いつも、君のそばに。 


暖かい日差しと、柔らかい腕の中が。
自分の世界の、全てになる。

窓から差し込む日差しの眩しさに、壬生の重たい瞼が開かれる。その瞬間目の前に飛び込んで来た綺麗な顔に、一気に意識が覚醒する。
さらさらの髪と、長い睫毛。そして色素の薄い冷たい白い肌。その全てが…
「…綺麗、だな…」
呟いてみた言葉の気恥ずかしさに、壬生は思わず頬を染める。本人を前にしたら絶対にいえない言葉だ。
収まらない頬の熱さが嫌で、壬生はその場から立ち上がる。しかし腹部に残る鈍い痛みが、それを許してくれなかった。
「如月さんのせいですよ」
目の前ですやすやと眠る如月が妙に憎たらしくて、指先で鼻を摘む。しかしその行為を壬生が叶える事は出来なかった。なぜなら…
柔らかい腕が壬生の身体を包み込み、その中に枯れは閉じ込められてしまったので…。

「目が醒めて真っ先に君の顔があるなんて、世の中捨てたものじゃないね」
「誰のせいだと思っているんですか」
そんな風に憎まれ口を叩く、彼がとても愛しい。愛しくて可愛くて、堪らない。どうしようも、無いほど。
「ごめんね、紅葉。僕のせいだね」
その言葉の意味を理解した壬生の頬がさあっと赤く染まる。けれどもさっきから彼の頬がほんのり赤かったのは、多分如月の気のせいではないだろう。
なぜなら、腕の中の彼の体温がそう、伝えていたから。
「本当ですよ、少しは反省してください」
息が掛かる程近くにある、壬生の顔。見かけよりもずっと長い睫毛と、猫のようにくるくると変わる不思議な表情の瞳。本当に猫のようだと、如月は思う。そう思うと、無意識に口から笑みが零れる。
「反省、しているよ。我が姫君」
壬生の唇が何か反論を述べようと、開かれる。その隙を逃さずに如月は壬生に口付けた。柔らかく、優しく、そして想いのたけを込めて。
「…キス、巧くなったね……」
じっくりと壬生の口内を味わうと、如月は微かに震えた睫毛に口付けながらそう言った。
「…如月さんの…教え方が巧いんですよ……」
「ふっ、そう言ってもらえると、光栄だね」
そう言うとまた、如月は壬生に口付けた。このまま一日中口付けていても、きっと足りないだろう。だから、今だけでも。
今だけでも、キスをしよう。

「これは、恥かしいですよ…如月さん……」
動けないという壬生を如月は軽々と抱き上げて、バスルームへと向かう。この細い身体のどこにこんな力があるんだろうと壬生は思ったが、そんな彼を余所に如月はバスルームのドアを開けると、湯船の浸かったバスの中に彼を入れた。
「昨日はあのまま眠ってしまったからね。身体、洗ってあげるよ」
「変な事、考えてませんか?」
「昨日の今日だ。そんな真似はしないよ。君に嫌われたくないからね」
「昨日は無理やり押し倒したくせに」
「でも君は、嫌がらなかっただろう?」
確かにその通りだが、改めて言われると何だか腹が立つ。大体何で自分がこんな目にあわなきゃならないんだろうか?
逆だって、いいじゃないか。そう思ってふと、目の前の如月の綺麗な顔を見上げる。彼を欲しいと、思った。その気持ちは嘘じゃない。自ら張った防護線をかれは強引に引き裂いてくれた。独りでいる事に慣れていた自分に、独りじゃないと、そう言ってくれた。
何時しかそんな彼を、独りいじめしたいと思った。自分だけのものにしたいと。だから嫌じゃなかった。彼が自分を欲しいと言ってくれたから。こうして抱かれる事は。
でも自分は彼を抱きたいと思った事は一度もなかった。抱かれるのは嫌じゃないくせに、これは何だか変だ。
「どうしたんだい?何か考え事かい?」
何時しか如月の手が器用に壬生の身体を洗い始めた。ちょっとだけくすぐったかった。
「如月さんは、僕に抱かれたいとか思います?」
その質問があまりに凶悪だったのか、如月の手がぴたりと止まる。そして何とも言えず困った表情で、壬生を見下ろした。
「一体、君は突然何を言い出すのかと思えば…。悪いが僕は男に抱かれる趣味はない」
「でも僕は、抱くじゃないですか?」
「当たり前だ。僕は君を好きなんだから」
「じゃあ抱かれてもいいとか、思いません?」
「日本男子たるもの、そんな真似は出来ない」
「…じゃあ僕は‘日本男子’じゃ、ないんですか?」
「君は僕の恋人だ」
単刀直入に言われて、今度は壬生の方が動きを止める番だった。
「大体何を言い出すのかと思えば…。僕が君を好きだから抱いた。それでいいじゃないか」
「好きだから抱きたいと、思うのでしょう?でも僕は如月さんを抱きたいと、思った事はありません」
「…でも君は、僕を好きだろう?」
壬生は、答えなかった。けれどもその答えは雄弁に瞳が語っていた。だから、如月は微笑って。
「分かった、こう言う事にしよう。僕がどうしようもないほど、君が好きだった。だから、君を抱いた。君は…」
唇を盗むように、如月は一瞬だけ壬生に口付けて。
「僕を好きだったから、僕を受け入れてくれた。それで、充分だろう?」
そうかも、しれない。こうやって如月にキスされるのも、抱かれるのも。好きだからと言う事には変わりない。
「だったら機嫌直して、今日一日どうするのか決めてくれるかい?」
「僕が決めて、いいの?」
「今日は君の我が侭は何でも聞いてあげるよ」
「何時もは聞いてくれないの?」
「ふっ、それは君自身が一番知っているじゃないか」
「そうだね、如月さん。貴方は僕には甘いから」
「甘いよ、どうしようもないくらい君が好きだから」
そうだ、これでいい。如月は何時も自分に最後の抜け道を用意してくれている。如月の方が自分を思っていると。
そしてそんな優しさに甘える自分を、彼は許してくれる。だから。

「…今日はずっと一緒にいてください……」
耳元で少し照れながら囁いた壬生の言葉に。如月は、微笑う。それは壬生以外見たことのない、何よりも綺麗なそして優しい顔で。
そして彼は、答えた。

……いつも、君のそばに。


End

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