ACT/33
夢を、見た。
一面の花が咲き続けるその場所で。
貴方が微笑っている。
優しく、優しく、微笑っている。
でも分かった。分かった、これが夢だとすぐに。
分かったけれども、それでも僕は。
僕は伸ばされた腕に素直に指を絡めた。
夢ならば、夢でいい。
これが夢ならばそれで構わない。
もう、どれが現実でどれが夢なのか。
僕にはもうそんな事はどうでもよかった。
ただ貴方と一緒にいたかった。
ただふたりでいたかった。
それ以外もう何も。
何も、考えられなかったから。
だから僕は貴方のそばにいる。
貴方の手に指を絡めて。
これが世界の全てだと甘い幻想を抱いて。
…もう夢から、醒めたくない…貴方がいないのならば……
僕の前に少女が立っている。
金色の髪、硝子玉の瞳。
まるで人形のような小さな少女。
無表情で僕の前に立つ。
―――まるで僕、みたいだ。
貴方に出逢う前の。
貴方を知らなかった、僕みたいだ。
ただ人形のように。ただ命じられるままに。
そこに存在するだけのただの人形。
幼い頃の、僕みたいだ。
それとも僕なのかな?この少女は僕、なのかな?
「…名前…教エテ…」
初めて少女の声を聴いた。機械のような声。たどたどしい日本語。
「…私ハ…マリィ……」
マリィは小さな手を僕に差し出した。僕はその手を握り返す。ひんやりとした冷たい手。そんな所まで僕に似ている。貴方が暖めてくれなければ僕の手も、永遠に冷たいままだった。
「…紅葉…壬生紅葉…」
そっと手を包み込んでみた。貴方がそうしてくれたように、この幼い少女の手を。
「…クレハ…イイ名前…マリィ好キ…」
「ありがとう」
いい名前と言ってくれたのは貴方とマリィだけだ。ありがとう。あのひとに付けられた名前だけど、それでも僕を示す記号だから。僕の存在を判別する。
「…クレハ…紅葉……」
気に入ったのか僕の名前を何度も口にする。それは決して嫌ではなかった。相変わらずマリィの瞳は硝子玉で、全てをただ映しているだけでも。それでも。
「…紅葉……」
そんな風に呼ばれるのは、僕は嫌じゃなかった……。
―――紅葉……
初めて、名前で呼んでくれたのは貴方。
声に出して僕の名前を呼んでくれたのは。
―――いい名前だね。
初めてそんな風に言われたから。
貴方が好きだと言ってくれたから。
僕はこの名前が好きになった。
この『血』の紅を意味する名前が。
夢を、見る。
君の夢だ。
一面の花の中で君が。
君が膝を抱えて泣いている。
だから僕は。
僕はそんな君にそっと。
―――そっと手を差し出した。
君に笑って欲しかったから。
君の涙を見たくはなかったから。
だから、僕は。
僕は君のそばに。君だけの、そばに。
「…玄武…見ツケタ……」
目の前に立つ人形のような少女は僕にそう言った。
―――玄武…ああ、この飛水流の血の事か……
「…玄武…何故…黄龍ノ器ヨリモ…護ルモノガアルノ?…」
近い。君と僕がこんなにも近いと感じたのは、この血のなせる技なのか?逃れられないこの飛水流の四神の血。
「―――君は朱雀…か?……」
零れ落ちる質問に少女はこくりと頷いた。その小さな身体に、燃えるような赤い羽根が見える。火よりも熱い、その羽が。
「私達ハ、黄龍ノ器ヲ護ル為ニ生マレテキタ…違ウノ?」
過去から現在そして未来へと。逃れる事が出来ないこの血の宿命。今まで先祖達がそうして血を引き継いで、東京を黄龍の器を護り続けてきた。この世界の為に。この世界の未来の為に。けれども。けれども、僕は。
「違うよ、朱雀。僕らはしあわせになる為に生まれてきたんだ」
僕は君がいないのならば、未来なんていらない。君の存在しない世界なんて、僕には必要ない。
「…シアワセ?…」
「そうだよ。黄龍の器を護る事は…この土地を護る事は…僕らの生きる場所を護る為だ。僕らがしあわせになる場所を。その為に僕らは黄龍の器を護るんだ」
しあわせ。僕にとってのしあわせは君と生きる日々。それが何よりも僕にとって必要なものだから。
「玄武ノシアワセ…紅葉ヲ護ルコト?…黄龍ノ器ヨリモ?…」
「出逢った事もない人間よりも、愛している人間を護る方が当然じゃないか?例え何百年も前からの血の重みだとしても、僕には関係ない。今目の前にいる大切な存在を護る事が僕には大切なんだよ」
「…愛?…」
「ひとが生きるのはその為だよ。どんな人間もそれがなければ生きてはいけない。分かるかい?愛には色々な形がある。恋愛以外にもたくさんの愛がある。結局ひとはそれを求めて捜して、与えられる事で…そして与える事で生きているんだ」
「…マリィ…ニハ…分カラナイ……」
「君には大切な人がいないのかい?」
「…マリィ…大切ナ人…黄龍ノ器……」
「違うよ、マリィ。違うんだ。誰でもいい、両親でも友達でも誰でもいい。君にとって大切な人はいないのかい?」
