眠り
好きだから、壊れるの。貴方が好きだから、壊れるの。
壊して、壊されて何も残らなくなって。そして。
そしてふたりだけの世界に、閉じ込められたい。
「如月さん、ごめんね」
血まみれの貴方の冷たい身体を抱きしめながら、僕は貴方の喉に歯を立てた。
「痛かった?」
そのまま喉を噛み切ってその柔らかい肉を食べた。美味しいと、思った。
この世で一番美味しいものは愛する人の肉だと、思った。
「ごめんね、如月さん」
貴方が欲しかった。誰にも誰にも渡したくなかった。自分以外誰も映して欲しくはなかった。
貴方に抱かれるのは僕以外はいやだから。貴方の腕の中で眠るのは僕以外イヤだから。
だから、貴方を殺して僕の中に取りこむ。
…幸せだなと…思った。
壊れたのは、僕。壊したのは、貴方。
このむせかえる血の海の中でふたり。ふたりだけで。
永遠と言う名の鎖の中に閉じ込められよう。
愛しているから、壊した。君を愛しているから、壊した。
壊して、壊されて何も残さずに。そして。
そしてふたりだけの世界に、閉じ込めた。
『…紅葉…愛してる』
死体になった僕は魂だけで君に呼びかけた。聞こえない声で。君だけにしか聞こえない声で。
『僕を食べるの?それこそが僕の望み』
君の体内に取りこまれて、君を支配する。君の血となり骨となり永遠に君と共に。
これから誰が君を抱こうが君と寝ようが、君には僕のものだ。
『僕だけの、紅葉』
僕だけのものだから。僕だけのもの。君を抱くの僕だけだ。君と共に眠るのも。
だから君に僕を殺させる。僕は君を殺せないから。愛し過ぎて大切過ぎて殺せないから。
…これが幸せだと…思った…。
壊したのは、僕。壊れたのは、君。
この僕の流した血の海に君を埋める。君を閉じ込める。
永遠という名の鎖をかけたのは、僕。君を僕の中に閉じ込めるために。
…ふたりだけの永遠に…なる為に……
永遠に、なろう。
誰の手も届かない。誰にも触れる事の出来ない場所で。
ふたりだけで、永遠に。
永遠に、なろう。
誰にも邪魔なんて、させはしない。
全てを食らい尽くした。貴方をこの身体に取り込んだ。
もうこれで離れ離れになる事もないね。
もうこれで誰もふたりを引き裂けないね。
ずっと、一緒にいられるよね。
この血もこの肉もこの器官も、全部。
全部貴方と僕のもの。ふたりの、もの。
つま先から頭の芯まで貴方が僕を支配する。
流れる血は貴方の見えない呪縛。
刻む鼓動の音は貴方の支配する音。
「…如月…さん……」
血の海だけになった僕に、君はその身体を埋めた。
そしてその舌で僕の血を舐める。
僕が誰にも君を渡したくないのなら、君も僕を誰にも渡したくないんだね。
幸せ、だ。幸せだよ、紅葉。
―――こんなにも幸せな時を刻めるとは夢にも思わなかった。
目を閉じる。そしてそのまま溶けてゆく。
交じり合って、溶けて。そしてひとつになる。
ひとつになって。
……ふたりだけの…永遠に、なる………
End