愛する人への詩


――――小指と小指でした、約束。

指を絡めてした、たったひとつの約束。
『一緒に生きていこう』
僕らが交わした約束は、ただそれだけだった。


「ずっとなんて…言いません…でも一緒にいてください……」


君のただひとつの願い。君のただひとつの望み。
それは一緒に生きる事。ただ、それだけだった。

他にいっぱい約束すればよかったかもしれない。
いっぱいいっぱい、約束すればよかったかもしれない。
そうしたら約束を果たすまで、一緒に。
一緒にいれたかもしれないね。


指を絡めて、もっと。
もっと約束をすればよかった。
本当は君も僕も、もっと。
もっとたくさんの願いがあったはずなのに。
もっとたくさんの望みがあったはずなのに。
それなのに僕らは。
僕らはそれ以外の事を口にしなかった。


君は妙に律儀な所があるから。
僕とした約束は絶対に護ろうと懸命になって。
一生懸命になっていた。

そんな君が、大好きだった。ううん、大好きだよ。


護ろうと必死になって。
必死になって君は生きようとした。
君は生きていた。
ただひとつの命を一生懸命に。
一生懸命に生きていたんだ。

別に特別なものを望んだ訳ではない。
別に綺麗なものを望んだ訳ではない。

指を絡めて。
暖かい指を絡めて。
そして。
そして願ったのは。

―――ただひとつの祈り……


ただ、僕らは。僕らは、ふたりで。
ふたりで生きて、いたかったんだ。


笑って、泣いて。怒って、ふざけあって。
それはごく普通の当たり前の事。当たり前の日々。
ただそれを僕らは望んだだけだった。

ごく平凡な、ふとした瞬間に思い出して。
思い出して、微笑える日々を。


愛する人へ。
僕のただ独り愛する人へ。
僕と君といた時間は瞬きするほどの時間でしかなかったかもしれない。
けれども決して僕は忘れたりしない。
想い出になろうとも。永遠にはならなくても。
それでも僕は決して忘れたりはしない。

―――君と過ごした、この日々を……


しあわせだったよ。しあわせだよ。
君に逢えて、本当に。
本当に僕は、しあわせだと言えるから。
過去じゃない、未来じゃない。
夢じゃない、幻でもない。
本当に純粋に、今を。今この瞬間をしあわせだと思えるのは。
思えるのは君がいたからだよ。
君という命がそばにあったからだよ。

だって君はここにいる。
だって君はここにある。


僕の心の中に君はいて、そして在るんだ。
誰にも分からなくてもいい。誰にも理解されなくてもいい。
僕だけが分かって、僕だけが知っていればいいことなのだから。


…だから、紅葉…ぼくはしあわせだよ……


End

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