For You
君にも同じ孤独をあげたい
「僕が独りでいる時、孤独を感じた事はないよ」
っ直ぐな瞳で、あのひとは言った。何時でもどんな時でも前だけを見ているあのひとは。
きっと。きっと僕のように孤独を感じる事なんてないんだろう。
ひとりぼっちで生きてゆく、淋しさを。暗い部屋で無償に独りだと感じる瞬間を。
「如月らしいなー。そんな感じするよ、お前って何時も前向きだもんな
龍麻の言葉に僕は心の中で小さく頷いた。前だけを見つめている貴方に、淋しさも孤独も必要なんてないんだろうから。
「違うよ、龍麻」
「如月?」
「―――何時も僕は……」
不意に貴方の瞳が和らいだ。その切ないくらい優しい瞳に、ひどく心が奪われる。僕は言葉を忘れてその瞳を見つめてしまった…その瞬間。
―――その瞬間、貴方の瞳と僕の瞳がかち合う。
そして。そして貴方はそっと、微笑った。ひどく優しい顔で。優し過ぎる顔で。
「僕は……の事を考えているからね……」
風にさらわれて、肝心の言葉は僕の耳には届かなかった。けれども。けれども唇が、瞳が伝えていた。
――――君のことを、考えているからね
君の存在で 自分の孤独確認する
「ふたりでいる時の方が孤独だと、思っている」
貴方は、微笑う。とても綺麗な顔で。貴方は僕が触れるのを躊躇わずにいられない程に綺麗だから。血塗られた僕の手では、触れるのが許されないほどに。
「僕だけが君を想っているからね」
僕から触れられないから、貴方から触れてくれた。光ある場所へ行けない僕に、貴方は自ら闇に辿りついてくれた。――――僕の、闇に………
「…そんな事……」
ないです、と声にしようとしてその言葉は貴方の唇で閉じ込められた。その先の言葉は貴方だけが知っている。
「紅葉」
「…はい……」
「どうしたら君に届くのかな?」
広い腕が伸びてきてそっと。そっと僕の身体を包み込んだ。その優しさに、ひどく切なくなる。このひとはずっと。ずっと僕に優しい。初めて逢った日から、ずっと。
「僕の想いは君に届くのかな?」
届いています。貴方の優しさが。貴方の暖かさが。貴方の全てが僕に届いています。届いて、います。
「どうしたら君の瞳から不安を消せるのだろう」
「…如月さん?……」
「どうしたら君の淋しさを僕は消す事が出来る?」
「…僕は…如月さん……」
「どうしたら…」
「君の孤独を消すことが出来る?」
君が、好きなんだよ。君が、大事なんだよ。だから、紅葉。
どうしたら君の孤独を消せるかそんな事ばかりを考えている。
だって君は幾ら僕が愛していると言っても。それでも不安がるから。
何時も君だけを見つめているのに。君は淋しがるから。
僕は何時も君のことだけを考えているのに。それなのに、届かない。
こんなにこんなに君の事だけを愛しているのに。
――――紅葉、君の瞳を微笑わせたいんだ。
「君が思っているより僕は孤独だよ」
「…如月さん?……」
「君とこんなに近くにいるのに、こんなに君の傍にいるのに」
「………」
「君は僕の想いを信じてはくれない」
「…そ、そんな事は……」
「ならどうしてそんなにも君は孤独なの?こうしてふたりでいても、孤独なの?」
「…それは…如月さん…僕は…」
「…僕は…貴方が誰よりも好きだから……」
だから不安なの。だから怯えるの。
麗な貴方。誰よりも綺麗な貴方。
僕には眩しくて。眩し過ぎて。
僕が触れることすら許されないような。
僕が手にしてはいけないような。
そんな、不安。
好きだから、貴方だけが好きだから。
何時しか貴方が僕から離れていったらと。
そんな不安ばかりが先走って。
どうしても、どうしても、怯えてしまうの。
「一生君だけを愛しているなんて、そんな言葉は言わないよ。だけどね」
真っ直ぐに僕を見つめる瞳。揺るぎ無い強さの瞳。その強さを僕も持てたならば。貴方のように強い人間になれたならば、そうしたら。
「これだけは、言えるよ…紅葉…」
「…君のいない世界に僕は存在しない……」
―――そうしたら、淋しくなくなるのかな?
「一生なんて僕にはないよ。だって君がいなくなった時点で、僕の全ては終わるんだから。
先なんてないんだよ。未来も無いんだよ。君がいる世界だけが僕の存在する意味なんだから」
…僕もです…如月さん…貴方がいなくなったら…生きる理由なんて何も無いんです……
「永遠もないよ。君がいなくなればそれで終わりだ」
終わり、そうですね。永遠も未来も何も必要ないですね。何も、いらないですね。ふたりでいられればそれで。それだけで。
「だから君が孤独になる理由は何も無いんだ」
…そうですね…如月さん…何を僕は怯えていたのか?貴方がいなくなった時点で僕は終わるのに。そこで全てが終わるのに。何を淋しがる理由があるのでしょうか?
「―――そうですね…如月さん……」
何も、何も、怖がる事なんてなかったのに。
「僕の世界は、貴方だけのものなんだから……」
End