「…イナイ…マリィニハ…イナイ…皆マリィヲ…マリィヲ…出来ソコナイダッテ苛メル…誰モマリィヲ…分カッテクレナイ…ジル様モ…何時モマリィブツ……」
硝子玉の瞳から、ぽたりとひとつ涙が零れ落ちる。その瞬間、その瞬間目の前の人形はひとりの小さな女の子になった。小さな、小さな女の子。
「…マリィ…独リ…ボッチ……」
「独りじゃないよ。僕らは同じ四神じゃないか?」
「…デモ…玄武…黄龍ノ器ヨリモ…紅葉ガ…大事……私達ヨリモ…紅葉ガ…大事……」
ぽろぽろと零れ落ちる涙。零れ落ちる、涙。確かに僕は君をただ唯一の存在として愛する事は出来ない。けれども、けれども。
「マリィ、翡翠だよ。玄武じゃない。僕は如月翡翠だ」
「…ヒ…スイ?……」
「そうだよ、翡翠だよ。マリィ」
「…翡翠……」
「確かに僕は何よりも紅葉が大切だ。それは否定しない。けれどもマリィ、こうやって」
僕はそっと小さな身体を抱きしめた。君も同じなのかもしれない。紅葉、君と。君と同じように父親の、母親の愛を知らない子供。
「君の泣き場所を提供出来る事は出来る。そして玄武と朱雀ではない僕とマリィの関係を作る事が出来る」
「…翡翠…暖カイネ……」
「マリィ、愛には色々な形があるんだ。分かるかい?」
「…分カル気ガ…スル……」
「だからマリィもたくさんの愛を、捜せばいい。そうしたら独りぼっちじゃないだろう?」
「…ウン…アリガトウ…翡翠…」
「…アリガトウ……」
―――アリガトウ……
優シイ気持ヲ、アリガトウ。
…アリ…ガト…ウ……
ひとは決して独りでなんて生きてはいけないから。
だから捜し求める。捜し続ける。
差し出してくれる手を。そして差し出すべき手を。
捜し続けて、そして。
そして足りない部分を埋め合って、補い合って。
互いの背中にそれぞれの片翼を見付けて。
―――生きるべき空へと飛び立つ……
「お疲れさま、マリィ…と言っても私の声は聞えないだろうがね」
そう言うと鳴滝はがくりとその場に崩れ落ちた小さな身体を抱き上げる。そしてそのまま近くのベッドの上に寝かせる。
「ジルにしてはわざわざ『出来損ない』をあの男に出したつもりだったんだろうが…計算ミスだったみたいだね。マリィ…君は出来損ないなんかじゃない」
約束通りに自分はこの拳武館の館長の座を奪った。そしてあの男を野に放った。―――如月翡翠に殺される為だけに……。
そしてそんな男が頼ったのは、ジル・ローゼス。表向きローゼンクロイツ学院の学院長。でもその実態は孤児を引き取り人体実験で超能力者を作る、ある意味同族だ。
―――壬生紅葉を自分の玩具にして、支配してきた男と。
「にしてはジルとあいつでは、器が違いすぎるけれどね。まあ私にしたら…同じザコでしかないけれどね」
鳴滝は再びベッドの上のマリィを見つめる。目醒めた時には、この少女はさっきの出来事を覚えてはいないだろう。その特殊能力を使って、如月と壬生の夢の中に入っていった事など。
「でもマリィ、君はあのふたりとどんな会話をしたのかな?」
目覚めた瞬間に、その記憶が消されるマリィに聞いた所で無駄でしかないのだが。それでも不意に聞いてみたいと思ったのは、これから先あの二人に自分が与えようとする運命があまりにも残酷なのかもしれないと思ったかもしれない。
「…それでも君達はそれを受け入れて貰わなければならない…全ては弦麻…君と私の約束の為に……」
今あのふたりは何も知らずに眠っている。眠り続けている。自分達があれだけの状態になって生きているのかすら、きっとあのふたりには分からないだろう。
―――自分達が、助かった事すら……
「それでもきっと君達は互いの存在を夢に見ているのだろうね……」
今は、今だけは何も考えずに眠るといい。眠り続ければいい。どうせ目が醒めたなら待っているのは哀しい運命なのだから。
「けれども…もしかしたら…」
「君達の絆はそれすらも乗り越えてしまうのかもしれないね」
強過ぎる絆は。
時には廻りすらも傷つける。
その強さ故に。
廻りすらも血を流させる程に。
廻りすらも傷つけてもそれでも離れられない絆。
全ての人間を傷つけても。
離れる事が出来ない、存在。
運命よりも強い、愛。
ACT/34
差し出された選択肢はふたつ。
そのどちらを選んでも。
どちらを、選んでも。
―――僕として『ひと』としての未来はない。
それでも僕は。
僕は貴方の傍に、いたかった。
貴方とともに、生きていきたかった。
目覚めた瞬間に、耳に飛び込んできたのは聞き覚えのある機械音だった。電子音。そして。そして、白い部屋。真っ白な部屋。僕は、この白をよく知っている。
子供の頃閉じ込められていた部屋の色。無機質な白い壁。真っ白な『生』のない空間。
それと、同じ色。同じ部屋の色。僕はまたこの空間に閉じ込められたのだろうか?
