……繋いだ指先を、離さないで。
何も、何も、欲しくないから。
優しい過去も、綺麗な未来も。
なにひとつ、欲しいものはなかった。
貴方とこうして、指を絡めていられるのなら。
静かな、海で。きらきらと太陽の光を反射する海で。
ふたりで手を繋いで。繋いで、海に還る。
何処にもいけないと分かったから。何処にも帰れないと分かったから。
だからふたりで海に、還った。貴方の海に。貴方の水の中に。
…貴方の中へと、還った………
好きだった。ずっと好きだった。
貴方の綺麗な指先も、貴方の長い睫毛も。貴方の優しい声も。
全部全部大好きだった。
大好きだから。だから穢したくなかった。
僕の血塗られた手で、僕の壊れた運命で。貴方を穢したくはなかった。
貴方の優しい過去と、綺麗な未来に『僕』と言う存在は必要ないから。
貴方にとって『僕』は何一つプラスにはならないから。だから。
だから…貴方の傍にはいられないと思った。
愛していた。ずっと愛していた。
君の壊れ掛けの瞳も、泣き顔で微笑う笑顔も。躊躇いながら僕を呼ぶ声も。
全部全部愛していた。
愛しているから。だから壊したくなかった。
僕のこの腕で、僕のこの想いで。君を護りたかった。
君の哀しい過去と、血塗られた未来に『僕』は決別をさせたかった。
君にとって『僕』が必要とされる存在になりたかった。だから。
だから…君の傍にいたいと思った。
『…僕で…いいんですか?…』
泣き顔で微笑う。泣かない瞳で、泣けない瞳で。君は微笑むから。
だから僕は抱きしめた。抱きしめてそして、口付ける。
君のその瞳を閉じ込める為に。
『…君以外、いらない……』
真っ直ぐに僕を見つめて。そして柔らかく微笑う貴方に。そんな貴方の笑顔に、僕は。
僕はどうしようもない程にこの人が好きだと自覚した。
どうしようもない程に、貴方が好きだと。
何処にも、もう戻れない。
運命の螺旋階段を昇り続けても。その紅の糸を辿っても。
辿り着く場所がひとつしかないのならば。
それ以外の場所に辿り着けないのなら。僕らは。
僕らは『そこ』へ行こう。
この海に帰ろう。この空に帰ろう。
身体という抜け殻を置いて。そして心だけになって。
こころだけになって、ふたりで溶け合おう。
…そして、永遠に……
指先だけは、離さないで。
そこから広がる温もりが。温もりがふたりの全てだから。
永遠という言葉を、僕らは信じていなかった。
未来なんてものを、過去なんてものを、信じてはいなかった。
でも、ふたりが出会って。そして愛して。愛し合って、そして。
それは確かに過去と未来と言う一本の線で繋がっている。
そして。そしてふたりは『永遠』になる。
綺麗な、海。太陽の粒子がきらきらと輝く海。
これが全ての終わりで、そして全ての始まりだから。
…愛して、いるよ……
End