―――誰よりも、優しいひと、でした。
例えば、こんな小さな胸の痛みでも。
貴方は決して、見逃しはしない。
例えば、こんな小さな命でも。
貴方は決して、見捨てはしない。
何時でもその広い腕と、優しい手で、全てを包み込んでくれました。
太陽の光を全て吸収したような、真っ直ぐな瞳と。
世界中のどんなものよりも、強い意思を持った視線と。
そして、何よりも綺麗なその、笑顔を。
―――何時しか独りいじめしたいと、思っていた。
―――だから、夢だと思っていた。
その瞳が、僕に向けられた時。
その腕が、僕に差し延べられた時。
これは、ひどく幸福な夢だと。
――――誰よりも、強いひと、でした。
逸らされる事の無い、真っ直ぐな視線で。
真実だけを見透かしてしまう、その瞳で。
何時も、僕を見つめてくれた。
不安すら、感じる暇が無い程、ずっと。
何時でもその広い背中と、優しい瞳で、全てを護ってくれた。
自分の名前を呼ぶ時の、低くて少し掠れた声と。
髪をそっと撫でてくれる時の、大きな手と。
そして自分だけに向けてくれる、その柔らかい笑顔が。
―――何よりも、大好き、だった。
―――だから、何時も思っている。
僕を見つめてくれる、その瞳を。
僕を抱きしめてくれる、その腕を。
何時も貴方を傍に、感じている。
僕は何も、持ってはいなかったけれども。
何一つ手に入れる事は、出来なかったけれども。
―――でも、貴方に出逢えたから。
今まで自分が生きてきた時間と。生まれてきた意味を。
全てを肯定する事が、出来たから。
―――生まれてきて良かったと、思えるから。
例え今もしも、全てを失ったとしても。
出逢えた瞬間も。共有してきた時間も。その全てが。
この胸に刻まれて、永遠に消える事が無いから。だから。
何時も、思っている。貴方に出逢えて、よかったと。
指を、絡めて。
そっと、絡めて。
ただひとつだけ。
ただひとつだけ、僕らは約束をした。
『一緒に、生きてゆこう』
絡めた指先が解けたとしても。
胸の降り積もったこの言葉は。
結ばれた紅い糸は、決して。
決して、消える事はないのだから。
だから僕は、信じられる。
僕は、信じる事が出来る。
他の誰に何を言われようとも、僕は。
僕は、言葉にする事が出来る。
―――貴方に逢う為だけに、生まれてきた、と。
End