―――内側に眠る狂気を目覚めさせてしまったのは、その瞳だった。
「―――くく見るがいい、緋勇。貴様の大事な仲間をな」
風角はせせら笑いを浮かべながら、強引に龍麻の顔を上へと向かせる。手足を束縛された龍麻には、その行為を受け止める他手立てが無かった。仕方無しに龍麻は命じられるままに、その頭上を見上げた。
「―――壬生っ!!」
その途端、龍麻の漆黒の瞳が驚愕に見開かれる。そして耐えきれないとでも言うように、俯こうとする。しかしそれは風角の手によって遮られてしまう。
「…見るがいい、緋勇…本当は貴様だってそうしたいのであろう?……」
耳元に囁き掛けるように風角は龍麻に言う。そんな風角に龍麻は意思の強い瞳でぎんっと睨み付けて。
「風角っ壬生を離せっ!!」
「フフフ、生憎ワシには無理だ。ワシには盲目の者を止める術をしらん。それよりも見てみろ、緋勇。この者は、綺麗よのお」
「止めろっ!風角っっ!!」
龍麻は耐えきれずに叫ぶ。しかし風角は許さなかった。目を閉じる事すら許さずにその頭上の行為を、龍麻へと見せ続ける。―――その、残劇を。
それは無残に犯されている、壬生の姿だった………。
―――これは、閉鎖された『狂気』だった。
、 、
それの正体を知るのは容易だった。龍麻が見間違える筈の無い一度自分達が倒した筈のバケモノ…、盲目の者だった。その盲目の者から無数の枝のようなぬるぬるとした物体が、壬生の身体に絡み付き彼を苛み続ける。それは実に淫らで、妖しげだった。
「…やだっ…あぁ……」
壬生の胸の突起を細めの物体が、まるで指のように愛撫をする。それは時には鉄のように硬まり、張り詰めた突起を朱に染める程につつくのだ。
「…いや…やめっ……」
その間にも様々な太さの物体が、壬生の感じやすい部分を攻め立ててゆく。壬生はその攻撃に耐えようと必死で首を左右に振るが、それが却って彼を艶めて見せた。
「…やあぁ……」
無数の細い物体が壬生自身を包み込む。それは先程からの行為のせいで、微妙に形を変えていた。
「ククク…どうじゃ?壬生。良いであろう?」
風角の卑屈な声が壬生の耳元へと忍び込む。しかし喘ぎに奪われた声は、反撃すら出来なかった。
「ほら、貴様の仲間にも見せてやるがよい。その淫らな姿をな」
「や、止めてっ!」
太めの物体がの足首を掴み、それを限界まで広げさせる。壬生は必死で足を閉じようとするが、強靱なそれはびくともしなかった。そして。
そしてそんな壬生を何よりも驚愕させたのは、見上げた視線の先に自分と同じように驚愕に見開かれた龍麻の瞳、だった。
「止めてっ!見ないでっっ!!」
壬生はこの屈辱的な行為を見られるのが耐えきれなくて、必死で叫ぶ。しかし風角に動きを封じられている龍麻にとって、それは不可能な事だった。
「何を言うのだ?壬生。もうこんなになっているのにのお…クク……」
「…ああっ……」
突然先程の硬くなった物体が、再び壬生の胸の突起をつつく。そのせいで開かれた先の壬生自身が震えながらも、立ち上がる。
「貴様のここは淫らよのお」
「…ああ…ぁ……」
再び無数の細い物体が壬生自身を苛み始める。もう壬生は瞳を開く事は出来なかった。唯一自由な顔を背けて、出来るだけ龍麻からの視線を外そうとする。しかし目を閉じても顔を背けても、龍麻の視線が自分を見ているのが分かる。それに耐えきれずに、壬生の瞳からは涙が一筋伝った。
「…やあ…あ…」
その間にも攻撃は止む事無く、壬生を追い詰めてゆく。そして限界まで膨れ上がった時、突然先端を食い止められたのだ。
「…なっ…やっ!」
