純愛

初めて、ひとを殺したいと、思った。

誰よりも、綺麗なひと。
その髪もその睫毛もその唇も。
全部、全部、手に入れたい。
自分だけのものに、して。
貴方の瞳の中に閉じ込められたい。

殺したら、貴方の全てが手に入る?

「…痛みは、感じないよ。僕はそんな人間的な感覚なんてないから」
そう言って笑う壬生の口許は、ひどく紅い。漆黒の闇だけの世界にぽつりとその紅は、華のように咲いた。
それはとても、綺麗だった。
「ほら、全然痛くない」
自らの指先を口に含むと、それを歯で引き千切る。そこから溢れた血は、鮮やかに紅い。
「如月さん、この血を貴方にあげる」
そう言って差し出された指先を、如月は自らの口に含んだ。そして全てを飲み干す。
「…君は、そんなにも僕を手に入れたいのか?」
滴る血を舌で辿り、それは何時しか手首にあたる。その柔らかい肉を軽く噛むと、壬生の瞼が微かに揺れた。
「好きなんだ、貴方が。貴方が好きで、気が狂いそうだ」
「…狂えば、いい…」
このまま柔らかい肉を噛み砕いて、骨までしゃぶりつくして、何もかも自らの中へと取り込んでしまいたい。そうしたら…もう何もいらない。
「僕は狂ってる。君が欲しくて堪らない。君を犯して君を穢したい」
「穢せば、いいよ。僕の魂は堕ちている。貴方が僕の身体に入ってきたら…僕は貴方を閉じ込めるよ。永遠に」
「…それは…素敵な幻想だ…」
「幻想なんかじゃないよ。如月さん…だから僕を抱いて……」
絡み付いてきた壬生の細い両腕だけが、如月の意識の全てになった。

この綺麗な瞳も、優しい腕も、全部。全部、僕だけのもの。
誰にも渡さない。僕だけの綺麗な、ひと。

白いシーツに散らばった血が華のように舞った。
その華の中に埋もれて、ふたり。溶けてしまえたら、と。
溶けて何もかも交じり合って、そして全て。
…消えてしまえれば、こんなに幸福な事はない。

「こうして繋がったまま、死んでしまえたら」
髪の先から、紅潮した肌から、漆黒の瞳から。無数の雫が如月の身体に降り注ぐ。ぽたり、ぽたりと。
「…僕は何も望まなくて、いいのに…」
狂ったように声を上げ、何度もその肉を求める。浅ましいただの獣に戻って、何度も貫かれる。その瞬間だけが、壬生にとっての永遠だった。彼を感じる事が、全てだった。
「貴方の腕で死ねたら…僕は…」
「殺して、欲しい?」
「殺して欲しい。でもそれ以上に」
紅の唇が、触れてくる。その口付けは血の味がする。とても残酷でとても甘美な。
「貴方を、殺したい」

初めて、ひとを殺したいと、思った。

「今、貴方が死ねば。貴方の瞳に最後に映るのは僕になる」
「それは悪くない死に方だ」
壬生の言葉に、如月は微笑った。それはどんなものよりも、綺麗。
何よりも、誰よりも、綺麗。
この笑顔が欲しくて。この瞳だけを自分だけのものにしたくて。
誰にも、見せたくない。誰にも、渡したくない。
「…でも……」
指先で、輪郭を辿る。冷たい色をした肌は、けれども体温を壬生の指に伝える。
「貴方が死んだら、その瞳が見られない」
「命が尽きても、君を見ているよ」
「その優しい声が、聞こえない」
「君の耳元でずっと、囁くよ」
「その腕が僕を、抱きしめてくれない」
「身体なんかなくても、君を抱きしめるよ。言葉なんかなくても、君に愛を告げるよ」
「…貴方を殺したいのに…貴方を見ていたい…」
「一緒に死のうか?」
「死ねたら、いいね。でも貴方は僕を殺せない」
「…分かっているね……」
「だから貴方は残酷なんだ。僕だけを置いてゆく事が優しさだと思っている」
「…僕は、優しくないよ…」

「優しくないよ。そうやって君の心を僕は縛るんだ」

壬生の綺麗な喉元に、如月はきつく口付けた。それは噛みつくような激しさ、だった。

殺したいのは、僕の方だ。
君の不安定さを、僕だけが知っている。
君の狂気を、僕だけが知っている。
そう仕組んだのは…僕だから。
君が僕以外考えないように。君が僕以外考えられないように。
君を手に入れたいのは、僕の方だ。
君をこの腕の中に閉じ込めて。誰にも見せないように。誰にも触れさせないように。
例え屍になっても。僕は君を愛している。

「…僕を殺せないのなら、僕は貴方を殺さない」
「君がそう望むなら」
「生きて貴方を僕だけのものにする」
「…君が望むなら…ともに堕ちるまでだ……」

……それは、哀しいくらいの、純愛。

 


End

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