人間に戻れないのならば、ケダモノのとして。
ただ快楽だけを貪り続ける、ケダモノとして。
そうして生き続けるしかない。
―――もう何処にも、戻れないのなら……
時々、無償に叫びたくなる時がある。何に対してなのかは分からない。けれどもただ無償に。無償に狂ったように叫びたくなる時が、あるんだ。
「…あんっ…すごいよぉ……」
俺の目の前で、黒崎が犬神先生に犯されている。後ろから人間ではないソレに、貫かれ黒崎の秘所からは紅い液体が流れていた。
「…ああんっ…やぁっ…せんせいっ……」
狼となった先生に、お前は黒崎を犯させた。『ごしゅじんさま』である如月の命令は絶対である黒崎は、この獣に自ら腰を突き出し貫かれていた。
「…ああんっ…いたい…いたいよぉ…」
「痛いだけか?黒崎」
獣に後ろから貫かれた状態の黒崎を、お前は一歩離れた所で見ていた。その瞳には何も映してはいない。ただ冷たく俺達を見下ろすだけで。
「…ああ…いたいです…いたいです…ごしゅじんさま……」
「これでもかい?」
「ああんっ!!」
お前の綺麗な指が無防備に出されている黒崎自身に触れた。それはお前の指が触れる前から確かに、形を変化させていた。―――ケダモノの肉棒に貫かれて……。
「…あんっ…あああ……」
「もう先っぽから液が出ているよ、黒崎」
「…ああ…だって…ごしゅじんさまの…ごしゅじんさまのて…だから……」
前をお前の手に玩ばれながら、後ろを先生のソレに貫かれている。通常の人間よりも大きなそのケダモノの凶器に。
「あああああ―――っ!!!!」
堪えきれずに黒崎は欲望を吐き出した。そしてそれと同時に黒崎のソコから、紅い色ではない液体が足元に伝った。真っ白な液体が。
「イッたかい?黒崎…そして先生も…」
お前は手にしていた鎖を引っ張った。その先には先生の首に掛けられている首輪に繋がっている。狼のままの先生を引っ張って、そして黒崎から身体を離せさせた。
「ウウウ……」
「くす、まだ欲望を出し切れてないのかい?いいねぇ、狼は。虎とは違って攻撃的で、僕は楽しいよ」
お前は口だけで笑いながら、その掴んでいた鎖を柱に付けた。そしてそのまま狼をまるで犬のように忠実に従わせる。―――狼、すらも…。
「それに比べて君は……」
今日初めて、初めてお前が俺を見た。その俺を蔑むような視線が、俺にとっては堪らない程ぞくぞく来る。その視線が俺にとって。
「醍醐君…少しは僕を楽しませてくれないとね」
近づいて、俺の顎にお前の手が掛かる。それだけで。それだけで俺は期待に胸を膨らませるのを押さえ切れない。
「…如月……」
声だけで自分が欲情しているのが分かる。身体中の血が逆流して、お前の触れている箇所に集中する。その指を。その指をもっと違うところへ…。
「そんな欲しそうな目をすると逆に上げたくなくなるよ」
そのままお前の綺麗な指は俺から離れていった。その代わりにお前は、まだ息の荒いま倒れている黒崎の前に立つ。
「…ごしゅじん…さま……」
如月の気配を察した途端、黒崎は顔を上げた。どんなに辛くても黒崎にとっての『ごしゅじんさま』は絶対なのだから。
「気持ち良かったかい?」
お前の問いに黒崎は首を左右に振った。頭が取れるんじゃないかと言うくらい、必死に。
「…おれ…ごしゅじんさまのでないと…ないと…いやです……」
ぽろぽろと零れる涙は快楽の為なのか、それとも本当にお前の為に泣いているのかは分からない。ただ黒崎の事だから、本当に泣いているのだろう。
「でも腰をあんなに振っていただろう?」
「…ちがいます…おれ…おれ……」
「―――まあいい、おいで」
「はいっ!ごしゅじんさまっ!!」
お前の言葉にぱっと嬉しそうな顔をすると、如月の腕の中に飛び込んだ。そんな黒崎を後ろから如月は抱き寄せると、そのまま足を限界まで広げさせた。
「…あんっ……」
「血と精液で溢れているよ」
くすくすと笑いながら、お前は黒崎の最奥に指を忍ばせた。長くて綺麗な指。その指が黒崎の媚肉の中で蠢いている。
「…あぁん…だっていっぱい……」
「うん?」
「…いっぱい…なかに…だされた…あんっ!」
くいっとお前の指が折り曲げられて、秘所からどろりと血と精液で混じった液体が太股に掻き出される。そしてその滴った液体を、お前の綺麗な指がその跡をなぞった。
「でも全部ココで飲み込んだんだろう?」
「…あぁ…だってぇ…ごしゅじんさまが…ごしゅじんさまが…しろって…いったから……」
