JUPITER
歩き出す月の螺旋を 流星だけが空に舞っている
そこからは小さく見えたあなただけが
優しく手を振る
背中に生えたのは、白い翼。
どんなに望んでも手に入らなかったもの。
綺麗できらきらと輝く自由の翼を。
僕は今、手に入れた。
その翼を広げて、僕は羽ばたいた。
空の破片を手で掬いながら、そっとそれを抱き寄せる。
僕を縛る無数の鎖は千切れて、僕は自由を手に入れた。
身体中に食い込む鎖も全てを呪縛していた糸も全て。
全て僕は穢れた地上に捨ててきた。
頬に流れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし
翼を休めて貴方の元へと舞い降りた。
けれども僕の手は貴方を擦り抜けて触れる事が出来なかった。
そして、零した涙も。
頬を流れた涙も空気を風を擦り抜けて、そして。
…この零れ落ちた涙も…貴方には見えないのでしょうね……
初めから知っていたはずさ 戻れるなんて だけど…少しだけ
忘れよう全てのナイフ
胸を切り裂いて 深く沈めればいい
君は自由を手に入れた。全ての俗世を切り捨てて。全てのしがらみを捨てて。
君は背中の白い翼を手に入れた。
血塗られて重たかった君の抜け殻を脱ぎ捨てて。そして、自由の翼を。
君は今、手に入れた。
僕はしがらみに生きている。現実に生きている。
無数の鎖は僕を地上からは離してはくれなかった。いや、離せなかった。
君がその翼を手に入れる為ならば、僕はいくらでも犠牲になろう。
君が空を、飛べるならば。
君の姿は僕には見えているよ。
例え触れる事は出来なくても。例え抱きしめる事が出来なくても。
僕には君が、見えている。
君の背中の羽も。君の零した赤い涙も。
まぶた浮かんでは消えてく残像は まるで母に似た光
そして涙も血もみんな枯れ果てて
やがて遥かなる想い
僕の身体は血塗られていた。たくさんの人を殺め、そして穢れた身体。
生きる為に何でもした。
人を殺して、男に身体を差し出す。
全て生きる為だけに。なんの価値もないこの命を生かす為に。
僕はただそれだけの為に取り返しのつかない事を繰り返していた。
そんな僕を救ったのは貴方だった。
貴方が僕の鎖を外してくれた。貴方が僕のしがらみを引き裂いてくれた。
…貴方が僕を…解放してくれた……
どれほど悔やみ続けたら
一度は優しくなれるから?
サヨナラ 優しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?
僕が犯した罪は永遠に拭えないだろう。
ただ一度の過ち。ただ一度の罪。それでも。
それでも僕は後悔していない。
たったひとつだけ僕が君にしてあげられた事。
僕が君にしてあげられた唯一のこと。
君を解放してあげる事。この鎖をこのしがらみを、解いてあげる事。
君のこころを魂を、自由にしてあげる事。
…でも僕は…君を独りにしてしまった……
頬に流れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし
今夜 奇麗だよ月の雫で 汚れたこの体さえも
貴方の元を飛び立ちたくない。
ずっと貴方の傍にいたい。けれども。
けれどもそれはただの我が侭だから。
貴方が与えてくれた僕の背中の翼は、永遠のさよならのしるし。
現実に生きる貴方と、夢で生きる僕。
どうしても越えられない透明な壁。
触れられない指先が全てを物語っているから。
貴方が僕にしてくれた事は。
…僕と貴方を永遠に引き裂いた……
君にこの腕で触れたい。
君の髪に顔を埋めてその細い身体を抱きしめたい。
けれどもそれはただの願望でしかないから。
僕が犯した罪は君の自由と引き換えに、君を永遠に失った。
穢れた地上に縛られている僕と、綺麗な空に飛び立った君。
どうしても砕けないリアルな現実。
絡めあえない指先が全てを伝えているから。
僕が君にした事は。
…君と僕を永遠に引き離した……
どんなに人を傷つけた
今度は優しくなれるから?
サヨナラ 悲しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?
「さよならは、いわないよ。紅葉」
たとえこれが永遠の別れだとしても。
たとえ二度と逢う事が出来なくても。それでも。
『…はい…如月さん……』
それでもさよならは言わない。
ふたりを結ぶ糸が運命の色をしていると信じているから。
だからさよならは、いわない。
ふたりを結ぶ運命を、信じているから。
End