「―――」
ぼんやりとする思考の中でそれでも、手探りで記憶を辿る。――記憶…記憶……。
「…如月さん……」
叫んだつもりでも声に出たのは呟きほどでしかなかった。貴方の名前を呼ぼうとして、そして零れた声は。
覚えているのは館長の技で貴方の背中から血が吹き出した事。そして。そしてあの場所に貴方が倒れた事。どさりと音がして、貴方がその場に崩れ落ちた事。
そんな貴方に手を伸ばそうとして、けれども動けなかった僕。体が焼けるように熱くて。熱くて、溶けてしまうほどに。
そう思い出したらひどく喉が乾いているのに気付いた。喉が乾く…少なくともそうした本能的なモノを感じると言うことは、僕はまだ生きているんだ。生きて、いる。
――――じゃあ、貴方は?
貴方は無事なの?貴方は何処にいるの?貴方は……。
そう思うといてもたってもいられなくなって、僕はその場を立ち上がる。けれども。けれどもそれは、叶わなかった。
僕の身体に無数に打たれている点滴と、そして包帯。そして。そして……。
「目が、醒めたかい?壬生紅葉くん」
僕の目を見つめながら、柔らかく微笑う笑顔に。その笑顔に僕はひとつの名前を挙げる。
「…な…鳴滝…さん……」
「光栄だね、名前を覚えていてくれたんだ」
「…覚えています…それよりも…」
「それよりも君の王子様の事かい?」
「…如月さんは?…」
「大丈夫、無事だよ」
その言葉に、僕は。僕は不覚にも全身が崩れ落ちるような安心感を覚えた。まるでがくりと全てが落ちてしまうような。そんな、感覚。
「くす、可愛いね。そんなにも心配だったのかい?自分のことよりも」
鳴滝さんの手がそっと、僕の手に掛かる。そこは包帯が何重にも巻かれていたが、何故か体温が伝わったような気がした。
「…如月さん…よかった……」
その時僕は、他の事が何も考えられなかった。目の前に鳴滝さんがいたのに、僕の心は貴方の事でいっぱいになって。いっぱいになって、考えられなかった。ただ貴方の事、だけを。
「なる程ね、飛水流の末裔が…君に溺れるのも分かる気がするよ」
その言葉でやっと僕は我に帰る。そして戸惑いながら、鳴滝さんへと振り返った。
「…あ、あの?……」
「君は彼の事を考えている時だけ、ひどく子供のような顔をする。他人には警戒心を持って接しているのに…彼の名前が出た途端、君は別人のようになる」
「…意識している訳では…僕は……」
「無意識だとしたら尚更だ。彼が君に異常なまでに過保護なのはそのせいかもしれないね」
「―――そう、見えますか?」
「無理も無いと思うがね。君の歩んで来た人生があんなだったら、私だってそうしたいと思ってしまう。彼のような想いがなくても」
「…でも僕は…少しでも…如月さんの役に立ちたい…」
「健気だね。君のそれが最大の武器でそして最大の弱点だ。きっと君は愛する者の為ならば自分をどんなに犠牲にしてでも、その相手を護ろうとするだろう…って君の彼もそうだけれどね」
「それは、いけない事なのですか?」
「いや、そんな事はない。そんな事は誰にも決められないんだ。何が正しくて何が間違えかなんて、そんな事他人が決める事じゃない。本人がそれが正しいと思えば正しい事なんだ」
「僕はこんな風にしか…如月さんを愛せないから……」
「そうだね、愛し方を知らない君は、どうしようもないくらい哀しい愛し方しか出来ないんだね」
「哀しい、愛し方しか」
君の健気さは諸刃の剣だ。
下手をしたら廻りすらも巻きこみ傷つけるだろう。
自分を全て犠牲にしても相手を護ろうと言う想いは。
時には、他人を傷つけてまでも。
相手を護ろうとするから。
「君にとって、彼は全てなのだろう?」
「――はい」
「自分自身よりも大切なんだろう?」
「はい」
「僕は…如月さん以外…何もいらないです……」
「綺麗な瞳だ。真っ直ぐで、けれども哀しい。それはきっと今までの君への環境がそうさせたものだろうけれどね」
「………」
「やはり君の瞳は暗殺者にしては純粋過ぎる。幾ら人を殺しても君は。君はきっと一番奥にある魂は決して穢れはしないのだろう」
「…鳴滝さん?……」
「―――館長だよ、壬生紅葉」
「…え?……」
「これからは私が拳武館の館長だ。前の館長は、死んだよ。君も見ただろう?彼が殺したのを」
「…え…じゃあ……」
