十字架

胸に宿るこの罪を。どうしたら消す事が出来るのか?


一生消える事のないこの罪は。どうしたら赦されるのか?


「僕の最大の罪は貴方を愛した事です」
血まみれの両手で君はそう言った。だから僕はその手を取り、指先の血を舐めた。君の指。血で穢れた指。でも僕にとってはそれすらも愛しいものなんだ。
「…貴方を、愛してしまった事です……」
そのまま君を抱きしめ、唇を奪う。血の味のする口付け。でも僕らにはそれが一番似合うだろう?
「……如月…さん…貴方を……」
罪なのか?ひとを愛する事は罪なのか?だとしたら僕も罪人だ。君を愛して、君が欲しくて、君を手に入れたくて。ただそれだけの為に僕は。――――僕はこうして君を、堕落させている。
「どうして僕はこんなにも貴方を愛しているの?」
今にも泣きそうな顔でそれでも泣けない瞳で君が言った。愛してくれ。僕だけを愛してくれ。もう誰も見ないでくれ。君は。君は僕だけのものだから。


あいするひとを、殺せますか?
――僕には殺せないよ、龍麻。
俺も殺せない。でも、死ねる。
――蓬莱寺の為に?
うん、あいつが俺を殺したかったら、俺はそれに答えるよ。


俺はそれ以上何も望まないから。


君達のように。君達のように死を選べば。選べば君も僕も少しは救われるのか?このまま無になって。互いを独占したまま、死ねれば。死ねれば、君は楽になれるのか?


それでも僕は君を殺せない。


愛しているから。誰よりも君だけを愛しているから。だから殺せないんだ。君が今の立場でいる事を放棄したがっても。君が今の立場から逃げたしたくても。それでも。それでも僕は君を殺せない。愛しているから、殺せない。


蓬莱寺、僕は。君のように愛する者に手を掛けられない。幾ら相手がそれを望んでも。僕には、出来ないんだ。


殺す以上の執着心が僕の中にある以上。


「如月さん…僕はどうすればいいのですか?」
君が。君が僕を愛する事を罪だと言うのは。君が死を望むから。君は僕を殺してまでも手に入れたいと思っている。ならば殺してもいいんだよ。君の為ならば僕は。僕はこの命を幾らでも上げるから。
「――何も考えなくていい。僕の腕の中にいればいい」
それでも君が僕を殺せないのはやっぱり。僕と同じで、死よりももっと執着心の方が強いからだね。


腕の中に抱いて、そして君の身体に指を滑らせて。君の唇に口付けて。そして。そして君の身体を貫いて。君の甘い吐息と、君の熱い身体を。全て。全て僕の口と腕に閉じ込めて。


―――さくら。さくらが一面に降って来る。綺麗な花びら。死体の養分を吸って咲く花びら。
この桜の下にはね、紅葉。蓬莱寺と龍麻の死体が埋まっているんだよ。最も龍麻の死体は蓬莱寺が食らい尽くして彼の中に取り込まれているけれどね。


そんなはなびらの下で。そんなさくらの花びらの下で。
ふたりで抱き合う。君の身体が花びらに埋もれてゆく。
綺麗、だね。綺麗だよ。とても、綺麗、だよ。


君を、愛したことが罪。君に、愛されたことが罪。
死よりも深い執着心で。互いを縛りつけ。
そして何処にも行けなくなった。
けれども。けれどもそれはお互いが望んだ事だから。


もしかしたら僕達は。僕達は幸せなのかもしれない。誰にも届く事のない場所で。誰にも届かない場所で。愛し合っているのだから。


こんなにも愛する人に巡り合えたのだから。



End

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