たくさんの、キス。
数え切れなくなる程の、キス。
いっぱい、いっぱい。
目を閉じて。
瞼が震えるくらいに。唇が震えるくらいに。
いっぱい、いっぱい、キスをして。
どうしてこんなにも我が侭になってしまったのか?
「如月さん」
瞼を開いて、貴方の名前を呼んだ。優しい眼差し。暖かい瞳。その全てに包まれている事が、幸せ。その優しい腕に、その優しい視線に。貴方に、包まれている事が。
「どうした?紅葉」
「…何でもないんです。ただ貴方の名前を呼びたかっただけ…」
そう言ったら貴方はひどく優しく微笑んだ。その笑顔は僕の心の中に暖かい陽だまりを作る。そこから広がる柔らかい光。暖かい、こころ。
「そんなら幾らでも呼んでくれ、紅葉。僕も君の声をずっと聴いていたい」
「同じです」
「ん?」
「僕も、同じ」
貴方の背中に廻した手にちょっとだけ力を込めてみた。そしてそっと胸に凭れ掛かる。そこから聴こえる心臓の音に、心地よい安らぎを覚えながら。
…とくん、とくん…と聴こえる命の音に。
「…ずっと貴方の声を…聴いていたい……」
少しだけ躊躇いながら、貴方に伝えたら。貴方は答える変わりに、優しいキスをくれた。
唇が触れ合うだけで。
それだけで伝わるものがあるならば。
それだけで通じるものがあるならば。
言葉にしなくても。言葉にならなくても。
こうやって。
こうやって触れ合うだけで。
こころが結びつくのならば。
「…如月…さん…」
キスの合間に。離れた瞬間に、名前を呼ぶ。
「…愛しているよ…紅葉…」
そしてまた口付ける。そしてまた触れ合う。何度も何度も。
飽きる事なく、何度も口付けを交わす。
「…僕も…如月…さん……」
息が途切れ途切れになっても。言葉を上手く紡げなくても。
それでも、声にして。声にして。
「…貴方だけを……」
貴方の名前を、呼んだ。だって、僕は。
僕は貴方を、愛しているから。
もっと、もっとと。
何時も心の中で思っている。
どうして、こんなにキスしても。
どうして、こんなに触れ合っても。
…キリがないの?
キスするたびに触れ合う度に、どんどん。
どんどん欲張りになって、そして。
そしてもっと。もっと、欲しくなってしまう。
貴方を望んで、しまう。
「紅葉」
名前を呼ばれるだけで、瞼が震える関係。
「…如月さん……」
名前を呼ぶだけで、唇が震える関係。
『愛している』
同時に声が重なって。重なった、から。
それが可笑しくてふたりで微笑った。
視線が絡みあいながら。見つめあいながら。
ふたりで声にして、笑った。
そしてまた口付けを交わす。
足りないから、全然足りないから。
いっぱい、いっぱい。
貴方はキスをくれた。僕の唇に僕の睫毛に。
そして僕の、全身に。
キスのシャワーを降らせてくれた。
「また不健康な一日を過ごしてしまったね」
くすくすと微笑いながら、耳元で貴方は囁く。その言葉が恥かしくて僕はシーツを口元まで被ってしまった。
「…如月…さん……その…」
「今更照れる関係でもないだろう?」
「でも…その…恥かしいです」
「さっきまでもっと恥かしいコトをしていたのに?」
「……如月さんの…バカ……」
本当に恥かしくなって頭からすっぽりとシーツを被った僕に。そんな僕にそっと優しい腕が包みこんで。そして。
「僕は君にバカみたいに恋をしているからね」
と、そっとシーツ越しにキスをくれた。
優しいキスを。優し過ぎる、キスを。
やっぱり足りないと思ったから。足りないって思ったから。
僕はおずおずとシーツから顔を出して、そして。
貴方のキスを、ねだった。子供みたいに、欲しがった。
「可愛いよ、紅葉」
真っ赤になりながらもキスをねだる僕に、貴方はその望みを叶えてくれた。
唇に降りて来る優しいキスの雨。優し過ぎる、口付け。
僕は瞼を震わせながら、その幸せに酔いしれた。
キスをしよう。
いっぱい、いっぱいキスをしよう。
好きだから。大好きだから。
ふたりでいっぱい。
いっぱい、キスしよう。
End