「そうだ。これから私が君の『飼い主』になるんだよ」
「…鳴滝…さん?……」
「私は言った。君を連れ戻すと」
「君を私の元へと呼び戻すと」
もう一人の黄龍の器。
表裏一体の存在。
本来の黄龍の器が綺麗な道を歩めば歩む程。
その片割れである君が穢れてゆく。
君が手に血を染めれば染める程。
―――黄龍の器の未来は輝くものになる……
「君はもう人を殺したくはないだろう。彼の腕の中で眠りたいだろう。でもそれは出来ない」
綺麗な瞳だと、思った。表裏一体の存在。けれどもそれだけじゃない。この瞳をさせたのは彼へのただひとつの愛のせいだ。純粋過ぎるが故に残酷な想いのせいだ。
「君がもう一人の黄龍の器で、彼が四神である以上」
そして君は。君は本物の黄龍の器ですら持ちえないものを持っている。その強い瞳の力。そして哀しい力。その孤独で哀しさゆえの瞳の美しさは、君しか持っていないもの。
「タイムリミットは二年だ。二年後この東京が血と殺戮の場になる」
「…何を…言って……」
「それまでに全ての四神と…力を持つ者を黄龍の器に終結させなければならない。だから君と彼の絆は邪魔なんだ」
全てが黄龍の器の為に…その存在を護る為に力を合わせなければ、この街は東京は滅びてしまう。だから危険なんだ、君と彼が持つその強過ぎる絆は。
「君らの想いで、この街を破壊する訳にはいかない」
―――廻りの人間を傷つけても、離れられない絆は……。
「そして君の手はまだ血に染まってくれないといけない」
「どうしてですか?」
「全ては黄龍の器の為に」
君が犠牲になる事で、全てが上手く運ぶ。なんて可愛そうな魂。なんて可愛そうな命。
ここまで散々傷ついていながら、まだ君の犠牲を私は求めている。全ては約束の為に。全てはこの街の為に。そして、私自身の為に。
「全てが終わるまで、君は拳武館の…いや…私のものだ」
―――弦麻…君との約束の為に……
ただ傷つくだけの君のこころを、君の魂を掬ったのは彼だ。
四神の一人でありながら、飛水流の末裔でありながら。
その全てを捨ててさえも君を選んだ。
けれども彼に。彼にそれを捨ててもらう訳にはいかない。
まだ。まだ早いんだ。早過ぎるんだ。
君達の出逢いは早過ぎるんだ。
もっと。もっと先に。
全ての力が集まるその時に出逢っていれば。
こんな残酷な選択肢を君に突きつける事はなかったんだ。
「君にはふたつ、選べる道がある」
僕は、その時ただひとつの事だけを考えていた。
「私とともに戻って拳武館の暗殺者になる道か、愛する彼と手を取って逃げる道か…どちらかだ……」
ただひとつ。貴方の事、だけを。
「ただし君達が逃げれば容赦なく拳武館は君達を追い掛ける…分かっているね、拳武館への裏切りは『死』しかない」
―――貴方の事…だけを……
「答えは急がなくていい。君の怪我が完治するのでは」
「…如月さんは?如月さんは今、どんな状態なんですか?」
「今は眠っているが命に別状はない。あれだけ大量の血を流したのに恐るべき生命力だ…流石四神と言う所だろうね」
「……背中の傷は…残りますか?……」
「この後に及んで彼の心配か…本当に君は健気だね…。多分消えるだろうと言う事だ。額の傷…あれは一生消えないらしいが…所詮あの男の攻撃だ。彼に部があるのは目に見えているだろう?」
「それなら、いいです」
貴方が無事ならば。貴方が生きていれば。貴方がこの地上に存在してくれていれば。僕は。僕はそれだけで、しあわせだと思えるから。
「…鳴滝さん…いえ…館長……」
―――館長。これからはこの人が館長。僕の飼い主。僕の支配者…けれども……
「なんだい?」
「…選択肢は…もうひとつ…あります……」
「――え?」
少しだけ驚きの表情を見せた『館長』に、僕は自力で右手の包帯を外した。そして。そして、手首の、無数の針の跡を見せる。
「気付いていない訳ではないでしょう?」
「―――ああ分かっていた……」
「僕の身体に、打ちましたね。薬が切れる前に」
「…それならば話が早い。君はもう薬なしではいられない身体だ。その為にも君は。君は拳部館へ戻らなければならない。そうしなければ…廃人だ……」
「だから選択肢は…もうひとつ…あります……」
「――壬生?」
「…僕が、廃人になる事です……」
「廃人になった暗殺者なんて、使い物にならないでしょう?」
