そしてそっと口付けた。
「哀しいくらい、綺麗だから。目が離せない」
「……」
「…部屋へ、戻ろう……」
如月の言葉に、壬生はこくりと頷いた。

部屋の扉を閉じると同時に、如月は壬生の身体を抱きしめた。そしてそのまま強引に口付ける。
「…んっ…まっ…て…」
壬生の手が如月の服に掛かると、彼を無理やり引き剥がした。しかし如月はそれを許さず、その腕の中に閉じ込めてしまう。
「待てない、君が欲しい」
耳元で囁かれ、壬生の身体はぴくりと震える。しかし壬生は首を横に振った。
「駄目だよ、シャワーも浴びてない。それに海にいたせいで、身体がべとべとだよ」
「構わない、そのままの君が欲しい」
「…如月さん…」
「それに僕の身体だって、べとべとだよ」
ふっ、と如月は微笑うと、そのまま壬生の身体を抱き上げた。そしてその身体をベッドの上に寝かせる。
「これでも未だ、君は僕を焦らすのかい?」
如月の大きな手が壬生の頬を包み込む。その体温の心地よさが、壬生の瞼を閉じさせた。それが、合図だった。

「…んっ…ふぅ…」
ぴちゃぴちゃと淫らな音を立てながら、舌を絡め合う。その音だけで、壬生の身体は熱くなった。
「…きさら…ぎ…さん…んっ……」
角度を変えながら何度も何度も口付ける。その度に押し寄せる甘い疼きが、壬生の意識を拡散させた。
その間にも如月の手は器用に壬生の衣服を全て脱がせていた。生まれたままの姿になった壬生の肢体は、ひどく官能的だった。
「…ずるい…如月さん…」
気の遠くなる程の長い口付けから開放されて、やっとの事で零れた壬生の言葉に如月の綺麗な眉が、少し形を変えた。
「どうして?」
「…僕ばかり…脱がせて…ずるい…」
そう言うなり壬生の手が伸びてきて、如月のワイシャツのボタンに掛かる。そしてそれを一つ一つ外し始めた。意識が拡散しているせいか中々上手く外せなかったが、如月はそれが終わるまで待っていた。そんな些細な動作ですら、如月は愛しかった。
「…これで、一緒……」
如月の衣服を全て脱がした事に満足したのか、壬生は子供のように笑った。そんな壬生にご褒美とばかりに、汗で濡れた額にキスをした。
「…如月さん…そのまま動かないで…」
「え?」
如月の疑問符に答える前に壬生はそのまま彼を寝かせ、自らが如月の上に跨った。
「…貴方の顔を上から見るなんて…何か変な気分だ…」
ぽたりと壬生の髪先から雫が如月の頬にひとつ、落ちた。その雫を自らの手で壬生は拭うと、そのまま如月に口付けた。
「どうしたんだい、紅葉?」
彼の髪をそっと撫でてやりながら、如月は尋ねた。しかしただ壬生は無邪気な子供のように、微笑うだけで。
「貴方の綺麗な顔、上から見てみたかった」
それだけを言うとまた、キスをした。そしておずおずと自らの手を如月自身へと絡める。そして決心をしたように彼は如月を追い詰める為に自らの指を這わした。
それは自分自身が如月の手で教えられた指の動きだった。その愛撫はぎこちなく何処か拙かったが、彼自身がしてくれると言うだけで、如月の雄を充分に刺激した。
「紅葉?」
手の動きを壬生はいったん止めると、彼の身体を舌で舐め始めた。その動作はひどくエロティックで、そして綺麗だった。
「…んっ…」
舌が何時しか如月自身に辿りつき、それをそのまま口に含んだ。
「…ふぅ…んっ…んん……」
苦しそうな顔で自分自身を銜えている壬生を見ていると、如月は堪らない気持ちになる。もちろん彼が自分に対してこんな事をするのは初めてだった。大体壬生はあまりセックスに積極的ではない。自分が求めれば答えてくれるのだが、自分から求めてくれる事など、皆無に等しい。それなのに、今は…。
「…はぁ…っ…」
充分に立ちあがった如月自身から顔を外すと、壬生は自らの指を口に含んだ。ぴちゃぴちゃと音を立てながら、自らの指を濡らしてゆく。そして充分に濡れたと判断すると、その指を自らの秘所へと忍び込ませた。
「…くぅ…」
無理な態勢で行為を行う壬生に、如月は自らの腕で支えてやる。そして苦痛に歪んだ額に口付ける。
「…ふ…く…んっ…」
何度も抜き差しを繰り返し、異物を中の媚肉に馴染ませてやる。何時しか彼の口から苦痛以外のものが混ざってきた。
「…如月…さん……」
先ほどまで自らの中を蠢いていた指を如月自身に絡めると、そのままその双丘の狭間に充てた。
「紅葉、無茶はするな」
壬生は如月の忠告を無視すると、そのまま自らの身体を落とした。
「…ひぃっ……」
さすがに無理な姿勢からの侵入が、壬生の口から悲鳴を漏らさせた。それでも彼は、止めようとはしなかった。
「…紅葉……」
そんな彼が堪らなくて、如月は今の痛みで萎えてしまった彼自身に指を這わした。それはたちまち快楽を如月の指に伝えてきた。
「…あっ…ああ…」
目尻に快楽の涙を零しながら、壬生は身体を沈めてゆく。その度に楔を呑み込んでゆく彼の敏感な部分が、血を流した。
「…あぁ…ぁ……」
全てを呑み込むと壬生はいったん、動きを止めた。口からはひっきりなしに荒い息が零れる。
「どうしてそんな無茶をするんだい?僕は君を抱ければそれだけで満足なのに」
「…無茶…じゃ、ない…」
こうして両腕で支えてやらなければ、今にも彼の身体は崩れ落ちてしまうのに。自分を埋め込んだ場所からは、鮮血が流れているのに。それなのに。
「…僕が…こう…したかったんだ……」
「…紅葉…」
「…僕が…貴方を…感じたかったんだ……」
そう言うと再び壬生は動き始めた。自らの腰を使い、より深い快楽を求めた。幸か不幸か先程の出血が、逆に壬生の動きを滑らかなものにしていた。
「…あっあぁ…あ……」
如月の手が彼の動きを助ける為に、その細い腰を掴んだ。そしてそのまま彼の腰を上下させる。
「…ああ…きさらぎ…さんっ……」
「好きだよ」
「…あっ…ぁぁ…もう…」
「君が、好きだよ。永遠に」
永遠と言う言葉が決してまやかしなんかじゃないと、どうしたら伝えられるだろうか。この気持ちが尽きる事の無い溢れる想いだと、どう言えば伝わるだろうか?
この身体を引き裂いて、剥き出しの魂を見せれば伝わるだろうか?
「紅葉…愛しているよ…」
「ああっ!!」
壬生の体内に如月の欲望が吐き出されたと同時に、彼も達した…。

