キス。

そっと唇に触れたら。君は、微かに震えた。
その震える瞼に口付けて。腕の中に閉じ込めたら。
…君は…子供みたいな、瞳をした……

どれだけ『愛している』と言えば、君に伝わるのか?

名前を呼ばれるだけで、胸が苦しくなった。見つめられるだけで、泣きたくなった。
こんな気持ち今まで知らなかったから。こんな想い今まで出逢った事なかったから。
…だから……どうしていいのか、分からなくて………

これが『愛している』と言う事なのですか?

驚愕に見開いた瞳が、自分を見つめてきた。それに構わずに如月はもう一度、壬生に口付けた。
柔らかく、そっと。触れるだけの優しい、キス。
「…如月、さん?……」
唇を離すと戸惑ったように自分を見つめる。だから如月は、微笑ってみた。とても綺麗な笑顔で。
「どうして…こんな事……」
微かに壬生の目尻が赤くなっているのを、如月は決して見逃さなかった。そんな壬生の身体をそっと抱きしめて。
「君にキス、したかったから」
柔らかい壬生の髪に口付けながら、如月はそう言った。その瞬間壬生の身体がぴくりと震えたが構わず如月は、髪に何度も口付けた。その震えを閉じ込めようとするかのように…。
「…貴方も…僕の‘身体’目当てなんですか?」
こくりと小さく息を飲んだ壬生から零れた言葉は、酷く自虐的な言葉だった。そしてその言葉は如月が薄々感じてた疑問に、明確な答えを与えるものだった。
「…そうだね、身体も欲しいけど…もっと欲しいものがある……」
でも今は、その事を問い詰める事は如月には出来なかった。今それを言えば、彼はきっともっと傷つくから。それだけは、したくない。
「…君の、こころが欲しい……」
あの男が彼をどういう風に扱っているのか、薄々感じていた。暗殺者として壬生を育てながら、身体で彼を繋いでいる男。その鎖を断ち切りたいと、それだけを考えていた。ずっと、考えていた。どうしたら彼を自由にしてやれるか。
『暗殺者』の鎖を引き千切って普通の人間としての生活を与えてやりたいと。そしてそう思った自分の本当の気持ちが、どういうものか。
…どうしてそう思ったのか、気が付いてしまったから。
「僕のこころ、ですか?」
顔を上げて自分を見つめ返したその瞳の、淋しさに。その涙を流さないで泣いている瞳に。堪らずに、再び口付けた。
「君が好き、なんだ。どうしようもないほど…僕は…君が……」
「…僕が、好き?……」
聞き取れない程の小さな声で、壬生は如月に言った。けれども決して如月はそれを聞き逃さない。彼の声だけは、絶対に。
「君が好きだ。だから僕は君に触れたいし、君にキスしたい。君が好きだから…君を抱きたい……」
思いの丈を込めて、力強く抱きしめた。身体が震える事すら許さない程強く。この気持ちを、伝えたくて。この想いを、伝えたくて。
「……僕が…好き、なの?……」
「好きだよ、多分初めて逢った時から」
「…本当に?……」
「伊達や酔狂で男に告白なんてしないよ、僕は」
どう伝えたら信じてもらえるか?どう伝えたら分かってもらえるか?こんなにも君を愛しているのに…言葉にするとどうして、こんなにも軽いものになってしまう?
「…僕が暗殺者でなくても?…必要として…くれますか?……」
「紅葉?」
「…僕の…身体以外も…好き、ですか?……」
その呟いた言葉の全てが、哀しくて。それ以上の言葉を塞ぐ為に、再び口付けた。

…傍にいたいと、それだけを思った。
この人の傍に、いたい。傍にいて、見ていたい。
その優しい笑顔を。綺麗な瞳を。
ずっと見ていたいと、思った。
貴方が嬉しいと思った時、隣で一緒に笑いたいと思った。
貴方が哀しいと感じた時、哀しみを分け合いたいと思った。
こんな自分じゃあ何の役にも立てない事は分かっているけど。それでも。
それでも傍にいたいと、そう思った。
貴方が迷惑に思わないのなら。貴方が許してくれるのなら。
隣に置いてほしいと、そう思った。

この瞬間が夢ではなければと。それだけを祈っていた。

「…きさらぎ…さ…ん……」
全ての息が奪われてしまうほど激しく口付けられて、壬生は軽い目眩を憶えた。このまま意識が無くなってこの腕の中に崩れ落ちるなら、それもいいかもしれない…。
「そんな瞳で見つめられると、押さえが効かなくなるよ…紅葉……」
耳元で囁かれ、身体の芯が疼いた。このままどうなっても構わないと、今この瞬間に思った。このままどうなっても…。
「…貴方の好きにしても…いいです……」
どんな理由であってもこのひとに必要とされた事が嬉しい。自分を好きだと言ってくれた事が、嬉しい。
…自分の身体だけじゃなく、自分を暗殺者としてでなく、必要と言ってくれた事が……
「駄目だ、まだ僕は君を抱けない。君をあの男から奪うまでは」
「…如月…さん?……」
思いがけない如月の言葉に、壬生は信じられないように彼を見つめる。そんな風に思われているなんて…考えもしなかった、から……。
「奪って君を自由にしたら…そうしたらもう一度、僕の気持ちを聞いてほしい」
泣きたく、なった。本当に許されるのなら声を上げて泣きたいと。みっともなくてもいいから。このひとの前では全てをさらけ出してもいいと。このひとの前でだけは、そうしても……。
「…何も無い僕にでも‘好き’って言ってくれますか?……」
「何も無いなんて事はないよ。だって君はここにいる。僕の腕の中に」
柔らかく微笑う、瞳。綺麗な瞳。その瞳に映し出されているのが自分だと言う事が。自分だけを映してくれると言う事が。何よりも、嬉しい。
「君自身が僕は欲しいんだ。だから君だけで、いい。他には何もいらない」
「…如月さん……」
「好きだよ、紅葉」
「…もっと…言って…ください…」
「君が、好きだよ」
「…もっと……」
「愛しているよ、紅葉」
降り注ぐ優しい言葉の雨に。今までの全てのしがらみや心の傷が、全て流された気がした。

…このひとに全てを奪われたいと、そう思った。

「拳武館への裏切りは『死』ですよ。それでも貴方は…」
「覚悟は出来ているよ。君を手に入れる為なら僕は何でもするよ」
「…何でも?……」
「でも命だけは、あげられないな」
「…如月さん?……」
「だって、そうだろう?」

「…死んでしまったら…君を抱きしめられない……」

生まれて初めて、死ぬのが恐いと思った。
今まで何度も死と向かい合わせに生きてきたけど。
恐いと思った事は一度もなかった。
死ぬのも全然恐いと思わなかった。でも。でも、今。
死にたくないと、こころが叫んでいる。
このひとと生きたいと。このひとと生きていたいと。
生まれたての赤ん坊が産声を上げた瞬間のように。
僕は今確かに『生きたい』と、そう思った。

これが『愛している』と言う事なのですか?

僕の言葉に、君は微笑った。それは笑っているようにも、泣いているようにも見えた。
だから、僕は。
そんな君の笑顔が見たいから、つまらないジョークを言って。
君の身体をそっと、抱き寄せた。

どれだけ『愛している』と言えば、君に伝わるのか?

「愛してるよ、紅葉」

どれだけ言えば…僕の気持ちまで、言葉は届くのだろうか?……


End

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