僕が最期に見つめる人が。
貴方だったならば。
貴方だったならば、僕は。
僕は、それを瞼の奥に焼きつけて。
そして。
―――そして、眠ろう……
「……君は………」
「館長、僕は人間です。意思を持った人間です」
「私のモノじゃないとそう言いたいのか?」
「だから僕は、人殺しはしたくありません。そして如月さんを傷つけたくありません」
「―――やっぱり、そうなるのか」
「…君は自分自身を犠牲にしてまでも相手を選ぶのか……」
何が正しくて。
何が間違えかなんて。
そんな事誰にも分からない。
誰にも決める事なん出来ない。
―――誰も、そんな事は分からないのだから……
ACT/35
僕の最後の瞳に映るのが、貴方ならば。
貴方をこの瞳に焼きつけて。
そして狂うのならば。
僕は、それで。
それで、構わない。
それすらも、しあわせだと思うから。
貴方とともにいる未来を望んだ、それが代償ならば。
「まあいい。君の好きにするがいい。ただ、ただきっと君の思い通りにはならないだろう」
「…どうして、ですか?…」
「廃人になった君を、彼が放っておくと思うかい?君がもし壊れたら、どんな事になっても彼は君を助けるだろう」
「………」
「そうしたら君は私の元へ戻るしかないんだよ」
「――それでも……」
「それでもそばにいたい、と?」
「僕の意思です」
「僕が自分で決めた事です」
今まで自分自身の気持ちで、自分自身の足で僕は歩いていなかったから。
だからこれからは。これからは僕の意思で。僕の気持ちで選びたい。
―――僕の運命を、選びたい……。
「まだ時間はある。ゆっくり考えるがいい。そして私の納得する答えを出してくれる事を願うよ」
「それは貴方のモノになると言う事ですか?」
「それもある…けどそれ以上に…君にはもう一人の『黄龍の器』として生きて欲しい」
「…それはムリです…」
「―――分かっている…君の心に彼がいる限り…それでも私も心も意思もあるんだ。だから君にそうなって欲しいと望まずにはいられない」
「……館長………」
「なんだい?」
「…如月さんは…如月さんは今?……」
「逢いたいのか?」
「逢いたいです」
「正直だね。それが、君が彼から与えられたものなのか。だとしたら君達はひどく幸福な恋愛をしているのかもしれない」
「…しあわせ、です…」
「本当に正直だね。まあいい。君の王子様は、隣の部屋にいるよ。ただまだ意識が回復していないし、君はその点滴だらけで動けないだろう?」
「こんなモノ僕にはいりません」
「駄目だ。君の身体が万全でない以上ここを出す事も、点滴を外すことも許さない。そんな事をしたらまた彼が君を心配する事になる。君はそこまでバカになるのか?」
「……でも…僕は……」
「…如月さんの…無事な姿を見ないと…安心出来ない……」
このまま。
このまま身体中の点滴を外して。
包帯を外して。
そして。
そして貴方の元へと駆け寄りたい。
貴方が生きていると確認したい。
貴方の命の音が聴きたい。
貴方の瞳が見たい。
貴方の声が聴きたい。
貴方に、逢いたい。
―――あなたに、あいたい。
「そんな無防備な瞳を君は見せてはいけない」
「…館長?……」
「そんな瞳をしたら、男達はまた君を欲望の対象にするだろう」
「…そ、そんなつもりは……」
「無意識なのは分かっている。だから余計質が悪いんだ。君は無意識に男の加護本能と可虐本能を呼び起こす。護りたいと言う気持ちと、無茶苦茶にしてやりたいと言う気持ちを同時に呼び起こさせる」
「……あの………」
「駄目だよ、無防備な瞳は彼以外に見せるものじゃない。そんな顔もしてはいけない。それが君の為だ分かるね」
「…はい……」
「彼以外の人間なはきっと。きっと、自らの欲望を満たす為に君を傷つけるだろう。それくら君の瞳はひどく不安定なんだよ」
「…不安定、ですか?……」
「ああ、でもそれは」
「それはまだ彼の無事を確かめていないせいだろうけれどね」
今まで生きてきた過程がそうさせるのか。
ひどく不思議な子供だ。
護ってやらねばという思いと。
無茶苦茶に壊したいと言う思いを。
同時に呼び起こさせる少年。
大切に護らなければと思う反面。
どうしようもなく壊してやりたいと思ってしまう。
この奇妙なまでのアンバランスさは。
彼がそばにいないからか?