突然、視界が反転する。そして壬生が理解した時には身体は反転させられて、壬生自身最も恥ずかしい部分が、龍麻達の前にさらけ出されたのだ。
「…やだっ…止めてっ……」
獣の態勢を取らされ、耐えきれず壬生の白い肌が朱に染まる。それはしっとりと汗ばんで実に淫らに妖艶に見せていた。
「…やあ…あ……」
くちゅっと淫らな音を発てながら、細い一本の物体が壬生の最奥へと忍び込む。そしてそれは本数を増やされながら、壬生の蕾を犯してゆく。
「…痛っ…いた…あ…」
挿入を繰り返し、勝手に動き回る物体達に壬生は悩まされ、翻弄される。どんなに心が嫌がっても、身体は勝手に反応してしまうのだ。それには、壬生にはどうしようも無い事だった。そして、どうにも出来ない事だったのだ。
「……そろそろ、欲しいだろう?壬生……」
風角の言葉が壬生へと降ってくる。しかし壬生にはその意味を理解する前に、行為は行われたのだった………。
「貴様の仲間は、大層淫らよのお。どんな女よりも淫らに見えるわ……なあ、緋勇……」
振り返った風角の瞳が、細められる。そして、くすりと笑って。
「…フフ…可愛いものだな、緋勇。貴様も感じたか……」
「な、何を言うんだ風角」
龍麻の頬が目にも分かる程、朱に染まる。しかしそんな龍麻に風角は笑いを止めずに。
「隠さなくても良いぞ、緋勇。貴様で無くともあの様な姿を見て感じない男が変なのだ。のお、緋勇。ククク」
「や、止めろっ」
風角の指が龍麻の股間へと延びてきて、制服のズボンの上から触れる。それは風角の言う通り、微かに形を変えていた。
「…クク…緋勇、このままでは辛いであろう?」
「う、うるさいっ!」
確かに自分だって正常な男なのだから、この状態が辛くない訳は無い。だからと言って自分の仲間である壬生が犯されているのを見ながら、欲望を吐き出す事は流石に出来なかった。けれども。
「……いいのだぞ…しても………」
耳元で囁きながら、風角は龍麻の腕の戒めを解いてやる。そして龍麻の手を掴むと、自らの股間へとそれをあてがった。
「…さあ、緋勇……」
「……やめっ……」
風角の手が龍麻のジーンズのジッパーに掛かり、それを外してゆく。そして開放された龍麻自身に彼の手を重ねながら、愛撫を始める。
「…やだ…風角……止めろ……」
「止めて良いのか?こんなになっているのに」
「……離せっ!………」
龍麻の言葉に風角は素直に従う。しかし再びその顔を掴み、再び龍麻を壬生達へと向かせる。そこには淫らに喘ぐ壬生がいる……。
「……これでも…耐えられるのか?緋勇………」
風角の囁きは、まるで優しい悪魔の誘惑のようだった。
「―――ひいっ!!」
今までとは比べ物にならない膨くて硬い物体が、壬生の最奥へと突っ込まれる。その容量に耐えきれずに、壬生のそこからは赤い鮮血が流れ始める。
「…ひあ…あああ―――」
ずぶずぶと音を発てながら、その物体は限界まで壬生の最奥を貫く。そして一端奥まで抉ると、挿入を開始した。
「…いた…痛い…あぁ……」
幸か不幸か流した血の御陰で、物体の挿入がスムーズに運ぶ。ぐちゃぐちゃとした音を発しながら、それは飽きる事無く壬生を求める。
「…あぁ…あああ……」
男性とは違って終わる事の無いそれは、延々と壬生を犯し続ける。そしてそんな壬生の意識を引き止めているのは、皮肉にも開放を許されない壬生自身だった。
「…もう…ゆるし…あうっ…」
許しを請おうとする壬生の口内に、別の物体が突っ込まれる。それは壬生を攻めているものと同じように膨きくて、硬いものだった。
「…うう…う……」
前からも後ろからも攻めたてられて、壬生は気が狂いそうだった。一層の事気が狂ってしまえば楽になれるのに。でも、それさえも許されなくて。
