Moon


…貴方の声が、聴きたい……

何処にゆけば、いいの?何処にゆけば、貴方に逢えるの?
声を上げても、その名を呼んでも。

…ただ帰ってくるのは…波の音ばかり。

「…如月…さん……」

君を見ているのは蒼い月と、そして僕だけ。
冷たい水の中を掻き分けながら、僕の名を呼ぶ君。

…ごめんね…君を独りにさせた……
全てを拒絶した君が…君がたったひとつだけ信じてくれた、僕との約束。
…ごめんね……

何時も君のそばにいるのに、君に触れる事が出来ない。

「…如月さん…何処にいるの?…如月さん……」

蒼い月と、蒼い海と。
…そしてそこにいる、君。
たった独りでその蒼の全てに吸い込まれている、君。
…綺麗だと…綺麗だと、想った。

「…如月…さん…逢いたい……」

零れ落ちる涙が、僕の為に泣いてくれるその涙が。
愛しいから。愛し過ぎるから。
だから、哀しい。

この手でその涙を拭ってやれない事に。

逢いたい、声が聴きたい。
貴方の瞳が見たい。貴方の腕の中で眠りたい。
……貴方に逢いたい。

逢いたい、逢いたい、逢いたい、逢いたい。
…ただ…それだけなのに……。

君の涙をこの手で拭えないのなら…
僕は風になって君の涙をさらおう。

…今は君に、それしか出来ないから……

「…僕…貴方にね、いっぱい謝る事があるの…」

「今まで、素直じゃなくてごめんなさい」

「…本当はね…ずっと貴方が好きだったの…でも…一度も好きって言わないでごめんなさい」

「貴方に何もしてあげられなくてごめんなさい」

「貴方は僕に抱えきれない程たくさんのものをくれたのに…僕は貴方に何も出来なくて…ごめんなさい…」

「…ごめんなさい…ごめんなさい…」

あやまら、ないで。
君が僕にくれたものは。たったひとつだったけど。
僕にとってそれが。
それが自分の生きていた全てを引き換えにしても構わない程、大切なものだから。
だから、謝らないで。

君がくれたのは、どんなものにも引き換えが出来ない大事な、大事なもの。
…君の、気持ち。
何よりも綺麗で、何よりも純粋な。

…君の…愛………。

「…ごめんな…さい……如月…さん………」

何も出来ないから、だから。
風になって君を包み込んだ。
君に僕の顔が見えなくても。君に僕の声が聴こえなくても。

…僕は…ここにいるから……

『だから、泣かないで…紅葉……』

      



 

End

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