彼がいないから、埋められていないのか?
だとしたら。
君達の絆はもう、どうにも戻れない所にまで来ているのかもしれない。
「…逢いたい…です……」
あいたい。あなたに、あいたい。
「…離れているだけでこんなにも……」
あいたくて、あいたくて。
「…こんなにも不安になるなんて……」
あなたに、あいたくて。
「…こんなに自分が弱いなんて…僕は知らなかった……」
―――貴方に、逢いたい……
こえが、ききたい。ひとみが、みたい。
「彼が、目が醒めたらまっさきにここに来るだろう?」
「…はい……」
「だったらそれまでもうちょっとだ、待っているんだ」
「……は、い……」
貴方に逢うまでの時間がこんなにも長かったのに。
貴方に出逢うまでの時間は。
でも、それなのに。
それなのにこんなにも。
こんなにも、今この時間が長く感じるのは。
どうして、なのかな?
「もう、手遅れなのかもしれない」
病室を出て扉を閉じた途端、鳴滝の口からはため息のような声が零れる。それは何か少しだけ苦いモノを含んでいた。
「――もう一人の黄龍の器と、玄武か……」
こんなにも惹かれ合う魂を今まで見た事がなかった。こんなにも互いを求め合い、さ迷う魂を。
ここまで来てしまったふたりを、引き離す事は本当に可能なのだろうか?
「それでも私は…やるしかない…例え無駄な事になってしまっても……」
―――約束。ただひとつの約束の為に。たったひとつの、約束の為に。
「…それが弦麻…私が唯一君にしてやれる事なのだから……」
白い壁に四角く区切られた空間。そこから見えるのは、灰色の空。空と言うよりもただの空間だった。それに。それに壬生は視線を落とす。
「…くーは…大丈夫…かな?……」
空っぽの部屋で小さな生き物は独り、淋しがっていないだろうか?小さな命は、凍えていないだろうか?
―――あんなに広過ぎる空間は、小さな身体には淋しすぎるだろうから……。
「……ごめんなさい…全部…僕のせいですね……」
もしも僕と貴方が出逢わなかったならば。貴方をこんな目に遭わせる事はなかった。貴方の手を血に穢す事はなかった。綺麗なままで。一番綺麗な道を歩んでゆける筈だった。
でも。けれどももしも。もしも僕と貴方が出逢わなかったならば?
―――怖い……
壬生は自分の身体が無意識に震えているのが分かった。怖い。それはどうしようもない程の恐怖。
もしも自分が如月と出逢っていなかったならば。ずっと自分はあのままだ。あのままあの人の玩具として性欲処理の道具として、ただ生かされるだけの存在。
あのままただゴミのように捨てられる為だけの、命。それ以外に価値はない命。
―――怖い……
もしも貴方と出逢わなかったならば?もしも貴方と運命が重ならなかったならば?
こうやって僕は誰かに愛される事も、誰かを愛する事も知らずに。知らずに生きてゆく。
違う、生きているんじゃない。ただ空気を吸っているだけだ。
ただ操り人形として、都合のいい玩具として。動いているだけ。
「…如月さん…僕は……」
貴方を、愛していると思う時。僕は生きているんだと実感する。
貴方に、愛されていると気付く時。僕は生きたいと願う。
貴方がここに存在して、生きている事が。僕と出逢って、そして言葉を交わした事が。
それはどんな奇跡よりも、どんな運命よりも、僕にとって大切な事。
何よりも、大切な事。
「…貴方に出逢えて…よかったです……」
よかったなんて言葉では言い尽くせない程の思いは溢れているけれど。けれども自分は今、この言葉以外に思いつく言葉がなかったから。言葉を上手く言えない自分はこの言葉しか思いつかなかったから。
でも。でも貴方はそれでいいと言ってくれた。僕の言葉が聴きたいって、言ってくれたから。
「…嬉しいです……」
今、精一杯の僕の気持ちを運ぶ。
優しい手が、そっと。
そっと髪を撫でてくれる瞬間が好き。
柔らかく笑って、貴方が。
貴方がそっと髪を撫でてくれる瞬間が。
そんな何気ない日常の風景を。
少しずつ少しずつ、降り積もらせて。
そして。
そして何時しか、気付かない間に。
その想い出でいっぱいになれたならば。
ふたりで少しづつ、積み重ねてゆけたならば……
その日から僕は。
毎日扉を見つめていた。
そこから貴方が現われて。
現われてそして。
そして笑ってくれる事を夢見ながら……
ACT/36
夢から、早く目覚めなければ。
早く君の元へと駆け寄らなければ。
膝を抱え俯く君を。
君を抱きしめなければ。
―――君を、抱きしめなければ……。
血が呼び起こす、記憶。
流れる血。受け継がれる血。
玄武として、四神として。
受け継がれてゆく血。
その中で幾度となく繰り返された争い。
繰り返され続けた争い。
その中で四神は、玄武は、ただ。
ただ黄龍の器を護る為だけに存在していた。
その為だけに、この血は受け継がれた。
でもそんなにも。
そんなにもこの血が大切だと言うのか?
