明日、また逢える。
――じゃあ、また明日……
貴方の言葉に僕は頷く。
また、逢えるから。
また明日、貴方に逢えるから。
「如月さん、じゃあ今日はこれで」
貴方の綺麗な瞳を見つめながら、僕は言った。そんな僕に貴方はそっと微笑って。
「うん、また明日」
さよならする前に、ひとつ。ひとつキスをくれて。
その感触が消えないまま、貴方はそっと手を振って、僕に背中を向けた。
「―――また、明日」
その背中にそっと呟いて、聴こえないように呟いて、僕は。僕はその背中を見つめていた。
貴方が消えて見えなくなるまで、ずっと。
さよならという言葉は、何時も痛みだけが伴うから。
苦しさだけが、伴うから。だから、嫌いだった。
さよならと言う言葉は永遠の別れ。もう二度と戻ってはこない。
永遠のさよならの、言葉だから。
でも貴方との約束は…貴方の口から零れる『さよなら』は、また逢えると信じられるから。
何時も独りでした。ずっと独りでした。
孤独だけが僕を埋めて。孤独だけが、僕を。
ずっとそれだけが僕の廻りにあったものだから。
でも貴方がいるから。貴方と、出逢ったから。
孤独以上の愛情を。こころに溢れるほどの想いを。
貴方は僕に、与えてくれた。孤独すらも打ち消すほどの。
それすらも全て消し去ってくれるほどの、愛情。
それを貴方は、僕だけに、与えてくれたから。
『―――紅葉、君は独りじゃない』
その綺麗な手が、そっと。そっと僕の頬を包み込んで。
『独りじゃないよ、僕がいるから』
暖かくて優しい手が、僕を包み込んで。そして。
『僕が君と、ともにいるから』
そして微笑う貴方が。そんな貴方が何よりも好き。
ずっと膝を抱えていた。ずっと俯いていた。
光を望んでも、ぬくもりを望んでも、それは。
それは決して僕には与えられないものだから。
だからこうして膝を抱えて、必死になって。
必死になって下を向いて、全てから遮断していた。
――――初めから何も望まなければ、傷つくことも、怯えることも何もないのだから。
でもそんな風に想いながらも、そんな風に考えながらも僕は。
僕はやっぱり何処かで諦めきれなくて。心の何処かで諦められなくて。
どんなに絶望の中にいても。どんなに全てを遮断しても。
こころの隙間から零れ落ちるものが、小さな破片が。そっと落ちてゆくものが。
求めていた、光を。求めていた、ぬくもりを。
暖かく優しく、そして。そしてひたすらに僕に。
僕に差し出される手を、求めていた。
弱さを隠したかったけれど。認めたくなかったけれど。
自分の本当の姿を、ただ怯えて怖がっているだけの自分を。
そんな弱く脆い自分を必死で否定しながら、それでも。
それでも何処かで願っていた。何処かで、思っていた。
――――こんな僕に気が、ついてと。
貴方だけが僕に気が付いてくれました。
貴方だけが僕の心の声を聴いてくれました。
聴かないで欲しくて、聴いて欲しかった声を。
一番手に入れるのが怖くて、一番欲しかったものを。
貴方だけが僕に、与えてくれたから。
他の誰でもない、貴方だけが僕に与えてくれたから。
さよならと言う言葉に痛みを伴わなくなったのは、貴方がいてくれるから。
『紅葉、約束しよう』
指を絡め、そして。そしてただひとつ。
『僕と君の間にさよならはないと』
ただひとつの、約束。
『…ずっと君のそばに僕がいるから……』
初めて本当に微笑えたのは、貴方がいたから。
初めて本当にこころから微笑えたのは、貴方がいるから。
貴方がいるから、僕は。僕は優しさを、暖かさを知ることが出来たから。
貴方がくれた優しさを、今なら誰かに与えられる。
貴方がくれた暖かさを、今なら誰かに伝えられる。
ありがとう、如月さん。貴方がいてくれるから、僕は初めて『ひと』になれたんです。
見えなくなった後姿を、思いながら。
思いながら僕はひとつ微笑んで。そして。
そしてこころの中で、呟きました。
……明日また、逢えますね…と………
End