「そうだね、黒崎。僕が言ったんだ。それよりも」
「あんっ!」
耳たぶを噛みながら、お前は俺の目の前に黒崎の秘所を暴く。そこは如月の凶器を求めて、淫らに蠢いていた。
「醍醐君に、見せてあげるんだ。僕を咥えてよがっている姿をね…」
「…はい…ごしゅじんさま……」
黒崎の指が如月のソレに掛かる。太くて硬いその黒光りする物体に。俺は。俺はソレが堪らなく欲しい。欲しい、それを俺の中にぶち込んで欲しい……。
「あああ―――っ!!」
ずぶりと音を立てながら、黒崎の中に如月が挿ってゆく。内臓まで貫く程の大きなソレが黒崎の中をいっぱいに満たしてゆく。
「…ああんっ…ああっ…いっぱい…いっぱい、はいってる……」
「まだだよ、黒崎。全部挿っていないよ」
「…ああ…ごめんなさい…ごしゅじんさま…ごめんなさい……」
「ほら全部、挿れるんだ」
ぐいっとお前が黒崎の腰を引き寄せる。それと同時にずぶずぶと濡れた音を立てながら、黒崎の中に全て埋め込まれてゆく。
「ああっ…あついです…あつい……」
口許から涎を垂らしながら、黒崎は必死で喘いだ。腰を動かしながら繋がった部分が擦れあって熱を放つ。俺はその熱さを知っている。あの気が狂わんばかりの激しい熱さを…。
あのどうしようもない程の、熱さを…俺は…俺は知っている……。
「…うっ…あ……」
俺は何時しか自らの指を胸の突起に這わしていた。それは痛いほどに張り詰めて、触れるだけでじんじんと痺れる。
「…あぁ…はぁ……」
胸を弄っていた手は何時しか俺自身に辿り着く。それはもう天を突き上げんばかりにはちきれそうになっていた。
「…ああっ…あぁ……」
どくどくと脈打つソレは先端を抉っただけで、達しそうだった。けれども今吐き出しても満たされる事はない。分かっている、俺が満たされるにはお前の。お前のその肉棒が俺を貫いてくれないと、辿り着けない。
――――お前が俺の中を、満たしてくれないと……。
「ああああっ!!!」
どくんっ!と音がして、黒崎の中にお前の白い欲望が吐き出されるのが分かった。飲み切れないお前の精液が、どろりと黒崎の太股に伝わる。それを。それを見ながら俺は、最初の欲望を自らの手に吐き出していた。
「くす、早いね…黒崎は…醍醐君も……」
「…だって…ごしゅじんさまの…だから……」
うっとりとした表情で黒崎はお前を見上げていた。快楽の名残で息を弾ませながら。後ろを向いていた黒崎はのろのろとお前の方へと向きなおすと、その腕を首筋へと絡ませる。
「…ごしゅじんさまが…いっぱいおれのなかにはいって…すごくきもちよかったです……」
「村雨よりもかい?」
お前の言葉に黒崎は泣きそうな顔をした。実際頬から零れた涙は、快楽のためだけではないだろう。それでもお前にはその涙すら届く事はないのだろう。その凍った心には。
「…むらさめは…むらさめは…おれ…おれ……ごしゅじんさまだけです…」
「―――村雨が聴いたら、哀しむかもしれないね。まあ僕にはどうでもいい事だけれど」
「…ごしゅじんさまだけの…ものです……」
顔をくしゃくしゃにしながら、黒崎は如月にキスをした。ああ言う風に何処までも素直になれるのは逆に羨ましかった。あんな風に、お前をねだれるのが…。
「こんな激しいキスをしていたら、後ろにいる醍醐君はまた欲情するかもしれないよ」
「…あんっ…いいです…」
くちゃくちゃと音を立てながら、舌を絡め合うふたり。お前の舌が生き物のように、黒崎の舌を絡め取る。その蠢く舌を俺にも、欲しい。
「――黒崎……」
「…はい?ごしゅじんさま」
「先生の鎖を外してやってくれ。先生もまだ足りないみたいだし…醍醐君もまだ満足していないみたいだからね」
「はいっ!ごしゅじんさまっ!!」
その言葉に黒崎は満面の笑顔で頷いて、犬神先生の元へと向かうと鎖を外した。その手つきがぎこちなく不器用で、解くのにはしばらくもたついたが。
―――カチャン…乾いた音がして、鎖が床に落とされる。一匹の狼が、この快楽の館と言う無限の森に放たれる。
「虎が狼に犯されるってのも、中々一興だね」
如月の言葉が合図になって、先生の肢体が俺の身体の上に圧し掛かって来た。獣のままのその姿で。
「…うっ…あっ……」
人間とは明らかに違う舌が俺の身体を滑ってゆく。ざらついた舌が俺の身体を…。それは今まで味わった事のない悦楽だった。
「…あっ…あぁっ……」