「…うっ…あっ…ああ……」
口が開放されたかと思うと、再び壬生の最奥に埋もれているものが激しく動き出す。
――――そして、永遠と思われる拷問は続く…………。
うっすらと汗ばみ朱にそまる細い肢体。甘い喘ぎ声。苦痛と快楽の狭間で歪む表情。どれもこれもが雄を誘っていた。その全てで『男』を。
「………あっ…………」
龍麻はいつのまにか自分の両手を自らの股間へと、滑らせていた。もう、止める事が出来なかった。大切な仲間であると分かっていても、そんな彼が犯されていると理解していても。目の前に繰り広げられる淫らな姿に、龍麻は自分を止める事が出来なかった。
「……くぅ……み…ぶ……」
身体が心が、訴えていた。この腕に壬生を抱きしめ、そして翻弄したいと。その細い肢体を組敷いてその中へと入りたいと。
「………ふぅ……ん……」
むちゃくちゃになるまで貫いて、許しを乞うまで犯したい。もう、龍麻はどうでも良かった。もう何も、考えられなかった。ただこの『狂気』の中で蠢く壬生だけが自分を支配して。
「……壬…生………」
龍麻がその名を呼んで果てた時、同時に壬生も開放を許された……。
―――多分それは、破滅への衝動。
それから。それから何事も無かったように、時間は過ぎて行った。
あの悪夢のような旧校舎を脱け出し、そして居る筈のないもう存在しない筈の風角と盲目の者を倒して。でも。
―――でももう、帰れなかった。
内側で目覚めてしまった気持ちが、もう自分をどこへも帰してはくれなかった。
あれから時々、あの時の夢を見る。
忘れよう忘れようとしても、淫らに壬生は喘ぎ、自分を誘う。理不尽に犯されながらも、壬生は快楽に溺れた表情で自分を誘うのだ。そして。
いつの間にか、壬生を犯している自分の姿が映し出される。そしていつも、その瞬間に目が覚めるのだ。
「―――壬生」
いつも龍麻が名前を呼ぶ時、一瞬だけ壬生は脅えた瞳をする。そして次の瞬間には何事も無かったかのようないつもの冷めた瞳で龍麻を見返すのだ。
「何?龍麻」
それが龍麻には悔しくもあり、嬉しくもあった。それは自虐の喜びに近いものだった。何事においても無関心で感情を見せない壬生の唯一の秘密を知っていると言う……。そしてあんな壬生を誰も知らないのだ。自分だけが、知っている。何よりも淫らで、男を誘う壬生の肢体を。
「今日、俺たち二人だけだよ」
「―――え?」
龍麻の瞳にも分かる程、壬生の肩がびくりと震えた。壬生は忘れてはいない。あの日の事を。龍麻の目の前で、犯されたあの日の事を。
「京一は補習で犬神先生と授業だし、雨紋はバンドの練習…全く皆旧校舎の修行を何だと思っているんだろうね」
冗談っぽく言う龍麻に、壬生は微かに笑う。けれども瞳は笑って、いなかった。そして一瞬だけ戸惑ったような顔をして、そして何気なさを装って尋ねた。
「……如月さんは?………」
その瞳になぜか、龍麻は違和感を覚える。それは龍麻だけに見せる脅えた瞳でも無ければ、いつもの冷めた瞳でも無い。それは自分が、知らない瞳だった。
「さっき電話があって、今日は遅くなるって。だから今日は俺たちだけで潜らないといけないんだ」
「―――そうですか………」
それだけを言うと壬生は手元にあった椅子に視線を移す。しかし龍麻の視線は壬生から離れなかった。離れられなかった。あの壬生の瞳の意味が知りたくて。龍麻が知らないあの瞳を。これは確かに嫉妬だった。
「―――壬生………」
ガクランの襟元のボタンをひとつ外しているせいで、鎖骨のラインが見え隠れしている。そしてひどく紅い唇。怯えた瞳。その全てが無意識に龍麻を誘っている。そう、壬生は誘っているのだ。脅えた瞳を見せながら。