この血を受け継ぐ事は。
黄龍の器を護る事は。
そんなにも、大切だと言うのか?
僕は。僕にとっては。
そんな運命よりも、宿命よりも。
君の方が大切だから。
そんな先祖達が勝手に受け継がせてきたモノよりも。
たったひとりの君の方が。
―――君の方が、大切だから。
宿命が、運命が決めた事よりも。
僕にとっては君と出逢った事の方が、意味がある。
君を愛した事の方が、意味がある。
君に愛された事の方が、意味がある。
誰かが勝手に決めた宿命なんかよりも。
自分の意思で選んだ相手の方が大切なのだから。
―――君より大切なものなんて、この世に存在しない…僕にとっては……
君が、泣いている。
声を上げずに、涙を流さずに。
それでも君が、泣いている。
『キャハハハ死んじゃえ。お前なんて死んじゃえ』
君に似た綺麗な女の人。
けれども君に似ていない女の人。
幼い君を何度も殴りつけ、そして蹴り飛ばしている。
『要らない子なんだよっお前なんていらない子なんだよっ!!』
その目に映るのは狂気だけ。狂女の叫び、瞳。
――ああこれが君の…君のお母さん……
君は必死で絶えている。悲鳴を上げないように唇を噛み締めながら。
小さく丸まって。丸まりながらその暴力に耐えている。
『死んじゃえ、お前なんて』
「―――っ!!!」
熱湯を頭からかけられて、初めて君の口から悲鳴が零れた。
『キャハハハハハ、いいきみだわっ』
楽しそうに笑う君の母親を余所に君を抱きしめようとして。
抱きしめようとして、それは叶わなかった。
僕の腕は君を擦り抜け、母親を擦り抜け。
ただ僕は君が声を堪えて泣くのを見ているだけ。
ただ、見ているしか出来ない。
一面の、金木犀の香り。
柔らかい、香り。
『坊や、綺麗でしょう?ママこの花大好きなのよ』
少女のように無邪気に笑うその笑顔はさっきと同一人物とは思えなかった。
『綺麗よねぇ、綺麗だわ。フフフ』
楽しそうに笑って、花を摘むその笑顔が。その笑顔が君とだぶる。
やっぱり君は、この人の子供なんだ。
『綺麗よねぇ…坊や…』
摘んだ花を君の頭から掛ける。今度は熱湯じゃない、花のシャワーを。
また、君は泣いた。けれどもそれはさっき見た涙じゃない。
母親すらも気付かない。嬉しそうな顔で泣く君を。
そんな君を、誰も知らない。
血。ぽたぽたと零れる、血。
君の手首から零れる血。
自ら刃物を持って、手首を切る。
その痛みに君の眉は歪んだが、それでも切り続けた。
もう慣れているのか、どれだけ切れば血が出るのか。
どれだけ切れば、命は助かるのか。
分かっている切り方だった。そう、君は。
君はそうやって『生きたい』と自らを主張していたのに。
それなのに、誰もそんな主張を気付きはしなかった。
『…坊や…痛い…痛い…?』
泣き顔まで君にそっくりの母親。けれども君とは明らかに違う。
君の涙は。君の涙はもっと、綺麗だ。
君の涙は何よりも綺麗でそして、哀しい。
『…痛いでしょう?坊や……』
そう言う母親の足元からも血が出血している。
月ものだろう。処理もしていないのか、足元からぽたぽたと零れている。
『ママもね、ママも一緒。一緒に血を出してるの…ね…』
そうして君を抱きしめる腕はやっぱり君のように痩せていた。
精神異常の女が産んだ子供。それが君が生まれながらに持った烙印。
それでも。それでも君にとっては。
「…お母さん……」
君にとってはそれでもたった独りの、母親なんだ。
白い部屋。真っ白な部屋。
唯一外とここを繋ぐのは鉄格子から覗く小さな空間だけ。
小さな区切られた空間だけ。
『今日からお前は俺のものだ』
あの男が君の前に現われる。相変わらず死んだような瞳だ。
そして。そして、その中には明らかな欲望。
こんな子供を慰み者にするくらいだ。その瞳の奥の灰色はどうしようもない程にくすんでいる。
『これから俺がお前をここから連れ出してやる。そのかわり俺のものになるんだ』
そう言って差し出された手を君は受け取った。何も知らない空っぽの瞳で君は。
―――駄目だ、その手を取らないでくれ……
けれども僕の声は君に届く筈がなく。ただ僕は君があの男の手を取ってここから出てゆくのを見ているだけだった。
暗い部屋だった。光が何処にもない部屋。
そこで君は代わる代わる男達に犯される。
まだ。まだ幼い君は、その行為の意味すら分からずに、ただ。
『ヘヘ、また血―出しちまったなぁ。何時になったら初潮は止まるのかねぇ』