唾液が身体中に散らばってゆく。そのせいでぬめぬめとしてゆく身体に、獣の毛が滑ってゆく。そのもどかしいちくちくとした感触がまた、ひどく俺の快感を呼び起こしてゆく。
「醍醐君、変身してみなよ。その方が面白い」
お前の冷たい声が、俺の頭上に降って来る。快楽に潤んだ視界で見上げれば、少し離れた所でお前は口元だけで笑っていた。腕に黒崎を抱きながら。その手は黒崎の肢体を滑り、感じ安い部分を的確に攻めている。俺も…俺も…お前にそうされたい……。
「…あっ…あぁ…だいご…とらに…なるの?」
「君も見たいかい?」
「…みてみたい…あんっ、ごしゅじんさま……」
「だって、さ。醍醐君変身してみなよ」
くすりと笑ってそう言うお前に、俺は逆らう事は出来なかった。けれども。けれども快楽のせいで意識が集中出来ない俺は、完全に変身する事が出来なかった。
「随分と、面白い格好だ…見てみなよ黒崎」
「…んっ…あぁ…ほんとう…です…ごしゅじんさま…へんです……」
「くすくす、醍醐君。耳と尻尾だけが変身するなんて…そんなマニア向けの変身…先生が喜ぶと思うかい?」
「…で、でも…俺は…これ以上は…無理…だ……」
「だそうですよ、先生。僕としてはあまり面白くないが…まあいいだろう。後は先生のお好きに」
くすりとお前は獣の先生に向かって笑うと、再び黒崎の身体を征服していった。
「…あっ…あぁ……」
背中に爪を立てられて、そのまま抉られる。その痛みすら、快楽になる。ケダモノの爪が俺の背中を抉ってゆくのすら。そして。そして後ろから人間ではないソレが俺の中にぶち込まれる。ずぶずぶと、濡れた音を立てながら。
「あああっ!!!」
余りの大きさと硬さに、俺の身体は真っ二つに引き裂かれるような痛みを感じた。けれどもその肉棒は俺の都合など構いなしに、ずんずんと奥へと侵入してくる。
「醍醐君はソコにモノを挿れ過ぎているから…随分緩んでいるだろう?先生のぐらいでちょうどいいんじゃないか?」
「…うああっ…あああっ!……」
ズンズンと、内臓まで響くその熱さと硬さ。ダイレクトに感じる血脈の音。そのどれもこれもが俺を狂わせてゆく。狂わせて、ゆく。
「…しっぽ、たってる……」
何度目かの射精を終えた黒崎が、甘い息を交えながらそう言うのが俺の耳に届いた。今人間ではない耳になった俺には、いやがおうでも数十倍聴覚が研ぎ澄まされていた。だからこそ、この身体の中に埋め込まれている濡れた音が、まるで全身を支配するように俺に届いて来るのだから。
「そうだね、黒崎…そうだ、あの尻尾を引っ張っておいで」
「はい、ごしゅじんさま」
ととと、と黒崎が近づいてくる音が聞こえる。足音すらもこんなにもダイレクトに響いてくるのだから、身体の中の抉られる音などもっと。もっと俺の中に支配される。
「うあっ!!」
先生の凶器に抉られている横で、黒崎が俺の尻尾を引っ張った。その途端びくりっと俺の身体が跳ね上がる。それによって、最奥に埋められている先生のソレを結果的にきつく締めつける事になった。
「ウウウ……」
「くす、黒崎醍醐君は尻尾を引っ張られると締め付けがよくなるみたいだよ。先生も悦んでいる…もっと引っ張ってあげるんだ」
「はい、ごしゅじんさま」
「…あうっ…あああっ!!」
力任せに引っ張られる尻尾。その度に跳ね上がり、奥の先生を締めつける。それが。それが次第に俺の意識を呑み込んでゆく。
「ふうん…感じると耳も立つんだ…動物ってのは面白いね」
「…あぁ…ああああ……」
「黒崎、尻尾を舐めてやれ」
「はい、ごしゅじんさま…はむっ……」
「…はぁ…あああ……止めろっ…黒崎…ソコは……」
「…んんっ…ふむ…ん……」
「…そこは…ああ…もう…俺は…俺は……」
「―――あああああっ!!!」
後の事は、俺はもう何も覚えていない。ただひたすら腰を振り続け。振り続け、先生を奥へと受け入れる事しか。俺の媚肉は裂けて血を流したが、そんな痛みよりも激しい快楽が俺を襲って。襲って、ひたすら腰を振らせるだけだった。
―――ただひたすら、欲望のままに……
「ケモノは、所詮…ケモノ…思う存分欲望にまみれるがいいさ……」
戻れない事は分かっている。
もう戻れない事は。そして戻りたくない事は。
この巡りゆく快楽の波に身を浸した時から。
もう二度と、戻れない事は。
まともな人になんて、戻れない事を。
―――こうして、ケダモノのして生きてゆくしかないと……。
End