「な、何ですか?」
ゆっくりと龍麻は近づくと、突然壬生の腕を取る。そしてそのまま華奢な壬生の身体を抱きしめた。
「……好きだ、壬生………」
「―――龍麻?」
驚愕に見開かれた闇の瞳が、龍麻を映し出す。それはとても、綺麗だった。
「ずっと、好きだった。壬生」
あの日以来ずっと、抱き続けていた幻想。この身体を腕の中に閉じ込めて、泣くまで求めてみたいと。そしてその口に自分の名を上らせたいと。
「……壬生を、抱きたい………」
龍麻の腕の中の、壬生の身体がピクリと震える。そして必死にその腕から離れようとしたが、強靱な龍麻の腕はびくともしなかった。
「離してっ!龍麻っ!!」
唯一自由になる口で抵抗を試みるが、龍麻の腕の力は緩む事はなかった。そして、壬生の顎を掴むと強引に口付ける。
「好きだ、壬生。あの日以来ずっと、抱きたいと思っていた」
「―――」
「壬生がやつらに犯されている時、俺感じたんだ」
「……龍麻………」
「壬生の中に入りたいって、こいつが……」
壬生の手が龍麻の股間へと導かれ、そこに当たる硬いものに壬生の手が離れようともがく。しかし龍麻は、許してはくれなかった。
「……壬生が欲しいって…言っているんだ………」
「止めてっ!」
壬生の叫びも虚しく龍麻によって、その肢体を冷たい床へと押し倒される。そしてビリッと音を立てながら、壬生の制服が引き裂かれた。
「……綺麗だ…壬生………」
「…やだっ…龍麻っ…」
龍麻の指が壬生の胸の突起を包み込む。その感触は龍麻の想像していた通りだった。壬生の肌は龍麻の思った通り、滑らかできめ細かった。
「…やめ…やだ……」
尖った胸を口に含んで舌で転がすと、耐えきれなくなったように壬生の口から甘い息が零れる。その声が聞きたくて、龍麻は性急に壬生を追い立ててゆく。
「…やだぁ…あ…あ……」
龍麻の手が壬生のズボンに掛かり、下着と同時に引き下ろす。そして壬生自身に指を絡めると同時に、ぷくり立ち上がった胸に軽く歯を立てる。
「…止めて…龍麻…お願…い……」
壬生の目尻を涙が伝う。それは快楽の為の涙なのか、悔しさの為の涙なのか、龍麻には分からなかった。いや、龍麻にはどうでも良かった。この腕に彼を抱きしめて、彼を手に入れる事が出来るのならば。
「…好きだ…壬生…誰にも渡さない。俺だけの………」
「…やだ…許して…許してくださいっ……」
「…やだ、離さない。壬生は俺のものだ。俺だけの……」
そう言うと龍麻の指が何の前触れも無しに、壬生の最奥へと侵入する。しかし狭すぎるそこは容易に龍麻の指を受け入れなかった。
「…やだ…痛い…痛いっ……」
このままでは埒の空かないと判断した龍麻は、前に指を廻して愛撫をする。そしてその緩んだ隙に一気に指を限界まで埋め込んだ。
「…あっ…いた…痛い…あぁ……」
くちゅくちゅと淫らな音を発てながら、龍麻の指は壬生の中を動き回る。そして慣れた頃を見計らって一気に指が引き抜かれる。
「…ああ…ぁ……」
その刺激すら壬生は声を上げた。そして、逃げようとする壬生の身体を抑え込みながら、龍麻はズボンのジッパーを外す。そうしておいて龍麻は壬生の足首を掴むと、自らの肩の上に乗せた。
「……壬生……俺だけの……」
壬生の蕾に硬いものがあてがわれ、彼の身体がびくりと震える。そしてそれを龍麻が侵入させようとした時、だった。
「―――助けてっ如月さんっ!!」
遂に壬生の口からその名前が零れる。今までずっと、封印をしていた名前が。
「―――壬生………」
