堕落する、こころ。

…もしも願いが叶うのならば。
叶うのならば、もう一度。
もう一度『壬生 紅葉』として生まれて。
生まれて、そして。
そして別の人生を歩みたい。
今の自分の名前と自分の顔と自分の形を持って。
持って、そして。
そして別の人生を歩みたい。
…だって…貴方に分かって欲しいから。
貴方に見つけて欲しいから。
だから今のままで、いたい。
けれども、違う人生を歩みたい。
貴方の隣に立つだけの綺麗な経歴が欲しい。
人殺しじゃなくて、血塗られた手じゃなくて。
全然別の平凡な人生を。
当たり前の物を当たり前に与えられる人生を。
僕は、歩みたかった。

―――貴方の隣に、立てる人間に。

「君は君以外の何者でもない。僕はそんな君が好きなんだ」
貴方は優しく微笑いながらそう言った。その優しさに包まれて溺れたくなる。でも溺れてしまったら、きっと。きっと僕はもう全てが、全てが壊れてしまう気がする。
そう今までぎりぎりで堪えていた最期のモノが壊れて。壊れてそして、そして堕ちてゆく。
――堕ちる…でも…何処へ?
貴方の腕に溺れて、貴方の優しさに包まれて。それが。それが何よりも僕にとっての幸せのはずなのに、それなのに壊れてしまう。幸せ過ぎて、壊れてしまう。
「君の全てが、好きなんだ」
そう言ってそっと。そっと髪を撫でてくれた。柔らかい指先、優しい指先。こうしてほんの少し貴方が触れるだけで、それだけで優しさが伝わるから。
伝わって、そして。そして染み込んでゆく優しさが。その優しさが僕を駄目にする。
「…如月さん…僕を否定してください…」
「何故?」
「僕の手は血に塗れてる。僕の身体は穢れている。貴方に相応しいものは何一つない。それなのに貴方は僕の全てを受け入れてくれる…でも…」
「――でも?」
「…それは綺麗な貴方に相応しくないから」
「君は、綺麗だよ。心も、魂も全部」
「…僕が…イヤなんです……」
「どうして?」
「僕自身が許せない。貴方の隣に立てるだけの価値が…見出せない…」
「価値?そんなもの必要ない、僕は君がいればいい」
「…そんなんじゃいやなんです…貴方が好きだから…少しでも…少しでも貴方の近くに行きたい」
「―――僕の、そばに?」
「…貴方のそばに、行きたい……」

そばにいきたい。
貴方の隣に立ちたい。
貴方と一緒の場所に。
貴方と同じ位置に。

…貴方と……

「…僕の手を綺麗にして……」

泣きたくなった。泣けるなら声を上げて泣きたい。
泣いて泣いて、洗い流せるのならば。

「…この血塗られた手を……」

もう何もかも全部、全部失くしたい。
自分自身を殺したい。
殺して、そして再生したい。
もう一度綺麗な身体に生まれ変わって。
そして。
そして貴方に出会いたい。

「紅葉、綺麗になんてしなくていい」
「…如月…さん?……」
「穢たなくてもいい。穢いままでいい。君がどうしても僕と同じ位置に立ちたいのならば、僕がそっちへ行く。君と同じ位置に」
「……え?………」
「そこへ、行く」

貴方は綺麗な顔で笑った。
今まで見たどんな顔よりも。
綺麗な顔で、微笑った。そして。

そして貴方は僕の手首を噛み切った。

「君の血は、死ぬ程甘いよ」
生暖かい貴方の舌が僕の血を掬う。そこからじわりと甘い痛みが広がる。
広がって身体中に拡散して、そして。そして全身を支配する。
「…如月さん……」
支配して、痺れるほどの快楽が生まれる。
「…如月…さ…ん……」
「愛しているよ、紅葉」
麻痺しそうなほどの、幸せが。
「愛しているよ」
もう一度貴方は綺麗な笑顔を向けると、今度は。
今度は貴方は自らの手首を切った。
「ほら、紅葉。僕の血も紅いよ」
「…如月さん?……」
「君と同じ色をしているだろう?」

「…君と…同じ、だよ……」

貴方が手を差し出した。僕はその血を舐めた。甘い、血だった。貴方が僕の血を甘いと思うのと同じように。同じように、甘い血だった。

「…同じ…ですね……」

指を、絡めた。
絡めて、そして。
そして手首を重ねた。
そこから零れる血が交じり合って。
交じり合って、そして溶け合った。
―――絡み、あった……。

「君は君のままでいい。このままでいいんだ。僕が君の場所まで行くから」

生まれ変わらなくても。
平凡な人生でなくても。
綺麗な経歴でなくても。
それでも。
それでも、いいんだ。

君のものならば穢れた血ですら、愛しているんだ。

「…堕ちるよ、紅葉。君のそばまで」
「僕のもとへ来てくれるのですか?」
「ああ、君と共に生きる為ならば。君と同じ位置に立つためならば」
「…光ある場所へ戻れなくても?……」
「そんなモノ君に比べたら、必要のないものだ」
「いいの?」
「君以外、何もいらないんだから」

そして僕は、壊れた。
貴方の腕に抱かれ、貴方の優しさに溺れ。
そして僕は壊れた。
でもそれは。
それは何よりも、幸せなことだった。


 

End

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