…その瞳が、僕を見つけてくれたから。
言葉にしなくても伝わるという事を、初めて知ったから。
声にしなくても。音にしなくても。
こうして見つめるだけで、伝わるという事が分かったから。
手を伸ばして、みる。
貴方の髪に触れたくて。触れたくて手を、伸ばしてみた。
その柔らかさに、その極上の感触を指に刻みたくて。だから。
だから手を、伸ばしてみた。
伸ばされた手にそっと、口付けた。
一瞬だけ震えた君の身体をそっと抱き寄せて、そして。
そしてその髪に触れた。
その髪から香る微かな甘い香りに、ひどく幸福を感じながら。
そんな些細な事ですら、幸せを感じながら…。
胸に耳を傾ける。
そこから聴こえる命の音。優しい鼓動。
この音がこの人を動かしている。
全てを包み込んでくれる優しい腕も。
自分を見つめ返してくれる柔らかい瞳も。
このたったひとつの音が、それを。
それを僕に与えてくれた。
腕の中にあるこの細い身体。
強く抱きしめたら壊れてしまいそうで。
でも強く抱きしめたくて。
抱きしめて、きつく。その身体の感触を全身で感じたくて。
でもそれ以上に、君に優しさを与えたかったから。
だからそっと、抱きしめる。
君が壊れてしまわないように。
君が崩れてしまわないように。
そっと、この腕に包み込む。
…愛していると、思った……。
その広い背中の感触を感じたくて、背中に手を廻した。
自分が最も安心出来る場所。
自分が最も安らぐ場所。
そして自分が最も…好きな場所…。
このひとの腕の中。このひとの優しさの中。
ここにいられればそれだけで。
それだけで、幸せ。
後はなにも、いらない。
『愛してるよ』
言葉はこの想いの半分も伝えないだろう。
けれども口にする。
言葉で伝わらなくても。君には僕の心の全てが伝わると。
感じてくれると、信じているから。
だから声にして、伝える。
繰り返し、繰り返し。
ただ君のためだけに。
『…僕も…です……』
それ以上何も言わなくても。貴方なら分かってくれるから。
膝を抱えて独りでいた僕を見つけてくれた貴方だから。
貴方だけが、僕を。
僕を光のある場所へ連れてってくれたから。
だから、もう何も言わない。
…こうして抱き合っているだけで全てが伝わるから……。
君がいて、僕がいる。
僕の腕の中に、君がいる。
貴方がいて、僕が生きる。
貴方の腕の中で、僕は生きる。
幸せだと、思った。
End