龍麻の声に壬生ははっとして、自らの手で自分の唇を塞ぐ。しかし、零れた言葉は二度と戻らなかった。
「……何で…『如月』…なの?………」
ぱたりと音を発てながら、壬生の足が床の上に落ちる。しかしその隙に逃げる事はしなかった。いや、壬生には出来なかった。自分の零してしまった言葉に茫然とするだけで。今まで必死で隠してきた想いに。
「…何で、何で、如月なの?………」
「……違っ……僕は………」
「嘘だ、壬生」
真っ直ぐな漆黒の瞳が、壬生を貫く。壬生にはそれが痛かった。痛くて、苦しかった。
「それは、嘘だ」
本当はずっと、知っていた。知っていたから、奪いたかった。秘密を知っている自分だからこそ、それが出来ると思っていた。あの事があったからこそ、壬生は如月に自分の気持ちを言えなくて。そして自分はそんな壬生を知っているから、付け込んだ。けれども。
「……嘘だ……壬生………」
それだけを言うと龍麻は壬生を抱きしめた。けれどもその先に進む事は出来ないのだ。壬生が封印していた名前を口にした瞬間。全てが終わったのだ。
「……嘘だぁ………」
崩れ落ちるように泣き出した龍麻に、壬生は背中に腕を廻して抱きしめた。そして。
「―――ごめんなさい…龍麻…………」
小さな声で呟くしか、壬生には出来なかった………。
―――この狂気は破壊させなくては、いけない。
「―――ごめん、壬生……」
龍麻はそれだけを言い残して、その場を去って行った。残された壬生は手元にあった引き裂かれたシャツを抱きしめ、耐えきれずにその場に泣き崩れる。涙が、止められなかった。
それは今まで堪えてきたもの全てが、今まで我慢して来たもの全てが、溢れ出してしまったのだ。そう、全てが……。
「………如月…さん……」
ずっずっと封印してきた想い。口に出してはいけない禁断の想い。でももう、止められない。両手では抱えきれなくなってしまった想いは、壬生の理性を越えて溢れ出してしまった。溢れ出して、しまった。
「……ごめんなさい…でも………」
太陽みたいな真っ直ぐな瞳も。さらさらの綺麗な髪も。大きくて優しい手も。全部。
「…好き、です………」
ずっとずっと、好きだった。もうずっと、前から。貴方が真っ直ぐに僕を見つめてくれた時から。貴方は決して嘘は付かなかった。それは今まで嘘と偽りだけしか与えられなかった僕に、初めて与えられた『本物』だった。
「……好き…なんです………」
誰にでも隔てなく向けられる優しい笑みを、独りいじめしたい。そっと髪を撫でてくれる指先が欲しい。全てを包み込んでくれる広い腕が、欲しい。
「……如月さん………」
でもそんなのは我が儘だから。自分勝手な我が儘だから。如月にとってこの感情は迷惑でしかないのだから。
「……ごめんなさい………」
―――でも、気持ちは、止められなくて。
「……俺って…サイテー……」
龍麻は苦笑混じりに呟くと、ずるずるとその場に座り込んだ。いくら衝動に押されたからと言って自分は随分と酷い事をした。傷付いているのは他でもない壬生だと、知っているのに。知っていたのに。けれども抑えきれなかった。壬生が好きで、壬生が欲しくて。この腕に抱きしめたくて。抱きしめて、離したくない。でも。
「……やっぱ…『如月』なんだね………」
知っていた結果だったけれど。もしかしたらって、期待してた。如月の感情が見えなかったから。如月の態度が分からなかったから。でも。
「…壬生は俺より…如月を選んだんだから………」
例え如月が振り向かないとしても。壬生は彼を想い続けるから……。
――――この迷路の答えを導き出せるのは、たった一人しかいない。
End