しあわせ

『何時も、一緒にいれたらいいね』


指を絡めて約束はしなかったけれど。
それでもこころの中で、指切りをした。
――― 一緒にいようね、と。
それはただとつの小さな祈り。小さな願い。

けれども僕にとっては何よりも大切な言葉だから。


『何時も、一緒にいれたらいいね』

と、貴方が微笑いながら言うから。僕もつられて微笑ってしまった。何時も笑おうとすると身体の筋肉が強張って上手く笑えないのに、貴方の笑顔の前では凄く自然に笑顔が浮かぶ。自然に、貴方の前だと微笑える。
…不思議だな、と…思った。
これが貴方が僕にかけてくれた魔法ならば、僕は誰よりも幸せ。この小さな魔法が僕にとっての全てになるのだから。この小さな魔法が、僕にとって。
――――僕にとってただひとつの、笑顔の魔法。

『そうやって君が笑ってくれれば何もいらない』

僕も貴方がいてくれるなら何もいらない。こうして傍にいてくれるならば。こうして冷たい指先を暖めてくれるのならば。凍えた指先を、包み込んでくれるならば。
僕は、僕は何もいらないと…そう思った。
貴方の手。綺麗な指先。そして。そしてとても暖かい指先。どんなに指先が凍えても、どんなに冷たい空気に曝されても。貴方のその手が、あるならば。

『…僕も…です……』

言いかけた言葉は最後まで声にならなかった。貴方の唇がそっと僕の言葉を閉じ込めたから。そっと、閉じ込めたから。
暖かい唇が、僕の冷たい唇を。暖かい指先が、僕の冷たい指先を。暖かいこころが、僕の冷たい心を。
―――全部、全部、溶かしてくれたから。

指先で、唇で、僕を暖めてくれる。

愛している…とどちらからともなく口にして、そしてまた微笑みあう。
―――ただそれだけの事が。
ただそれだけの事が何よりも大切な、瞬間。
硝子の時間軸に閉じ込めておきたい大切な時間。
このままで、そっと。そっとふたりだけで、閉じ込めて護りたい、もの。
護りたい、もの。護りたい、ひと。護りたい、時。
こうしてふたりで積み重ねていく小さな時間と、小さな優しさが。
その全部が何よりもかけがえの無いもの。
降り積もる小さなかけらをこの手で掬って、そして抱きしめる。

『気持ちが重なったね』

何時も重なっていたい。貴方のこころと同じになりたい。同じ鼓動を刻んでいたい。
ささやかな僕だけの小さな願い。貴方に届くと…いいな……。
僕を見つめて優しく微笑う瞳と、曇りひとつ無い綺麗な眼差しと、その全部が。全部が、大事。
貴方が、大切。何よりも、誰よりも。
…たいせつなひと、だから……

『こころも、身体も、重なろう』

そう言って抱きしめてくれる腕と。髪を撫でてくれる指先が。最高の幸せだから。
僕にとっての、僕だけの。
他に、何も。何もいらないから。

そっと僕は目を閉じて貴方の身体の重みを感じた。その心地よさはきっと。
きっとこの先どんなものに触れても得られないものだと思った。


幸せがずっと、自分の手の届く場所にありますようにと。それだけを。
僕はそれだけを、願った。


End

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