「…痛い……」
行為の後全く動けなくなってしまった壬生は、恨めしそうに如月を見上げた。そんな彼の瞳を受け止めながら、如月は相変わらずの綺麗な笑みを浮かべていた。
「君が、無茶をするからだ」
「…良く、無かったですか?…」
やっぱり今日の彼は何処か変だ。そんな台詞やっぱり普段の彼ならば言う訳がない。
「いや、良かったよ。正直、嬉しかった。でも君にはあまり無理をしてほしくない」
「……」
何かを言いかけて、そし壬生は唇を閉じた。その頬はほんのりと赤く染まっていた。未だ、アルコールが抜けていないのだろうか?
しかしそれは如月の見当違いだった。彼はぷいっと如月〜視線を外すと、そのまま頭からシーツを被ってしまった。そして。
「…今日は、特別です…。何時も僕は素直じゃないから…今日だけは、貴方に素直になろうと、思っただけです」
「…紅葉……」
「何時もちゃんと言っていないから、今日はいいます。僕は貴方が好きです。だから変な心配だけは、しないでください」
如月の腕がシーツごと、壬生を抱きしめる。その腕の暖かさは泣きたくなる程、優しくて。
「その言葉だけで、充分だよ…ありがとう…」
優しくて、苦しくなる。

「今日の僕は、正月サービスですよ」
後で教えてくれた壬生の言葉に如月は、言う。

それならば毎日が、正月ならいいのに、ね。


End

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