罪と、嘘

―――君の罪と、僕の嘘。

どちらが間違っているのか、どちらが正しいのか、僕には分からない。
どちらも間違っているよう気がするし、どちらも正しいような気もする。
ただ君が犯した罪と、僕が重ねた嘘と。

―――それが重なり合っただけだった。


君を愛していると言った事だけが、本当の事だった。


君は何度でも罪を犯し続ける。
繰り返し、繰り返し、ひとを殺し続ける。
僕の口から零れる人間を。
僕が関心を見せる人間を、君は殺し続ける。
こころに悲鳴をあげながら、こころを砕きながら。
繰り返し行なわれてゆく、悪夢とリアル。

「愛しているよ、紅葉」

それだけが本当の事なのに。僕か言った唯一の真実なのに。
後は全て嘘だよ。全てが嘘なんだ。
名前を挙げた人間に関心なんてない、言葉にした名前に意味なんてない。
―――何もないんだよ。

それでも僕は嘘を付き続ける。そうして君を追い詰め、君を狂わせ…そして確かめているんだ。


――――君が僕を、好きだ言う事実を。


…許さないかい?…許さなくてもいいよ。
初めからそんなモノ欲しくなかった。
欲しいのは君だけ。君だけがいればいい。
君さえいてくれたら何もいらないんだ。

間違っているかもしれない。でも正しいかもしれない。
それは誰にも分からないだろう?君と僕以外…分からないだろう?
―――誰にも、分かりはしないだろう?


ぽたり、ぽたりと。
零れてゆく君の手のひらから。
溢れてくる、血。
君はひとを殺すたびに、自分自身を傷つける。
そうする事で罪から逃れようとしている。
ひとを殺すと言う事から逃れようとしている。

―――逃れる事なんて出来はしないのに……


逃さないよ、君の罪を。それは僕が植え付けたものだから。
君に付いた嘘は、全て。全て僕が刻んだもの。君の心に刻んだもの。
君を捕らえる為に、逃さない為に、刻んだもの。


「…血が…落ちないんです…如月さん……」


何度も何度も手を洗いながら君はそう言った。
指先は綺麗に洗い流されているのに。
君の身体から溢れる血も綺麗に流されているのに。
それでも君は手を洗い続ける。
―――流れゆく水に身を浸しながら。


「うん、落ちないね。でも大丈夫僕が綺麗にしてあげるから」


引き寄せて、抱きしめて。そして君を抱いた。
君の身体に指と舌を這わして、そして。
そして君の見えない『血』を洗い流してゆく。
透明で見えない血を。
君の身体を貫いて初めて。
初めて君は自分が浄化されるのだと、言った。

おかしいね、僕は君を穢し続けているのに。
君を犯して、君を汚しているのに。


嘘を付き続け、罪を犯し続け。
そして僕等は何処へ行こうと言うのだろう。
何処へ行こうとしているのだろうか?
ただ堕ちてゆくだけの中で、それでも。
それでも僕等は何かを必死で探していた。


「…如月さん…好きです……」


壊れた瞳の中で、その言葉を告げる時だけが君は正常になる。
こころも身体も魂も壊れてしまったけれど。その瞬間だけは。
その瞬間だけは、君は。

―――君はひどく子供のような笑顔で微笑うんだ……


「うん、僕も愛しているよ…紅葉……」


指を絡めて、手を結び合って。
そして告げた言葉だけが真実。
真っ暗な闇の中でそれだけが穢せないもの。
それだけが輝いているもの。
誰に何を言われようとも、それだけが…真実。

嘘も本当も僕等には必要無いかもしれない。
どちらも本当はひどく曖昧なものなのかもしれないから。


繰り返される日々が例え絶望以外の何物でもなくても。
誰が見てもそこに何も見出せなくても。僕等には。

…僕等には…必要なものだから………



ただひとつのものが、残ればいい。それだけで、いい。


End

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