Femme Fatal<番外編>


君といた、時間。
それは本当に瞬きをする程の時間。
一瞬の、触れ合った時間。
それでも。それでも。

それはどんな時よりも僕にとっては、永遠だった。


「最期に死ねるんです。本当の愛を見つけて」
君がそう言って僕に差し出した絵本を、僕は言葉に表せない思いで見つめ返した。
―――百万回生きた猫
百万回生きて、そして百万回死んだ猫。最期に真実の愛を手に入れて、死んだ猫。
「君はこの猫が、羨ましいのかい?」
真実の愛を見つけて死ぬ。それはなんて甘美な誘惑だろう。だけど。だけど、死んでしまったらそれで。それで終わりだから。
「…いいえ…僕は…」
終わりは、僕はもう欲しくはない。
「僕は貴方と、生きたいから」
その言葉に僕は、微笑う。うん、そうだ。そうだね、紅葉。死ぬことは簡単だ。生きる事の方が難しいんだから。生きる事の、方が。


『…一緒に、生きてゆこう……』


指を絡めて、そして。
そして貴方とした約束。
それだけを頼りに僕は生きてゆく。
それだけを、頼りに。

―――また貴方に逢えると、そう信じて……

貴方の事を考えている間は、淋しくない。
独りでいても、淋しくない。
貴方の事だけを、考えている時は。


貴方の傷に、口付けた。
「…この傷僕が…付けたんです……」
何も覚えていない貴方に、それでも僕は告げる。
「ごめんなさい、如月さん」
何度もその傷に唇を重ねながら、僕はただ詫びた。それしか。
それしか、出来ないから。
「泣かないでくれ」
「…如月…さん……」
そんな僕の頬を貴方の手がそっと。そっと包み込む。暖かい、手。優しい、手。
―――貴方の、手。
「君の涙を見ていると、僕はひどく苦しくなる。だから」
僕を包み込んでくれる、僕を癒してくれるその手。
「だから泣かないでくれ、紅葉」


唇から自然と零れるその名前に。
僕は、僕はごく自然に気が付いた。
僕にとって君がどんな存在で、そして。
君が僕にとってどれだけ大切なものなのかを。

―――その涙で、気がついた。


「ごめんね、紅葉。僕は君を思い出せない」
「…いいんです、如月さん…いいんです……」
「でもこれだけは言える。僕は」

「ぼくは君を、愛している」

記憶がなくなっても。
何もかもを忘れても。
それでも。
それでも胸に広がる君への想いは。
この愛だけは、消せはしなかった。

―――君への、愛だけは……


手を取って。
そして逃げる。
夜の闇に、逃げる。

もうどこにも戻れなくてもいい。貴方が傍にいてくれるなら。


「これで君と、同じだ」
血塗られた手。貴方の綺麗な手に紅い色。
「―――如月、さん……」
綺麗な、貴方の手に。
「これで、同じだよ」
指を、絡めあった。貴方の血が僕の指先に染み渡る。これで。これで同じですね。
同じに、なった。
「僕も人殺しだ、紅葉」
「……」
「これで僕は君と同じ場所に行ける」
「…いいんですか?本当に…いいのですか?……」
「いいんだ、これで」

「君とともに、いられるのならば」


降りかかる運命から逃げないように。
その手を離さないで。
独りでは越えられないものでも。
ふたりでなら。ふたりでなら越えてゆけるから。

―――貴方とともに、越えてゆけるから。


そして。
そして、さよなら。
さよなら。また。
また巡り逢う為に。
もう一度、出逢う為に。

さようなら。


End

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