いかにも脳味噌の足りなさそうな男のモノが、出血の止まらない君のソコに埋められてゆく。太股には白と赤が交じり合った液体が幾筋も流れていた。
小さな腰を掴まれながら、君の身体ががくがくと揺さぶられる。その度に君の口からは悲鳴のような声が零れた。
―――助けて…助けて……
君の口は確かにそう言っていた。けれどもそれは喘ぎのせいで言葉としては成立しなかったが。確かに君の唇はそう告げていた。
『いやらしいガキだぜ。ほら乳首がいっちょまえに立ってやがる』
別の男に胸の飾りを弄られながら、腰を打ち付けられる。零れる君の瞳の涙は決して快楽の為なんかじゃない。
終わる事なく続けられる男達の性の暴力。幼い君はそれをただ受け入れるしかない。
どんなに逃げようとしても、その足を掴まれてまたその武器を埋められるだけ。
身体中の穴という穴全てに埋められるだけ。
そして男達の白い欲望をその幼い身体全身に浴びせられて…そしてまた繰り返される。
―――終わりのないその暴力と歪んだ欲望が……。
月のない夜。
君はただそこにいた。
足元の死体を見つめながら。
ただそこに、いた。
その瞳は壊れた硝子のようで。
そのひび割れた先から、零れるのは。
零れるのは君の、哀しみ。
そして君の、痛み。
隙間から零れ落ちて、そして。
そして溢れるその痛みと哀しみに。
君の全身が埋められて。
そして砂のように、崩れてゆく。
君が、崩れてゆく。
―――どうして人を殺さなければならないの?
君の叫び。君の心の叫び。
誰も聴く事のない。
誰も聴いてはくれない。
君のこころの、声。
誰も、聴かない君の声。
そして君は、膝を抱えてうつむく。
その背中にはぼろぼろになった白い翼。
たくさんの羽根を毟り取られて。
それでも生えた背中の翼。
どんなに毟られても、どんなに血で穢されても。
その翼は決して。
決して闇に染まる事はない。
真っ白な翼。真っ白な、羽根。
それは君のこころ。
それは君の魂。
どんなに君が穢され、どんなに君がぼろぼろになろうとも。
どんなに君が傷つき、どんなに君が壊れようとも。
その羽根の輝きは。そのこころの清らかさは。
―――誰にも、傷つける事なんて出来ないんだ……
手が、差し出される。
君に手が。
その手は何時しか。
何時しか僕の手とを、重なった……
何時しか僕の背中にも羽根が生えていた。漆黒の翼。
僕の背に生えているのは今までの僕を現すかのように真っ黒な翼だった。けれども。
「…如月、さん……」
見上げて来た君の瞳が微笑う。柔らかく、微笑う。その瞳を。その瞳を僕は見たかったんだ。その、瞳を。
「紅葉」
ずっと君に語り掛けていた言葉は初めて。初めてこの瞬間、君に届いた。他だ独りの君に、届いた。
「…ずっと…貴方を待っていました……」
君の手が僕の手と重なる。その瞬間、ぼろぼろに傷ついた君の羽根が何時しか再生し、立派な翼へと変化した。そして。
そして何時しか僕の黒い羽根も、君と同じ真っ白な羽根へと変化していた。
「…僕も…君を…捜していた……」
互いの羽根はひとつになった。それぞれ片一方ずつ、生えている。君と僕の、背中に。
それぞれ足りないモノは、お互いの背中にある。
「…捜していた、君だけを…僕の空洞を埋めるその存在を……」
君の背中の羽根は僕でしか埋められなければ、僕の背中の羽根は君でしか埋められないんだ。
「…如月さん…貴方に逢えて…よかった……」
人間が地上に生まれてくる時、必ず何かが足りないのだとそう言った。それは天使が人間になって生まれた瞬間に、そうなるのだと。それは一人だった天使の身体がふたつに分かれて、人間として地上に生まれてくるからだと。
そして。そして人間は無意識の内に捜している。生まれる前にひとつだった、存在を。ふたつに裂かれたその存在を。
ひとつになるために。足りない部分を埋め合う為に。だから。
―――だからひとは決して、独りでは生きられない。
「ああ、紅葉。僕も君に出逢えてよかった」
君という存在がこの世に存在する事に。君という存在が今ここに与えられた事に。
「…貴方に…出逢えて…よかった……」
僕は全ての事に、感謝します。こうやって君を僕に与えてくれたもの全てに。
目を醒ました瞬間、僕の手のひらに。
何故か手のひらに、白い羽根が握られていた。
けれどもその羽根は。
窓から吹いて来た風に空へと飛ばされていった……。
End